「iTeachers カンファレンス」リポート
もし“普通の公立中学”がiPadで英語授業を始めたら
iPadを英語授業に生かす佐賀市立大和中学校。教育IT化の先進県といわれる佐賀にあって、同校のiPadは教員が自腹を切って購入した6台のみだという。同校の取り組みを見ていこう。
2014年度に県立高校の全入学生約7000人がWindows 8タブレットを授業で利用するなど、教育現場へのIT導入に積極的なことで知られる佐賀県。ただし、県下の全ての学校が、十分な数のIT機器を導入/活用しているわけではない。佐賀市立大和中学校もその一例だ。同校は、教員が自己負担で購入した6台のタブレットを授業に生かすべく知恵を絞っている。
教育現場へのIT活用を実践する教育者チーム「iTeachers」が2013年8月に開催した教育関係者向けイベント「iTeachers カンファレンス 2013 Summer」で、大和中学校の英語科教諭である中村純一氏が講演。iPadを活用した英語授業の取り組みを披露した。
iPad導入の経緯:“アンフューチャースクール”で何ができるかを模索
豊富なIT環境を整備した先進的な学校である「フューチャースクール」。中村氏は、同校の現状はその対極にある“アンフューチャースクール”だと語る。
同校は学校の備品としてタブレットを配備しているわけではないが、プロジェクターも電子黒板も配備しており、機器は比較的そろっているようにも見える。だがプロジェクターは、3台あるうちの1台しか正常に稼働せず、「先生間での取り合いが起こる」。一方の電子黒板も、ソフトウェアがなく「通常のモニターとしてしか使用していない状況」だという。
「“アンフューチャースクール”で、どんなことができるのかを試してみたかった」。中村氏は、iPad活用の取り組みを進めた動機をこう説明する。1994年から作曲用途にMacを活用するなど、もともとApple製品に注目していた中村氏。個人で活用し「教育に役立つ端末だ」と評価していたiPadを授業用端末として選定し、6台のiPadを自己負担で購入した(写真1)。この6台のiPadに加え、過去に購入した私物のiPadを1台、教員への貸し出し用として学校に提供している。
生徒も教員もiPadに不慣れ
現在の中学生は、生まれたときからコンピュータに親しんできた「デジタルネイティブ」世代だとされる。だが、「初めて教室にiPadを持ち込んだときに「『何その板?』という生徒もいたほど」、iPadは生徒の間に十分に浸透しているとはいえなかったという。
当然ながら家庭でiPadを購入している生徒もいるが、同校生徒が通っていた小学校には「タブレットもなく、電子黒板もあるかどうか分からない状況」。iPadなどのコンピュータに初めて触れる生徒も少なくなかった。iPadの使い方に慣れてもらうため、当初は地図アプリの使い方など初歩的な作業から習得してもらったという。
iPadに不慣れだったのは生徒だけではない。教員の中にも、「iPadを見るのが初めて」という人も少なくなかったという。「iPadの画面を触って、表示内容が変わること自体に驚く教員もいた」
中村氏は、教員にも生徒にもiPadを無理に使ってもらおうとはせず、自然に利用してもらうことにこだわった。例えば、デジタルビデオテープを使った動画作成に悩んでいる教員を見つけては、iPadで動画撮影から編集までの一連の流れを実演し、デジタルビデオテープよりも簡単に動画を作成できることを示すなどの工夫を重ねた。
こうした取り組みの結果、「『iPadを貸してほしい』と言う先生が増えた他、3、4人の先生が自費でiPadを購入するに至った」という。
iPad活用の現状:班で1台のiPadを活用
中村氏の英語の授業では、1班6人で1台のiPadを利用。机を並べた真ん中の部分にiPadを置き、班全員で共有する(写真2)。iPadは、ドリルや書き取りといった個人作業ではなく、班単位、クラス単位の共同作業に利用している。
