2012年04月18日 09時00分 UPDATE
特集/連載

9カ国の669企業・組織のCTOに調査業界別クラウド事例から学ぶ パブリック/プライベートの使い分け

さまざまなパブリッククラウドサービスが登場する一方で、プライベートクラウドの構築に着手する企業も出てきている。長年企業のIT戦略を支援してきた専門家に、日本におけるクラウド化の進展を聞いた。

[富永康信,ロビンソン]

CIOが考えるクラウド活用のメリットとリスク管理

 クラウドコンピューティングへの認識は確実に広まっているが、その実情はどうなのだろうか。

 参考になるのが、米Accenture Institute for High Performanceが2009年10月〜11月に行った「Global Cloud Computing Survey」という調査だ。日本を含めた9カ国20以上の業界における669の大企業や公的機関のCIO、ビジネスリーダーを対象にしたクラウドに関する調査で、日本のアクセンチュアが「拡大するクラウド クラウド活用時代の夜明け」と題したリポートにまとめて公表している。

 それによると、調査した大企業と公的機関の44%が重要なアプリケーションにクラウドサービスを使用しており、その数は2012年までに54%に達すると予想。また、既に60%の企業がパブリッククラウドと連携させながらプライベートクラウドを使用しており、2012年までにプライベートクラウドを使用している企業・組織の割合は77%にまで増加すると見ている。

 この調査では、クラウドがITコストの削減だけではなくさまざまなメリットをもたらす可能性を積極的に模策していることが分かった。

aa_01.jpg 図1 クラウドサービスの導入および調査を決定するに当たり、企業および組織にとって重要と考えるメリット。単なるITコスト削減にとどまらず業務効率化や意思決定の向上に役立てようとしていることが分かる。(出展:アクセンチュア「拡大するクラウド クラウド活用時代の夜明け」調査リポート)《クリックで拡大》
aa_02.jpg 図2 クラウドの利用目的。共有IT基盤、データの管理と保存、エンタープライズアプリケーションの運用がトップ3となっている(出展:アクセンチュア「拡大するクラウド クラウド活用時代の夜明け」調査リポート)《クリックで拡大》

 同時に、クラウド活用ではさまざまなリスク管理が求められる。その内容は、セキュリティ、プライバシー問題から、信頼性・可用性、コンプライアンス、既存システムとの連携、SLA(サービスレベル契約)、ベンダーロックインなど広範囲に及んでいる。

aa_03.jpg 図3 企業または組織がパブリッククラウドサービスを利用する場合に問題と考えるリスク。セキュリティや信頼性以外にも、法務・契約上の問題、既存システムとの連携性、ベンダーの質などに懸念を抱いている。(出展:アクセンチュア「拡大するクラウド クラウド活用時代の夜明け」調査リポート)《クリックで拡大》

 また、調査では約半数のビジネスリーダーはクラウドが自国の経済的競争力強化に大きな役割を果たすと考えているが、クラウドに対する重要度も国別に温度差があるようだ。アクセンチュアは、政府がクラウドのリスクを最小限に抑える政策を行っているかどうかが、自国の経済成長に影響する分析している。

aa_04.jpg 図4 今後の国家的経済的競争力の強化にクラウドはどの程度重要かについての結果。フランスやブラジルのリーダーは重要だと考える割合が多く、反対に中国、日本、アメリカでは低い値になっている。(出展:アクセンチュア「拡大するクラウド クラウド活用時代の夜明け」調査リポート)《クリックで拡大》

ノンコア業務の外部化で利用されるパブリッククラウド

aa_osabe.jpg 「ノンコア業務をパブリッククラウド化することは必然的な流れ」と語るアクセンチュアの長部 亨氏

 日本でもエンタープライズ向けのパブリッククラウドサービスが次々と登場し、企業が本格的に導入を検討し始めているとともに、プライベートクラウド運用の検討も多くの企業で始まろうとしている。もはやクラウドは活用するか否かではなく、どの業務でどんなクラウドを活用すべきかを模索する段階に来たといってもいいだろう。

