淡路市立北淡中学校のiPad活用事例も紹介
“iPadのばらまき”に終わらせない――淡路市が先生にiPadを託す理由
自治体レベルのタブレット導入はモデル校や実証校を決めて製品を配布する形が一般的だ。だが兵庫県淡路市では、教員に必要な機材一式を貸与する形で進めている。その中身とは?
自治体主導で進めるタブレット導入は、まずモデル校や実証校を選定し、その上で学校単位にタブレットを配布する形が一般的だ。全国に先駆けていち早くタブレットを導入した佐賀県や東京都荒川区に加え、現在導入計画が進む大阪市など、ほとんどの自治体は同様の方法でタブレット導入を進めている。
兵庫県淡路市が取ったタブレットの導入方法は、こうした学校単位の配布とは一線を画す。市内の小中学校を対象にタブレット導入を進める淡路市は、モデル校や実証校を設けず、「意欲的な教員を募り、教員に必要な機材一式を貸与する」という導入方法を取る。同市ではこうした教員単位のタブレット導入方法を2012年度から検証し、2014年度にタブレット導入を本格化させた際もその方法を踏襲した。
2014年度から2018年度までの5年で、小学4年生から中学3年生までの児童生徒に、Appleのタブレット「iPad」を1人1台整備することを目標として掲げる淡路市。なぜ学校ごとではなく、教員にひも付ける形でタブレットを導入したのか。実際の活用例とは。淡路市教育委員会 学校教育課 特命参事 兼 指導主事の西岡正雄氏の話と、実際にiPadを活用する淡路市立北淡中学校の小西祐紀教諭のタブレット活用事例を併せてリポートする。
「学校備品整備」ではなく「教員貸与」にした淡路市、その理由は?
淡路島の北部に位置し、神戸市の中心街から車で約1時間の距離にある淡路市。人口約4万6000人の都市で、市内には2014年度時点で小学校17校、中学校5校がある。全国の地方都市と同様に人口減少の問題を抱えており、地域活性化の施策として教育、観光、企業誘致を3本柱に挙げる。中でも教育の質向上は人口増につながるという考えから、授業改善の1つの手段としてIT化を積極的に進めている。
そんな淡路市が2014年度からの5カ年計画でスタートしたのが、「淡路市タブレット活用教育推進事業」だ。同計画では、2018年度までに小学4年生から中学3年生までの児童生徒と教員に、タブレットを1人1台配布する目標を掲げている。毎年500台ずつのiPadを整備しており、過去2年の準備期間に導入したものも合わせると、合計約2700台のiPadを整備する計画だ。校内の無線LAN環境の整備や教育支援ツールの整備も段階的進めるという。
淡路市がタブレット導入の本格実施前に設けたのが、「淡路市フロンティアプロジェクト」という2年の準備期間だ。このプロジェクトの当初から、同市は学校単位のタブレット配布ではなく、教員にタブレットをはじめとする機材一式を貸与する形を選択した。
教員に機材一式を貸与する「研修員制度」の中身
タブレットなどの機材一式を教員に貸与する。こうしたIT製品の導入方法を淡路市教育委員会は「研修員制度」と呼ぶ。研修員制度では、まず授業でITを活用したいと考える意欲的な教員を募り、その教員に必要な機材一式を貸与する。選ばれた教員は次年度になると、新たに研修員制度で選ばれた教員の指導に当たる。
研修員制度がスタートした2012年度、まず5人の教員を選んだ。次年度の2013年度は、新たに15人の教員を選び機材一式を貸与した。タブレット導入の本格実施を迎えた2014年度は、さらに50人の教員を選定。このように、IT活用に取り組む教員を年々増やしつつ、現場で確実にタブレットが活用されることを目指し、導入方法のモデルを構築していった(表)。
| 年度 | 実施内容 |
|---|---|
| 準備期間:2年でiPadを220台導入 | |
| 2012年度 | フロンティアプロジェクト初年度 研修員5人を選択 |
| 2013年度 | フロンティアプロジェクト2年目 研修員20人を選択(内5人は2012年度から継続) |
| タブレット導入本格実施:毎年iPadを500台ずつ導入 | |
| 2014年度 | タブレット活用教育推進事業 研修員70人(内20人は2012年度と2013年度から継続) |
研修員制度で選ばれる教員は、どのような基準で選ばれているのか。西岡氏は、「最初の1〜2年目は、授業力のある教員の中から、新しいものにチャレンジするモチベーションが高いかどうかを重視して選定した」と語る。ITスキルよりも、今後大きな変化が起きる教育現場をリードしていけるような人材を選んだといえる。また、「次世代のリーダーを担う、40歳前後の教員に声を掛け、学校全体の動きに連動できるように配慮した」とも語る。
研修員制度で選ばれた教員には、以下の機材一式が配備される。
- iPad、11台(教員と児童生徒用) ※2014年度からは、一部の教員に40台を割り当て、1人1台環境に取り組む
- プロジェクター
- タブレット保管庫
- 無線LANアクセスポイント
- Apple TV
iPad、11台の内訳は、教員用1台と児童生徒用10台だ。児童生徒が3~4人のグループ学習で活用することを想定している。ただし、2014年度からは、一部の教員がiPad1人1台環境にも取り組むようになり、教員によっては40台のiPadを保有する。これらの機材は全て、研修員制度で選ばれた教員1人ひとりに貸与しているので、仮に異動になった際も、教員は異動先へ機材一式を持っていく。
“ばらまき”で終わるリスクを回避
研修員制度を選択した理由について西岡氏は、「IT活用に対して意欲的な教員にタブレットを貸与し、そこから取り組みを広げていきたかった」と説明する。
学校単位でのタブレット配布には、端末管理がしやすいなどのメリットがあるのは確かだ。だがその一方で、「学校特有の文化として、『みんなで使おう』と掛け声を挙げても、結果として『誰も使わない』で終わる傾向がある。その場合、単なる“ばらまき”に終わってしまいかねないという問題がある」と西岡氏は指摘する。
教育委員会が現場の教員に「タブレットを活用するように」と促したとしても、教員自身がIT化の取り組みそのものに価値や理解を示していなければ、長期的な活用にはつながりにくい。導入したタブレットが確実に活用され、かつ取り組みが広がる方法はないか――。西岡氏は導入方法こそが成功の分岐点になると考え、教員にひも付ける形でタブレットと必要な機材一式を貸与する形を選んだのだという。
「ICT支援員なし」でコスト抑制 MDM製品で管理負荷を軽減
もう1つの理由がコストだ。実は淡路市はタブレット導入に当たり、ICT支援員を配備していない。「淡路市は小規模で、ICT支援員の配置は財政的にも厳しい。だが逆に“スモールメリット”を生かし、教育委員会と学校現場がダイレクトに連動することを意図して、教員同士で支え合う仕組みとした」と西岡氏は語る。
淡路市のような自治体規模で、全ての学校にICT支援員を配備しようとしても、人件費を考えると現実的ではない。ICT支援員の数を絞り込めば配備しやすくなるものの、週に一度しかICT支援員からの支援が受けられないような状況になれば、頼りたいときに頼れないといった状況が生まれやすくなる。一方で研修員制度のように、IT活用の取り組みを経験した教員が次の教員を育てるような仕組みを作れば、取り組みも広がり、コスト削減も図れる、というわけだ。
ICT支援員を配備する代わりに、教員の端末管理の負担を減らす策として淡路市教育委員会が導入したのが、モバイルデバイス管理(MDM)製品である。マジックハットが販売するMDM製品「TARMAC」(開発:独TOWER ONE)を導入。同教育委員会が全管理権限を持ち、全ての端末を一斉にコントロールする役目を担うことで、教員の負担を可能な限り抑えている。
自発的思考を促す淡路市立北淡中学校のiPad活用
研修員制度の成果を知るには、実際の現場を見るのが近道だ。こうした考えの下、研修員制度でiPadを導入した淡路市立北淡中学校の授業の様子を見学させてもらった。
同校で保健体育を受け持つ小西教諭は、2013年度のフロンティアプロジェクトの際に研修員として選ばれた。同教諭が研修員制度に応募したきっかけは、北淡中学校の隣にある小学校が開催したフロンティアプロジェクトの公開授業を見学したことだったという。
小西教諭が見学した小学6年生国語の授業では、教員の出した課題に対して児童自ら考え、iPadから読み取る情報を基に課題を解決しようと、とても意欲的に参加していたという。「その姿にとても感動した一方、私の授業は、教員が教えるだけの一方通行であると反省した」と同教諭は語る。「これからの時代は、生徒が自らの学びを深めていけるような授業の仕掛けを用意していくべきではないかと感じ、フロンティアプロジェクトに応募することにした」(同)
