Nutanixを採用した自治体
ベンダー任せにしない “自治体クラウド先駆者”の足立区が最新技術でVDIを構築
東京都足立区が基幹業務向けVDIをNutanixのハイパーコンパージドシステムで構築した。足立区はベンダー依存から脱却し、自らが主体となってシステム基盤や業務アプリケーションの刷新を進めている。
東京都足立区は人口70万の巨大地区ながら、行政業務を支えるシステム基盤を全面的にプライベートクラウド化し、デスクトップおよび業務アプリケーションをプライベートクラウドに移行させている。基幹業務向けVDI(仮想デスクトップ基盤)も最新のハイパーコンパージドシステムで構築した。足立区 CIO補佐監、浦山清治氏が、2015年2月19日に米Nutanixによって開催された「ハイパーコンバージド・インフラストラクチャー セミナー」で行った講演および配布資料を基に、足立区が推進するクラウドの全貌を紹介する。
足立区は2009年、民間出身の浦山氏をCIO補佐監として迎えて以降、ベンダー依存から脱却し、自らが主体となってシステム基盤や業務アプリケーションの刷新を進めている。
従来は400台を超えるサーバがサイロ状態で乱立し、IT部門(情報システム課)もユーザー(各主管部門)も混迷を極めていた。時代の流れから仮想化技術によるシステム基盤統合に向かうのは自然だった。そして、区民の個人情報を扱う業務の制約上、自前のデータセンターで構築・運用するオンプレミスなプライベートクラウドになるのは必然だったのだろう。
ただ、人口約70万を抱える足立区の行政規模は大きい。職員数は正規のみで3500人弱、施設も出先機関47カ所に加え、区立の小中学校が107校(教職員約4000人)に達する。その行政業務を支えるIT基盤全体をクラウド化するのである。「時間をかけて徹底的に研究と検証を重ねた」(浦山氏)という。
統合化されたマイクロソフト製品をクラウド基盤に
クラウド基盤ソフトウェアにはWindowsを選んだ。浦山氏は「ハイパーバイザーの『Hyper-V』とクラウドOSとなる『Windows Server』、システム運用管理の『Microsoft System Center』、その密結合なアーキテクチャがわれわれの目指す仮想化により適していた」と説明する。仮想のリソースプールからユーザー部門の要求に応じて指定リソースを割り当てた仮想マシン(VM)を自動で払い出す。つまり、パブリッククラウドのIaaS(Infrastructure as a Service)と同様な機能を目指した。「Active Directory」を使ったテナント管理、「Windows Azure Pack」によるセルフサービス、「Microsoft System Center Orchestrator」で実現するオーケストレーションなど、統合化されたマイクロソフト製品を活用し、高度に自動化されたプライベートIaaSを実現した。
特にこだわったのはセキュリティである。「クラウドで求められるセキュリティは物理環境とは全く別物」(浦山氏)と、PKI(公開鍵認証基盤)のCA(認証局)を自前で構築し、全ての職員と業務サーバに電子証明書を発行、双方向認証を実現する。また、PKIを用いて主に学校の教職員が使う無線LANにEAP-TLS認証、全職員の電子メールをS-MIME(電子署名付き電子メール)で暗号化するなどセキュリティに万全を期した。「自治体はセキュリティが甘い」という“通説”も足立区には通用しないだろう。
XP機をVDI端末で再利用して4億円のコスト削減
足立区のクラウド導入の皮切りは、2012年秋に稼働し始めた学校教職員向けのVDIである。PC教室用と教職員用の8000台を超えるWindows XP機の更新に伴い、教職員用の3800台をVDI端末に切り替えた。集中管理による運用負担の軽減やセキュリティ向上という一般的な利点の他、浦山氏は「今まで使っていたXP機をVDI端末として再利用することで、3800台で3.8億円(1台当たり10万円)を計上していた購入コストを削減できた点が大きい」とする。プラグアンドプレイ機能を停止するなどシンクライアント化したXP機でWindows 7の仮想デスクトップを遠隔利用しているわけだ。
VDIのシステム構成としては、Windows Server 2008 R2/Hyper-V 2.0の仮想環境上にシトリックス・システムズ・ジャパンのVDIソフトウェア「Citrix XenDesktop 6」を加えた。「100Mbpsの固定帯域幅を持つ専用線なら動画も問題なく動くICAプロトコルのXenDesktopを迷わず選んだ」(浦山氏)という。ハードウェアとして採用した日本ヒューレット・パッカード製ブレードシステム「HP BladeSystem c7000」2筐体には、AMD Opteron 6200(2基64コア)を内蔵するブレードを計32台、クラスタリング構成で収容しており、うち26台を仮想デスクトップ3800台の実行で使う。「実際にVMが生成されるメモリ空間は潤沢にすべき」と仮想デスクトップ1台当たり1.7Gバイトを割り当てる。また、ユーザーごと45Gバイトを専有するFC接続の共有ストレージも、シンプロビジョニング機能によりクラウド市場で実績のあるHP製「HP 3PAR StoreServ」だ。
