TCO30%削減を達成、浮いたお金で災害対策も
【事例】日通のカルチャーを変えた、クラウドを支える仮想化共通基盤
日本通運が2009年から取り組むプライベートクラウド導入プロジェクト。このプロジェクトの鍵になるのが共通の仮想化基盤だ。懸念されたUNIXサーバ(SPARC機)の移行やTCO削減効果などをリポートする。
クラウドコンピューティングの導入は技術だけでなく、IT部門の在り方やメンバーの意識も変える。EMCジャパンが2013年3月に開催したセミナー「ビジネスクリティカルな業務システムは仮想化すべきか?」で日本通運が発表した、プライベートクラウドに向けた全面的なサーバ仮想化導入の模様をリポートする。
インフラ標準化にアプリ担当を巻き込む
1937年設立の日本通運は歴史が長く、グローバルな総合物流業として事業領域も広い。ITについても1953年から脈々と投資を積み重ねてきた。その結果、本社のデータセンターだけでもUNIX機を中心に500台のサーバが稼働し(拠点配備分も含めた総台数は約1500台)、業務アプリケーションの数も2000本に及んでいた。「システム環境は完全にサイロ型でスパゲティー状態。ベンダーに頼らなければ何もできなかった」(野口氏)という。
このインフラとアプリケーションが個々に密結合している状態を抜本的に変えるため、2009年に「インフラ標準化プロジェクト」をスタート。 仮想化技術を全面的に取り込み、インフラをプライベートクラウド化することとした。
まず手を付けたのが「ビジネスインパクト分析」である。「プロジェクトの看板はインフラ標準化だが、最初からアプリケーションの最適化も視野に入れ、分析作業にはアプリ担当者も駆り出した。これで(IT部門全体のプロジェクトという)一体感が出てきた」
分析手法としては、ビジネスプロセスを「重大性」と「緊急性」の2軸とその度合いで区分けし、それぞれの区分に業務システムをマッピング。必要なITのサービスレベルをA・B・Cの3段階で定義した(基準は目標復旧時間・目標復旧時点など)。当然、従来と比べてサービスレベルが下がるシステムもあった。「ユーザーはみんな、自分が使っているシステムは最重要だと思っている。根気強く説明して納得してもらった」
プライベートクラウドに関する記事
SPARC機を仮想サーバで代替する
次に行ったのがインフラアーキテクチャの定義である。プロジェクトではインフラのコスト削減、安定性強化、柔軟性強化をゴールとしており、それを実現するためにはインフラを階層化、統合化、標準化、プール化するアーキテクチャが必要とされた。全面的に仮想化技術を取り入れ、サーバプラットフォームもUNIX中心からIA(x86)に刷新した。
具体的には仮想化技術に「VMware vSphere」、物理サーバにx86サーバ、サーバOSにLinux/Windowsを採用した。インフラの基底を支えるストレージは、シンプロビジョニングによって容易にプール化できる「Symmetrix DMX」(関連記事:仮想化・クラウド時代のストレージ「Symmetrix VMAX」)などEMC製品およびNetAppのNASストレージで固めた。
懸念したのは、本当にx86サーバ上の仮想サーバでUNIXサーバ(SPARC機)を代替できるのかどうかだった。「アプリチームが性能を心配していたため、SPECintで入念な検証を行い、懸念を払拭していった」(野口氏)。性能検証の結果、ごく一部のシステムに4ソケットのx86機を当てた以外、2ソケットのx86機で十分間に合ったという。
新しいインフラアーキテクチャは2010年からの3カ年で実装を重ね、2012年で「第1期計画」を終了させている。現在は2014年に策定する「第2期計画」に向けて採用する技術を検討しているところだが、第1期計画の段階でも大きな成果を得ているという。
PDCAで新しい価値観を定着させる
まず、コスト削減については2012年段階でTCO30%削減を達成した。プラットフォーム変更に伴ってアプリケーション改修費用が発生したが、従来環境のままでも同等のバージョンアップ費用が掛かっていたため、数分の1というサーバ集約の効果がそのまま現れた。
なお、「浮いたコストは長年のIT課題に再投資することを経営層にあらかじめ了承してもらっていた」という。その長年の課題とは災害対策。「何度も検討したがコストがネックで断念していた」のだ。削減したコストでセカンダリサイトを構築し、プライマリとの間をVMwareの災害対策機能「VMware vCenter Site Recovery Manager」で結んで災害に備えている。
安定性強化の面では、vSphereのHA(高可用性)機能によって可用性を担保。物理の稼働サーバで障害が発生した場合、物理の待機サーバで仮想マシンを再稼働させる仕組みだ。「2回ほどサーバ障害があったが、ユーザーに意識させることなく切り替えられた」
柔軟性強化については、サーバ仮想化で実現したアプリとインフラの分離、リソースのプール化(カタログ化)によりインフラ展開のスピードが劇的に向上した。従来なら2~3カ月かかっていた開発機/本番機の受注から引き渡しが10日~2週間に短縮されたという。
