LINEだけではない注目アプリ、巨額買収続出の背景は
メッセージングアプリの流行をIT部門が喜ぶべき理由
企業のCIOが今後着目すべきは、コンシューマー向けメッセージングアプリ市場と、エンタープライズサーチを駆使したエンドユーザーによるビッグデータ活用だ。また、「シチズンデベロッパー」の台頭も押さえておきたい。
今日のように買収が盛んな経済において、米Facebookが新たにモバイルメッセージングアプリを追加すべく米WhatsAppの買収に費やした190億ドルという金額は、IT業界のこれまでの事例と比較してどのような位置付けとなるのだろうか。米調査会社Gartnerのアナリスト、ラリー・カネル氏が2014年の年次カンファレンス「Gartner Catalyst Conference 2014」で語ったところによれば、190億ドルは「携帯端末事業をめぐり、米Googleが米Motorola Mobilityの買収に支払った額よりも多く、コンピュータ事業をめぐり、米Oracleが米Sun Microsystemsを買収した際に払った額よりも多い」という。
メディアの見出しをにぎわせたこの190億ドルの買収でFacebookは何を手に入れたのだろうか。まずは約4億5000万人のアクティブユーザーだ。そして恐らく、多くのCIO(最高情報責任者)の注目も集めた。CIOはITのコンシューマライゼーションの現実をよりはっきりと突きつけられたと感じたはずだ。Facebookが動けば、企業も動く。
もっとも、カネル氏がメッセージングアプリに関するプレゼンテーションで指摘したように、コンシューマライゼーションの台頭はIT部門の衰退とイコールではない。「むしろ、こうした状況においてIT部門は非常に重要な役割を担う」と、カネル氏は指摘する。「コンシューマー向けメッセージングアプリ市場の勢いが企業にどのような影響を及ぼすのかを、今こそじっくり検討すべきだ」と同氏は語り、3つの留意点を示した。
まず、コンシューマー市場では既に、「1つで複数の用途に利用できるアプリはデスクトップでは大いに役立つが、モバイルデバイスでは役に立たないかもしれないこと」が確認されている。「スマートフォンにはサイズや個人的利用などの点で制約があるので、異なるアプリモデルや動作、前提条件が必要となるのは必至だ」と、カネル氏は語る。これはまさに、Facebookが不本意ながらも受け入れている戦略だ。同社はデスクトップ版の機能を幾つか“アンバンドリング”して(切り離して)、「WhatsApp」や「Instagram」など単一用途の複数のモバイルアプリに分割している。
2つ目の留意点は、コンシューマー向けメッセージングアプリ市場は、カネル氏の言葉を借りれば「爆発的に拡大」しており、メディアが「メッセージング戦争」と呼ぶ状況が生まれていることだ。カネル氏によれば、米Cotapや米Lua、米TigerText、米Red e Appなどの新興ベンダーがニッチ市場を切り開こうとしている。また米Salesforce.comの「Chatter」や米Microsoftの「Yammer」といった社内SNSもこの戦いに加わり、1年ほど前から、プラットフォームにモバイルメッセージング機能を追加している。各社とも、競争相手として見据えているのは(Microsoftに関しては、新たな代替選択肢を提供していることになるが)、米Cisco Systemsの「Cisco Jabber」や米IBMの「IBM Sametime」、Microsoftの「Microsoft Lync 2013」といった、より確立された企業向けコミュニケーション製品だ。カネル氏によれば、まずはなじみのあるものから取り掛かるのが得策だという。「満足のいくユニファイドコミュニケーション(UC)環境が既に社内に構築されているのなら、私であれば、まずはそこからチェックする」と、同氏は語る。
3つ目の留意点は、コンシューマー向けメッセージングアプリの人気はIT部門にとって好機でもあるということだ。企業向けメッセージングアプリには、従来IT部門が抱えている問題が伴う。「データを確実に保護するためにはどうすればいいか」「やりとりされる情報の再利用は必要となるか」「ワークフロープロセスをどのように合理化すれば生産性を高められるか」「データは保守して保管すべきなのか、処分しても構わないのか」といった問題だ(ついでながら、カネル氏によれば、データ管理の問題に広範囲に対処しているベンダーはまだ今のところないので、データ管理を重視する企業には恐らくサードパーティーが必要になるという)。こうした問題に答えを出すには、少なくともITの専門知識が必要であり、場合によってはIT部門とビジネス部門の連携が必要となる。
CIOには、メッセージングアプリと企業文化の変化に同時に対応するという、IT部門の枠外の役割まで求められることになる。だがカネル氏によれば、メッセージングアプリは従業員の生産性と直結しているという。従業員の生産性はビジネスの最大の関心事であり、IT部門が従来担っている領域でもある。そろそろ潜在的なチャンスに気付くべきときだ。
エンタープライズサーチでビッグデータを活用
ビッグデータのプロジェクトだからといって、何も一から取り掛かる必要はない。Gartnerのアナリスト、ダリン・スチュアート氏によれば、「ビッグデータをエンドユーザーレベルで活用するために効果的なのは、恐らく既に社内に存在しているであろう慣行に頼ること」だという。その慣行とは、エンタープライズサーチだ。
「ビッグデータの根本をいま一度見つめ直せば、“自分が抱いている何かしらの疑問や対処したい問題への洞察、知識、傾向を発見すること”だと分かる。要は、種々雑多なコンテンツから答えを引き出し、その答えをうまくまとめ合わせて、ユーザーに提示することだ」と、同氏は語る。
検索の役割も同様だ。ただし、エンタープライズサーチに従来の検索手法を当てはめてもうまくはいかない。必要なのは、総合的なインデックスではなく、「検索が強力な役割を果たせるような適切な使用事例」を見つけることだ。例えば、コールセンターのオペレーターに適切な情報を提供するといったケースもその一例だ。対応に満足できていない顧客が何度も電話で問い合わせてくるような場合、オペレーターはその顧客への応対を続けながらも、複数の無関係なシステムから過去の成否事例を拾い集め、参考にできる。
IT部門は、充実した内容のコンテンツを慎重に選択し、複数の専用インデックスに分割することによって、情報を単一のインタフェースの下にまとめられる。ユーザーはそうした専用インデックスを使って、必要な分野のデータを掘り下げたり、センチメント分析(“センチメント”とは感情や気持ちのこと)やジオコーディング(住所と緯度/経度情報の相互変換)などのビッグデータツールに情報を提供したりできる。
「この分野の興味深い取り組みの多くがオープンソースツールとクラウドを活用している。従って、データ消去やデータセンター再構成の必要がないので、企業は容易に第一歩を踏み出せる」と、スチュアート氏は語る。
具体的なプラットフォームとして、同氏は分散型コンピューティングフレームワーク「Hadoop」とオープンソースのエンタープライズサーチプラットフォーム「Apache Solr」を挙げたが、選択肢は他にもあるという。
シチズンデベロッパーの台頭
シャドーIT(会社の許可を得ずに私物端末を業務利用すること)に続いて台頭しつつあるのが、Gartnerが「シチズンデベロッパー」と称する新たな存在で、「IT部門に承認された開発環境とランタイム環境を使って、アプリケーション開発に手を出すIT部門以外の従業員」のことだ。米コンサルティング会社THINKstrategiesのマネージングディレクター、ジェフリー・カプラン氏によれば、「クラウド事業者があえて、ユーザーインタフェースをそれほどITに精通していない人たち向けの設計にして、コンシューマライゼーションの流れを後押ししていること」もシチズンデベロッパーの台頭に一役買っているという。
それでもカプラン氏は、シチズンデベロッパーが本物の開発者に取って代わることや、その種の専門知識の需要がなくなることはないと考えている。
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