教職員向けVDIを構築するのと並行して2012年度に、庁内の財務会計や人事給与、文書管理など「内部業務」と「学校業務」のシステム基盤をクラウド化し、2013年度に稼働させている。VDIと同じc7000を4筺体使っており、両業務で大量に使われていたサーバは大幅に集約されたわけだ。
ハイパーコンパージドシステムでVDIをスリム化
そして2014年度、足立区は戸籍や保険など住民サービスに直接関わる「基幹業務」を支えるシステム基盤のクラウド化を行った。内部業務や学校業務より遅れた分、最新技術を取り入れることができている。クラウド基盤ソフトウェアは、Windows Server 2012 R2/Hyper-V 3.1、「Microsoft System Center 2012」へとバージョンアップした。浦山氏は「Windows Server 2012では、ファイル共有プロトコルのSMBが高速になった他、System Center Virtual Machine Manager(SCVMM)の使い勝手も良くなり、クラウド基盤としてより充実した」と評価する。
さらに、端末数1200台に及ぶ基幹業務向けVDIでは、仮想デスクトップのOSがWindows 8.1に上がり、XenDesktopも最新のバージョン7を採用。1つのソフトウェアでVDI(個別仮想PC)とアプリケーション仮想化(サーバでのアプリケーション集中実行)を併用できるようになった。
基幹業務向けVDIと教職員向けVDIとの大きな違いはハードウェアである。「ハイパーコンパージドシステム」と呼ばれるサーバとストレージが一体化した仮想化基盤向けアプライアンス「Nutanix」を新たに採用したのだ。独自の分散ファイルシステムにより、アプライアンス内のノード間およびアプライアンス間のロカールディスク(SSDとSATA HDDの階層ストレージ)を1つのストレージプールとして扱え、仮想化基盤の運用管理、スケールアウトが容易とされる。「巨大な共有ストレージやFC装置のないスリムなVDIを構築できた」と浦山氏は指摘する。
Nutanixを採用したのは、教職員向けVDIでの反省もあった。浦山氏は「FC接続の共有ストレージ(のHDD)にデータを置いていると、時にはディスク性能を上回るI/Oが発生し、システム全体のスローダウンを招く。そのため、IOPS(I/O Per Second)が格段に高いSSDをローカルに大量に備えるNutanixが魅力的だった」。Nutanixの国内販売代理店ある日商エレクトロニクスが構築支援を行ってくれるのも心強かった。
実際に採用したのは4ノード搭載の普及製品「Nutanix NX-3050」。これを4台(計16ノード)連ねて実端末数1200台に対し、最大1400台分のキャパシティーを得た。ちなみに「NX-3050の公開スペックでは、1筐体当たり最大400台のVMを稼働させられるとあるが、足立区の使用条件では350台が上限だった」という。NX-3050の各ノードは、400Gバイト SSD×2と1Tバイト HDD×4のディスク容量を持ち、各仮想デスクトップに50Gバイトを割り当てている。
基幹業務では従来シンクライアントを利用していたが、VDI化に伴って汎用OSやHDDを全く搭載しないゼロクライアントに切り替えた。「(全国民に個人番号を付与する)「マイナンバー制度」が施行されると、自治体に求められるセキュリティレベルは一段と上がる。ローカルPCには一切データを持てない時代」(浦山氏)という判断からだ。ゼロクライアント化する一方、イーサネットケーブルから電源を供給するPoE(Power over Ethernet)には対応した。東日本大震災の際、足立区は計画停電エリアに入り、出先機関で業務が止まった苦い経験がある。PoE対応端末ならその場が停電になっても、データセンター(メインサイトもしくは災害対策サイト)とさえつながっていれば稼働し続けられる。
今後は他システムもNutanix上に集約
足立区の基幹業務基盤のクラウド化はこれからが本番だ。クラウド上で稼働させる業務アプリケーションの更改が2017年度まで続く。浦山氏は壮大な展望を語る。「将来はVDIのみならず業務アプリもNutanix上に集約したい」。現状、Javaなどで開発された足立区の業務アプリケーションは肥大化しており、Nutanix上で稼働させるのに適していない。そのため、.NET Framework、Java、PHPなど開発言語ごと、開発ベンダーが使える開発環境ならびにテンプレートや標準部品も用意し、アプリケーションの標準化およびスリム化を目指す。これも自治体としては異例だろう。自治体クラウドの先駆者として、今後も足立区の動向から目が離せない。
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