 「企業では既に、クラウドサービスの特性や国内外の事例も参考に業務のどの部分にパブリッククラウドが利用できるかを見定めており、活用方針はほぼ決定している状況」と語るのは、アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 シニア・マネジャー IT戦略・インフラグループの長部 亨氏だ。

 長部氏は、日本企業のCIOやIT部門のトップを対象に中期経営計画やエンタープライズのIT戦略について支援していて、クラウドも大きなテーマの1つとしている。

 「パブリッククラウドは、メールや経費精算、勤怠管理など、業務に特別な差別化要素がないノンコア領域を外部化することでまず活用が進む。サーバなどシステムの老朽化を境にオンプレミスからクラウドにシフトし始めている」(長部氏)

 また、IBM Lotus Notes/Domino上に作っていた業務アプリケーションを、ライセンス費用や保守費用の削減、サポート期間の終了などを機に見切りを付け、パブリッククラウド上にアプリケーションを開発するケースも増えているという。

パブリッククラウドを顧客との接点で活用する企業

 長部氏は、企業がパブリッククラウドを活用するケースでは業界ごとに対象となる業務部分は異なるが、さほど大きな違いはないという。しかし、その中にも幾つかのパターンが見て取れると話す。B2Cを推進するため顧客との接点をクラウドで強化し始めているのが次の2社だ。

 ネットワーク関連の商品やサービスを提供するオリンパスメモリーワークスは、オンラインの写真投稿コミュニティー「Ib on the net」を運営し、画像ファイルの投稿をきっかけとして新しいサービスにつなげるマーケティングを行っている。だが、画像を共有するサイトを自前で構築するとサーバやストレージなどのリソースが大きく変化し、管理が煩雑になる。そこで同社は、Amazon Web Services(AWS)が提供するクラウド環境上に共有サイトを構築して、データ量の増減に柔軟に対応している。

 また、米消費財大手のP&Gは、外部のソーシャルメディアからの情報を収集してビジネスに活用している。顧客の声のようなソーシャル情報などの非構造データを取り込んでデータをマイニングするなど、より強力なコンピューティングパワーを必要とする部分にパブリッククラウドを活用している。

 B2Cではないが、パブリッククラウドを顧客サービスのコアな部分で活用しているのがコマツである。建設機械車両や産業機械の稼働状況を遠隔で管理するシステム「KOMTRAX」を提供している同社は、建機のセンサー情報をインターネットで収集してパブリッククラウド側で処理するビジネスを行っている。ユビキタスな情報もクラウド側で収集するなど、新しいビジネスを活性化する、パブリッククラウドの新しい使い方といえる。

 さらに、長部氏は「競争優位性を生まない部分やリターンが見込めない部分を資産として持ち、固定費を掛けながら維持することは無駄という考え方から、パブリッククラウドを活用するケースも増えている」と述べる。

 これまでは、顧客アンケートや販促キャンペーン、従業員のサーベイなど、年に数回しか使わないシステムでも、サーバを設置して電源を入れていることに何の疑問を持っていなかったが、それは大きな無駄であった。「ピーク時やアクセスが限られているものは固定費からオフバランスしてクラウド化することは必然的な流れ」と長部氏は述べる。

今後パブリッククラウド活用が期待される分野

 今後、パブリッククラウドの活用が考えられる分野として、長部氏は幾つか候補を挙げている。その1つがガス会社だ。日本の都市ガス会社は大小200を数えるが、現状は各社料金システムを独自に抱えているため、利用者は引っ越すたびに新規契約を行わなければならならず非常に不便だ。料金請求システムはコア業務ではあるが、一部の共通業務システムをパブリッククラウド上に構築し、各社がシェアード化すれば格段に効率化すると見ている。

 2つ目が、医療のクラウド化だ。医療機関はカルテや病歴などのセンシティブな医療情報や個人情報を取り扱うため、パブリッククラウドで共有するのにはまだ問題は多いものの、ダイエットや健康管理などのライトなヘルスケア情報の共有は進むのではないかという。

