ホログラムデバイス「Microsoft HoloLens」登場
「Windows 10」の成功を左右する「無料化」「ARヘッドセット」という“魔法”
米Microsoftの次期OS「Windows 10」は、新デバイス「Microsoft HoloLens」の“魔法”を借りて、企業や一般のユーザーを呼び戻すことができるのだろうか。
米Microsoftが2015年1月21日(現地時間)に開催した次期OS「Windows 10」の発表イベントでは、ホログラム対応ヘッドセットや音声デジタルアシスタント「Cortana」、セキュリティの強化、新ユーザーインタフェース「Continuum」などが発表された。近年は米Appleや米Googleを追う立場にあった企業の発表にしては、予想以上に多くの技術革新のお披露目となった。問題は、企業や一般のユーザーがそれらを全て受け入れるかどうかだ。
今回の発表の“これまでと違う新しさ”は、新OSの名称が「9」を飛ばしてWindows 10になったことにも表れていたが、同社CEOのサトヤ・ナデラ氏の次の発言でさらに確かなものとなった。「この業界の進歩には、新カテゴリが創出される瞬間が刻まれている。Windowsとホログラフィックコンピューティングもそうした瞬間の1つだ」と、CEOに就任してまだ1年足らずの同氏はイベントで力説した。
Windows 10はデバイスに依存せず、スマートフォンからPC、Xbox One、さらには84インチの会議室用ディスプレーまで、広範なデバイスをサポートする。PC用アプリをモバイルに対応させたいと考えているソフトウェア開発者にとっては大きなメリットだ。つまり、これはどういうことを意味するのだろうか。
Windowsの現行バージョンはスマートフォンとタブレットも含め現在販売されているコンピューティングデバイスの15%にしか搭載されていないが、一方、世界ではまだ15億台ものPCにWindowsが搭載されている。「それを踏まえれば、Windows 10でのモバイル対応の強化によって、MicrosoftはPC時代の主導的立場を再構築できるかもしれない」と、米調査会社Forrester Researchの主任アナリスト、フランク・ジレット氏は指摘する。
Microsoftはそうした優勢を当然と考えているわけではない。発表イベントでさらに驚いたのは、Appleにならってか、MicrosoftがWindows 10のリリース後から1年間は「Windows 7」と「Windows 8/8.1」のユーザーにアップグレードを無償で提供すると発表したことだ。「これは正しい選択だ」と、米ニュースサイトQuartzのダン・フロマー氏は指摘する。ユーザーが食いつかなければ、しかも“素早く”食いつかなければ、Windows 10の成功はない。ユニバーサルアプリや新Webブラウザ「Project Spartan」、音声アシスタント「Cortana」(これまではWindows Phoneでのみ利用できた)、ホログラム対応ヘッドセットといった新機能の多くはWindows 10の採用が広がってこそうまくいく、とフロマー氏は語る。
Windows 10が成功するためには、ここ最近の流れを変えたいところだ。「Windows 8のシェアはわずか10%前後であり、企業での採用率も同程度かそれ以下だ」と、Forresterのジレット氏は英BBC Newsに語る。Microsoftの執行副社長テリー・マイヤーソン氏は、「Windows 10 as a Service」(サービスとしてのWindows 10)として提供したい、つまり「Office 365」やクラウドストレージなど各種サービスを販売するための手段と位置付けたいとの考えを示したが、この目標を達成するためにもWindows 10を使ってもらうことが極めて重要となる。
魔法の粉を一振り
企業と一般のユーザー、とりわけ一般ユーザーがモバイルデバイスでWindowsを使う気になるかについては、皆が確信しているわけではない。「スタートラインまで進むだけでは、消費者のマインドを左右するほどの戦略とはいえない」と、米Wired誌のマーカス・ウォーレン氏は指摘する。だがWindows 10に搭載されるホログラムコンピューティングには、特に企業ユーザーの背中を押す力がありそうだ。
今回の発表イベントでは、現実空間に3Dの仮想オブジェクトを重ねて表示する拡張現実(AR)を実現するヘッドセット「Microsoft HoloLens」が一番の話題を集めた。当然の反応だ。ホログラムコンピューティングはユーザー体験を根本から変えるものであり、少なくとも、われわれユーザーにとってその目新しさは魅力だ。Forresterのアナリスト、ジェームズ・マキベイ氏によれば、それどころか、HoloLensには企業の最高情報責任者(CIO)や最高マーケティング責任者(CMO)も注意すべきだという。
「こうしたヘッドセットは向こう何年間かは価格が高いままだろう。だが、われわれは2016年末までに恐らく360万人程度が購入すると予想している」と、同氏は報告書で指摘する。となれば、エンターテインメントや小売り、教育など、モバイルやWebの世界のデジタルディスラプション(※)の影響を受けやすい業界は、さらなるディスラプションに備える必要がある。
※デジタルディスラプション(digital disruption):新しい技術やビジネスモデルが既存の商品やサービスの価値提案に影響を及ぼしたときにもたらされる崩壊的・分裂的変化
マキベイ氏と、同じくForresterのアナリストであるJ.P.ガウンダー氏によれば、ホログラムコンピューティングは、人々のITとの関わり方だけでなく、企業が顧客とどう向き合うかにも大きな変化をもたらす。「この新カテゴリのコンピューティングをめぐっては、また新たな企業が主導権を握ることになるかもしれない。ちょうどモバイルの世界でAppleやGoogle、米Facebookがそうであったようにだ」と、マキベイ氏は指摘する。またガウンダー氏は同じく重要なポイントとして、ホログラムコンピューティングにはかつてモバイルとWebがそうであったように、人々の働き方を根本から変える可能性があると指摘する。そして同氏は、Microsoftが有利との考えだ。
「HoloLensと似たことをできる製品は数多くあるが、HoloLensのように包括的で生産的かつ経験的な方法で活用できる製品は他にはないからだ」と、ガウンダー氏は指摘する。例えば、米ホームセンター大手Home DepotがHoloLensを導入すれば、遠く離れた店舗の従業員が電気のスイッチの設置方法をリアルタイムで客に直接説明するといった使い方が可能だ。恐らくHoloLensにはもっとはるかに多くの活用法があるだろうが。
当然ながら、CIOは職場でのホログラムヘッドセットの活用法を心配するよりもまず、Windows 10の導入について検討する必要がある。昔から何かと批判を浴びがちなMicrosoftだが、もしかすると、また1つ新たな“瞬間”を刻むことになるのかもしれない。
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