こうして2013年度の研修員制度に選ばれた小西教諭は、2014年度からは40台のiPadを手に、1人1台のiPad活用に取り組んでいる。体育の実技指導において映像教材を用いたり、生徒が練習する際にリプレイが簡単にできる米TechSmithのビデオ分析アプリ「Coach’s Eye」を使うなど、ITの特性を生かした授業を積極的に実践中だ。取材した中学1年生保健の授業では、グループ学習における思考の可視化やディスカッション活性化の手段としてITを活用する場面がそこかしこに見られた。
小西教諭は授業の冒頭で、Appleのプレゼンテーションアプリ「Keynote」で作成した板書を黒板に写して前回までの学習内容を振り返り、その後本日の授業で進めるグループ学習について説明した。その間、生徒は各自のiPadから教材配信サービス「iTunes U」へアクセスし、アーカイブされている板書のスライドを手元で見ながら、同教諭の話を聞いていた。
続いて、今回の授業のテーマでもある「欲求不満への対処法」について、マインドマップが簡単に作成できるアプリ「SimpleMind+」(開発:オランダxpt Software and Consulting)と、iTunes Uの「討議」機能を使って班ごとに話し合う(写真2)。生徒は、互いの意見をSimpleMind+に書き出し、内容を分類、系列化していく。その傍らで、別のメンバーが班内の話し合い内容をiTunes Uへ投稿する。討議機能では、別の班が話し合っている内容もリアルタイムに反映されるので、他のグループから気付きを得ることもできる。
アーカイブされている教材や資料をスムーズに利用できるのもiTunes Uの利点だ。グループ発表のタイミングが迫ると、生徒は話し合いをやめて「良い発表の仕方」という通年で利用するファイルに目を通し、発表のポイントをチェックしていた。
班内では、1人のiPadではSimpleMind+、残りの2人のiPadではiTunes Uを表示させていた(写真3)。iTunes Uを表示しているiPadを持つ2人の生徒は、班の話し合いの内容をリアルタイムに発信する係と、違う班の意見をフォローする係に分かれる。こうしてグループ内での話し合いを進め、その後はグループごとに話し合いの内容を発表して授業は終了した。
タブレットを教員にひも付かせる研修員制度。そのメリットとして、小西教諭は以下の3点を挙げる。
- 自校で、自分の授業の好きな場面で手軽にiPadなどのIT製品を使うことができるので、効果的な授業になりそうだと思えばその場で即実践できるし、即修正もできる
- 小中学校の別や教科を問わず、他校の教員と授業実践の交流ができるので、互いに刺激し合い意欲的に楽しく授業力向上に努めることができる
- どの教員も応募した教員であり意欲的で、積極的である
一方、小西教諭は研修員制度のデメリットとして「学校でITを使う授業と使わない授業がはっきり分かれてしまうことだ」と指摘する。同教員が受け持つ保健体育の場合、男子向けの授業ではほぼ毎回iPadを使用し、女子向けの授業では使用する回数が少ないなどの違いが出てしまっているという。
小西氏はこうした問題について、「現時点では配慮も必要であり、最初の普及段階ではこうした問題が出るのもやむを得ないと考えている」と語る。その上で、「後数年たてば、ほとんどの教員がiPadを使うようになる。そうすれば自然と解消される問題だ」と説明する。
授業力向上のための研修会費用を独自予算で負担するなど、もともと教員研修に力を入れていたという淡路市。教員にタブレットを貸与する施策は全国でも極めて珍しく、斬新に映るかもしれない。だが教員と自治体のつながりも濃く、むしろその関係性を生かした形が研修員制度だといえるだろう。今後、タブレット導入を進める多くの自治体の参考事例になると考える。
執筆者紹介
神谷加代(かみや かよ)
フリーランスライター/ブロガー。結婚を機にサンフランシスコに移住し、日本語の絵本を扱ったECサイトを運営。その後、10年の在米生活を経て帰国し、主婦ブロガーとして「家庭×教育IT」に関する話題をメインにした「主婦もゆく iPad一人歩記」を執筆。家庭や教育におけるITの在り方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ITの分野を中心にライター業、子ども向けプログラミング教室の講師として活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』。
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