中村氏が授業で利用するiPadアプリは基本的に無料アプリだが、入力された単語を発音する音声合成ソフトの「Word Wizard」などの有料のアプリも幾つか購入し、利用している(Word Wizardについては「大阪大学がiPadで語学学習、『発音の個別指導』を講義で実現」を参照)。有料アプリは、「iPadの購入時にキャンペーンでもらった」という1万円分のiTunes Cardで購入した。
紙芝居アプリ:英語への苦手意識を克服
ユニークなのが、iPadを使ったペープサート(紙人形劇)作成の授業だ。不定詞の名詞的用法の習得などで実践した。生徒は、「Puppet Pals HD」というペープサート作成用アプリを利用し、“I want to be a teacher.”といった不定詞の名詞的用法を使った会話を盛り込んだペープサートを作成。日本語字幕の追記といった編集作業も経験している。
なぜ、紙人形劇を英語の授業に盛り込んだのか。「生徒が、何かを表現するための“道具”として英語を学ぶことで、『英語を学ばされている』という感覚から抜け出してもらいたかった」と、中村氏はその理由を語る。英語を苦手とする生徒が多いことから、「外国語は、言葉自体を学ぶのではなく、何か別のことをするために学ぶのだと認識してもらう」ことで、苦手意識の払拭を狙う。
Web会議アプリ:韓国の高校生と交流
iPadを使って班やクラスで交流しながら英語学習を進めると、「もっといろいろな人と話をしたい」「自分たちはどれぐらい英語を使えるのかを試したい」と思う生徒が増えてくる。こうしたときに頼りになるのがALTだが、「必ずしもALTが常駐しているわけではないのが課題だった」。
そこで中村氏が活用したのが、Web会議ツールだ。Googleの「Hangout」を利用。中村氏と交流がある韓国の高等学校の教員の協力を得て、双方の教室をHangoutでつなげて授業を進めた。英語を習得すれば、世界のさまざまな国の人と会話できるようになる。こうした実体験を通じて、「『分かるとうれしいもの』として英語を捉えてほしいと考えている」。
iPad導入の効果:「班で1台」が学びのシェアを促進
iPadの活用がもたらした効果の1つに、学んだ内容を生徒間でシェアする動きが広がったことを中村氏は挙げる。例えば、iPadを使って分からなかった単語の意味を調べた生徒が、調べた内容を他の生徒に話し、生徒同士で教え合う光景が多く見られるようになったという。
これは、1人1台ではなく、「班で1台のiPadを共有している効果」だと中村氏は説明する。冒頭でも触れたように、教育機関には1人1台のタブレットを配備する動きもある。ただし、「生徒は必ずしも1人1台を望んでいるわけではない」と中村氏は考える。「『タブレットが1人1台あると、どうしても自分の世界に入り夢中になってしまう』『複数台を共有した方が、他人の考えを知りやすい』といった理由で、複数人で1台を利用する方がいいと考える生徒は多い」
学びのシェアを進めるには、教員の意識も大切だと中村氏は強調する。「クラスの誰かが見つけたことを見つけ、クラスでシェアするのも教員の重要な役割だ」
iPad導入で見えたこと:「学び」は「ゲーム」を超える
教育現場でのタブレット活用に関する議論でよく挙がるのが、「タブレットを使って授業中にゲームをしてしまうのではないか」という懸念である。実際、「iPadを渡した瞬間、『何でパズドラ(パズル&ドラゴンズ)が入ってないの?』と聞き始める生徒もいた」と中村氏は明かす。だが「iPadを使った授業を2、3回すると、『iPadでゲームをしたい』という声は聞かなくなった」。
ゲームに変わって生徒が関心を向け出したのは、iPadを使った英語学習そのものだった。生徒は、休み時間であってもiPadを使って単語の発音確認をするなど、遊びながら英語を学習し始めたという(写真3)。「iPadを活用した学習が『ゲームを超えた』と感じた瞬間だった」
今後は、「ゲームを超える要素を教員がどれだけ提供できるかが重要になるはずだ」と中村氏は気を引き締める。
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