さらに、野口氏が個人的に目指していた“カルチャーチェンジ”も成し遂げられた。「一時的なコスト削減ではなく、効率的なITを永続的に追求できる文化を作り出したかった」。プロジェクト中から積極的にPDCA手法を実践し、見える化や標準化、全体最適など新しい価値観を部門内に定着させていった。また、予算編成や機器調達などIT業務の在り方も見直した。そうした中でメンバーの意識を変えてきたのだ。野口氏は「これこそが、今回のプロジェクトを通じて得られた最大の成果だと思っている」と強調した。
アプリ標準化でIaaSからPaaSへ発展
野口氏は第2期インフラ全体最適化に向けての展望についても語った。
同社は先行して既に一部でパブリッククラウドを採用している。「クラウドがプライベートかパブリックかをユーザーが意識することはない。インフラのコスト削減やスピードアップの観点からクラウドのハイブリッド化を進めていく」という。
いわゆる“Software-Defined Storage”(ソフトウェア定義のストレージ)技術によるストレージ仮想化も視野に入れる。同技術はソフトウェアで物理ストレージを隠蔽し、仮想化環境でプロビジョニングやパフォーマンスのネックになりやすいストレージの使い勝手やI/O性能を向上させる。ベンダーではEMCとVMwareが積極的である。
なお第1期インフラ全体最適化では、“Software-Defined Network”(ソフトウェア定義のネットワーク)を実現する通信プロトコル「OpenFlow」を採用した。大規模な本番環境への導入は国内初とされる。「実績のない技術でも必要なら採用する」(野口氏)と攻めの構えだ。
さらに、インフラ標準化から2年遅れの2011年にスタートしたアプリケーション標準化も同時進行させる考えだ。
当初は2000本もあった業務アプリケーションも必要性を見極めて大幅に減らしており、今後はミドルウェアやアプリケーションの開発フレームワーク、開発方法論の標準化を進める。「インフラは速くなったが、アプリ開発には依然として時間がかかっている。1年以上かかるようなウォーターフォール開発はもうあり得ない。アプリをパーツ化するSOA(サービス指向アーキテクチャ)の考えも取り入れて標準化していく」(野口氏)。これが実現すると、日通のプライベートクラウドは現在のIaaS型からPaaS型へと発展するわけだ。
プライベートクラウド導入を通じて新しいカルチャーを定着させつつある日通のIT部門。全体最適に向けた取り組みはまだまだ続きそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[o9ソリューションズ・ジャパン株式会社] 「改正物流効率化法対策」徹底解説 総物流費を抑制するサプライチェーン戦略 -
製品資料
[o9ソリューションズ・ジャパン株式会社] 「サプライチェーン最適化」実践ガイド:効果的な意思決定を実現する秘訣とは? -
製品資料
[株式会社リンプレス] 非デジタル/IT人材を「自走するDX推進者」に変えるための育成ロードマップ -
市場調査・トレンド
[ワンアイルコンサルティング株式会社] AI時代の組織設計:「判断と責任」を人に残すための2つの原則とは? -
技術文書・技術解説
[ワンアイルコンサルティング株式会社] システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「完璧な設計」なのに3000万円溶けた AWSの失敗事例から学ぶ3つの教訓
-
2
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
3
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
4
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
-
5
「AIバブル」は崩壊するのか? 熱狂の後に来る“尻拭い”と4つの防衛策
-
6
「企業内サーバ環境の利用実態」に関するアンケート
-
7
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
8
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
9
守るべきは「開発者のフロー状態」 AIによる生産性改善の6施策
-
10
パナソニックが国内製造26拠点のERPを「SAP S/4HANA」に統一 アドオン7割削減
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
2
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
3
生成AIで文書活用を進めるには? 効率化と安全性をどう両立する
-
4
Windows PCとMacの選択制で生産性向上 LINEヤフーが実践する運用管理方法とは
-
5
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
6
「Google Workspace」活用事例34選、先進の生成AIによる組織変革の全貌
-
7
「人員を増やす」という選択肢はない 情シスが負の連鎖から抜け出すには?
-
8
Linuxのスキルを証明する“激推し”の認定資格はこれだ
-
9
「問題が深刻化しやすいプロジェクト管理」から脱却する方法とは?
-
10
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー