IT製品や校舎の工夫で「主体的な学び」を実現
「iPad mini導入」は始まりにすぎない――同志社中学校がIT活用に挑む訳
生徒がより主体的に学ぶための「学びの場」を実現すべく、米Appleのタブレット「iPad mini」をはじめとするIT製品を導入した同志社中学校。その活用の模様をリポートする。
同志社中学校(京都市左京区)は、美しい自然が残る比叡山の麓(ふもと)にある(写真1)。同志社発祥の旧今出川キャンパスから、2010年に総面積10万平方メートルにも及ぶ現在の岩倉キャンパスへ移転した。広大な敷地内に小学校、中学校、高等学校が併設されている。
校舎移転に伴い「教科センター方式」という新たな教室運営方式を取り入れた同志社中学校は、新校舎もそれに合わせたデザインにした。教科センター方式とは、各教科の教員が教室へ出向いて授業するのではなく、生徒に毎時間、各教科の専門教室へ移動してもらって授業をする教室運営方式のことだ。
同志社中学校の特徴は、校舎全体を教科ごとのゾーンに分けるだけでなく、「メディアスペース」という、交流や啓発を目的とした学びの共有空間を各ゾーンに設けていることだ。校舎全体が生徒の知的好奇心を刺激し、幅広い分野における興味・関心を引き出すよう工夫している。
教科センター方式の導入と、それに伴うに校舎レイアウトの工夫に、タブレットなどのIT製品の活用を組み合わせることで、生徒がより主体的に学べる環境作りを目指す同志社中学校。2014年度には、新中学1年生293人に米Appleの「iPad mini 2(旧称iPad mini Retinaディスプレイモデル、以下iPad mini)」を私物端末として購入してもらい、本格的なタブレット活用をスタートした。
同志社中学校は、タブレットをはじめとするIT製品をどう生かしているのだろうか。同校におけるIT活用の取り組みについて、導入責任者である図書・情報教育部主任の反田 任教諭に話を聞いた。
知的好奇心を刺激する学びの場を作り出す「教科センター方式」
同志社中学校におけるIT活用の現状について紹介する前に、同校が採用した教室運営方式である教科センター方式について、あらためて説明しておこう。
一般的な教室運営方式を採用する学校では、「1年C組」「2年E組」などクラスごとに教室を用意する。理科や実技教科などで特別教室を使う授業以外は、生徒がいる教室に科目担当の教員が来て授業をする形だ。
一方の教科センター方式では、生徒はクラスに所属しつつも、原則として毎時間、各教科の教室へ移動して学ぶ。生徒は同じ教室で1日中過ごすことがない。教科センター方式は欧米の学校では一般的であるものの、国内ではまだ導入例が限られている。
教科ごとのゾーン分けで「主体的な学びの実現」を体現
教科センター方式の導入を踏まえ、同志社中学校は校舎のフロアを国語、英語、数学などの教科ごとにゾーン分けしている(図1)。それぞれのゾーンには上述したメディアスペースを確保。その他、授業で使用する「教科専門教室」と、教員の教務室である「教科ステーション」、生徒が過ごす「ホームベース」がある。メディアスペースや教科専門教室を中心とした校舎全域に計47台の無線LANアクセスポイント(AP)を設置し、ネットワーク環境を確保している。
メディアスペースは、生徒同士、あるいは生徒と教員の交流や啓発を目的とした学びの共有空間だ。近年、大学などを中心に導入されている「ラーニングコモンズ」とコンセプトがよく似ている(写真2)。ここでは、教科に関する書籍や資料、生徒の作品などを数多く展示している。
同志社中学校は、メディアスペースを生徒の興味や関心、知的好奇心を刺激するような学びの空間/場として位置付けている。生徒は休み時間や放課後などにそのスペースを自由に使って過ごすことができる。教員が常駐する教科ステーションは、このメディアスペースに隣接しており、教員との交流もしやすいよう配慮している。
教科専門教室は一般的な授業用教室だ(写真3)。全ての教科専門教室にはホワイトボード/黒板に加え、電子黒板やプロジェクターを整備。これらの機器を操作するAVコントローラーも備え付けている(写真4)。
上述の通り、生徒には一日の大半を過ごす決まった教室がない。その代わりに、所属するクラスごとに設けているのがホームベースだ(写真5)。ホームベースには、ロッカーと机、クラスの掲示板があり、生徒は休み時間に次の授業で使う教科書をピックアップしたり、友人と談笑したりして過ごす。ホームルームや学園祭の準備などでクラス全員が集まるときは、ホームベースの向かいにある教科専門教室を利用する。
「ノーチャイム制」で時間管理を身に付ける
施設面だけではなく、制度面でも主体的な学びを促す工夫を凝らす。具体的には、チャイムを鳴らさないノーチャイム制を採用。生徒は当日の時間割を表示するディスプレーや時計を見て行動する(写真6)。ディスプレーや時計は校内の至るところに設置している。反田教諭は「ノーチャイム制にすることで生徒が自発的に教室へ向かうようになった。生徒のタイムマネジメント能力養成につながると考えている」と話す。
同志社中学校は、生徒が主体的に活動できる場面を作り出すこれらの工夫により、創立から続く「自由、自治、自立」の精神育成を目指している。
「知的好奇心の活性化」にIT製品を生かす
上述の通り、同志社中学校は2014年度入学の全中学1年生を対象にiPad miniを導入した。教員向けには、生徒用の予備機として用意したiPad miniを貸し出している。自分の端末を自由に使いたいと考える教員のために、教員の私物端末の持ち込みと学校の無線LANへの接続も許可している。
同志社中学校は、基礎的な学びから思考力・創造力の育成までiPad miniを幅広く生かし、生徒の知的好奇心の活性化を狙う。その考えは、同校のiPad mini導入コンセプトである「iPad×ABC」に如実に表れている(図2)。「ABC」は「学びの基礎・基本」の意味に加え、
- Active Learning(能動的な学習)
- Blended Learning(学びにeラーニングを取り入れた学習)
- Collaborative Learning(協働的な学習)
のそれぞれの頭文字を表す。このコンセプトはiPad miniにとどまらず、同校のIT製品活用の方向性を示すものだ。教科センター方式導入や校舎の工夫と相まって、生徒の主体的な学びを促進する。
「小型」「安価」がiPad mini選定の鍵
実は同志社中学校は、2012年のタブレット実証検討の開始時に9.7インチの「iPad」20台を導入したいきさつがある。本格導入前年の2013年度には、さらに40台のiPadを追加購入して試験的な活用を試みた。試験導入時に活用していたiPadではなく、最終的に7.9インチとより小型のiPad miniを選定したのは、「中学生の学習スタイルや通学状況を考慮した結果だ」と反田教諭は話す。
中学生は教科書やノート、ワークシート、資料集など、さまざまな学習用品を机に広げて学習することが多い。そのため、より小型なiPad miniの方が便利だと考えたのだ。また同志社中学校は遠方から通う生徒も多く、カバンの重さが通学の負担になることも考慮した。
コスト面においても、iPadよりも価格が若干安めなiPad miniであれば、保護者の負担を多少なりとも抑えることができる。新中学1年生はこれまで電子辞書を購入していたが、iPad miniの導入で電子辞書を別途購入せずに済むようになるなどの利点があることで、スムーズな導入ができると考えたようだ。
WindowsやAndroidも評価、5つのポイントでiOS端末に絞り込み
タブレットにはiPad/iPad miniといったiOS端末だけではなく、WindowsタブレットやAndroidタブレットもあり、それぞれ教育機関で活用されている。同志社中学校もこうした複数のタブレットを総合的に評価し、最終的にiPad miniを選んだ。
タブレット選定に当たり、同志社中学校が評価基準としたのは以下の5つだ。
- バッテリーの持ち時間
- 操作の容易さ
- 画面の可読性と操作性(画面の明るさ、文字表示の明瞭さ、拡大縮小操作のスムーズさ、反応の速さなど)
- 授業で活用できるアプリの豊富さ
- 価格
これらの基準を基にiOS、Windows、Androidタブレットを比較してiOS端末に絞り込み、さらにiPadと比べて小型で安価であることからiPad miniを選定した。
「MDM」「ポータル」の導入でタブレット活用を支える
タブレット導入に取り組む教育機関の間で関心が高まりつつあるモバイルデバイス管理(MDM)製品については、2014年度の導入は見送り、2015年度に導入する。MDM製品の導入を遅らせたのは、iPad miniの活用に不可欠な無線LAN環境の整備を優先したためだ。無線LAN環境の整備が完了したのは、iPad mini導入後の夏休み中だったと反田教諭は説明する。「iPad mini導入の直後は、専用のAPを持ち運び、教室内の情報コンセント(LANソケット)に接続して使っていた」(同)
同志社中学校はMDM製品導入までの間、生徒のiPad miniを管理するために、Appleが無償提供する管理ツール「Apple Configurator」を使用している。Apple Configuratorをインストールした「Mac」と、米Ergotronの充電機能付き同期カートを導入。Macに複数のiPadをUSB接続し、一斉管理するのだ(写真7)。
反田教諭は、Apple Configuratorのメリットについて、「アプリの購入や生徒のiPad miniへの導入、アプリのダウンロード制限などが、教員でも比較的簡単にできる」ことを挙げる。ただし、MacへUSB接続をしなくても設定を変更できるようにしたり、リモートロックなどのセキュリティ対策を可能にしたりするために、MDM製品を導入する方針は変わらないという。
加えて同志社中学校では、学習ポータル構築のためにオープンソースの情報共有システム「NetCommons」(開発:国立情報学研究所)を利用し、タブレット活用の幅を広げている(画面1)。構築した学習ポータルは、教材の配布や小テストの実施、授業動画の共有など「現状では生徒の予習や復習の場面で使うことが多い」と反田教諭は説明する。今後は、生徒の作品などのデジタルコンテンツも学習ポータルで紹介可能にする他、授業内でも積極的に活用していくことを視野に入れている。
NetCommonsについて反田教諭は、オープンソースならではのコストメリットに加え、「用途に応じてすぐにカスタマイズできるのがメリットだ」と評価する。一方、オンプレミスであることから「校内で管理する人員を配置しなければならないことが負担だ」と指摘する。同志社中学校では、Linuxサーバ構築とNetCommonsのインストールまでは外部業者に有償で委託。運用管理はNetCommonsのトレーナー資格を所持する反田教諭自身が担っている。反田教諭は、他の教員を対象とした研修会を開くなどして、NetCommonsの運用管理ができる人材を増やしていく考えだ。
納得感のあるタブレット活用ルールは「やりながら考える」べき
中学校におけるタブレット導入では、運用上のルールをどう設けるかがよく議論になる。生徒が自由にタブレットを使うのを認めるべきか、利用を厳しく規制すべきか。教育関係者の中には、中学生のタブレット活用は人間関係にも影響が及びやすいと考え、教育現場での活用に懸念を抱く人も多い。
同志社中学校の場合はどうか。反田教諭は、「全体的にゆるやかなルールを設けて、後は『やりながら考える』というスタンスで始めた」と語る。あらかじめ設けたルールは、以下のようなものだ。
- 使用しない時は個人ロッカーに入れて保管する
- 授業での使用は担当教員の指示に従う
- オンライン同期機能「iCloud」は使用しない
- 端末は自宅で充電してくる
iPad miniの導入後も、校内の声を基にルールを見直している。例えば、タブレットを持たない上級生から図書・情報教育部へ寄せられた「“歩きiPad”はやめてほしい」「写真を撮るときは周りに気を付けてほしい」といった要望を基に追加したルールもあるという。反田教諭は「生徒は、『社会で問題視されている行為は学校でもマナー違反』であることを理解している。さまざまな意見を拾って共有することで、生徒にとっても学校にとっても納得感があるルールを決めていくことができるのではないか」と考えている。
「デジタル」一辺倒ではなく「アナログ」も有効活用すべき
同志社中学校が心掛けているのは、全てをITへ移行するのではなく、適材適所でデジタルとアナログの手段を使い分けることだ。アナログの手段としては、教科センター方式やそのための校舎作りを通して実現した「空間」「場」を最大限に生かす。
象徴的なのが校舎の壁面利用だ。教科ごとのゾーン内では、メディアスペースを中心に専門的な興味や関心を引くような書籍や資料を数多く展示。同時に生徒が授業で学び、学習内容をまとめたポスターなどの作品も壁一面に掲示している(写真8)。
「生徒は他の学年の作品を見たり、友人や自分の作品がどこに掲示されているかを探すのを楽しみにしている」と反田教諭は語る。学ぶプロセスではITを取り入れつつ、学んだ成果を披露する場ではアナログな要素を大切にする。デジタルとアナログの両方の良さを生かすことで、生徒の学びを深めていけると同氏は考えている。
今後の展開について反田教諭は、「将来的には生徒が好きなデバイスを持って学校に来ることを想定しており、そのためにデバイスフリーの環境を整える必要がある」と話す。そのため、「学校運営からクラス運営、教材作りに至るまで、デバイス依存にならないように意識しながらiPad miniを活用している」(同)。iPad mini活用の先を見据え、同志社中学校は着実に動き始めている。
執筆者紹介
神谷加代(かみや かよ)
フリーランスライター/ブロガー。結婚を機にサンフランシスコに移住し、日本語の絵本を扱ったECサイトを運営。その後、10年の在米生活を経て帰国し、主婦ブロガーとして「家庭×教育IT」に関する話題をメインにした「主婦もゆく iPad一人歩記」を執筆。家庭や教育におけるITの在り方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ITの分野を中心にライター業、子ども向けプログラミング教室の講師として活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』。
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