 例えば、家庭で計測した体重や体脂肪率などの情報をスポーツジムに連携し、トレーナーや管理栄養士が適切なトレーニングプログラムや食事メニューを組むなどの使い方だ。その次の段階で、個人の同意を得た上で治療情報や薬の処方情報などを取り込んで、トータルライフ管理クラウドなどのようなものが考えられる。

 3つ目が保険業界。国内では頭打ちになっている生保・損保事業は今後アジアなど新興市場にサービスを展開していくことがテーマとなっている。それには、各国の法制や需要に柔軟に対応できるエラスティック(伸縮性のある)戦略が必要とされ、その情報基盤としてはパブリッククラウドが理想的といえる。

 4つ目として、ゲーム業界も保険同様アジア展開を急速に進めている。オンラインゲームはトランザクションが集中しかつ常に変化する上、ハイパフォーマンスのコンピューティングリソースを必要とする難しいビジネスだ。新興国でビジネスを展開する際に、安定したユーザーを確保するまでの期間はパブリッククラウドのコンピューティングリソースを活用することが有効だろう。

プライベートクラウド最大の目的はオペレーションの統合

 一方、プライベートクラウドだが、その使い道はパブリッククラウドで行われていたノンコア業務の外部化とは異なり、パブリッククラウドには出せないコア部分が対象となる。プライベートクラウドは、サーバを仮想化して集約するインフラの統合と捉えると単純なサーバ統合プロジェクトになってしまう。大事なのはオペレーションの統合であると長部氏はいう。

 「海外のCIOクラスにプライベートクラウドはどこに訴求する効果があるのかを聞くと、ITのQCD(品質向上、コスト低減、迅速な配置)だけではなく、ビジネス上の効果まで波及することを期待している。そして、日本企業がプライベートクラウドを最大に活用する場面は、企業のグローバル戦略にある」(長部氏)

 国内市場の空洞化や記録的な円高、震災の後遺症など日本企業にとって厳しい現状が続く中、もはやグローバルに攻めていくことしか戦略が見いだせない。しかし、海外市場で日本が勝ち残れるかどうかも不透明だ。将来の成長のモデルが描けない中で利益を確保するためには、間接業務を集約化して現状のオペレーションコストを下げるしかない。

 長部氏は、「社内のプライベートクラウド上に共通標準アプリケーションを構築し、そこにアクセスする形で業務統合を実現する。その上で、日本がグローバル市場で闘うためには標準的なグローバルオペレーティングモデルを作っていくことが重要だ」と指摘する。

 ユニクロのファーストリテイリングは、グローバル化を急速に進めていても国ごとにビジネス手法や販売方法、在庫管理方法を変えているわけではない。グローバルオペレーションが1モデルあるのみ。情報システムもクラウド上で統合化することによって、グローバルの各国でビジネスを展開しても標準業務としておく。それがプライベートクラウドの真の役割であり、競争力の源泉になるものだという。

消えつつあるパブリッククラウドとプライベートクラウドの境界線

 最近ではAWSなどのパブリッククラウドベンダーが、バーチャルプライベートクラウド(VPC)といったエンタープライズクラウドサービスを開始している一方で、データセンターやネットワークを提供するキャリアも仮想ホスティングという形でホステッドプライベートクラウドサービスを行っている。

 さらに、プライベートクラウドを運用しながらメール環境だけはパブリッククラウドを用い、ログインする際にはワンタイムパスワードを用いることで利便性を維持する使い方もある。業務システムが社内のプライベートクラウド上にあるのか、社外のパブリッククラウド上にあるのかをあまり意識せずに利用できるマネージドされたクラウド環境が構築されつつある。

 以上のようなクラウドによるビジネス改革は、長部氏が共同執筆したアクセンチュア著『クラウドが経営を変える! 新ビジネスを創造する企業ITの変革』(中央経済社)にも記載されているという。

クラウドの登場がビジネスを抜本的に変革する起爆剤に

 「今後クラウド化が進展することで、IT部門の役割が抜本的に変わる」と長部氏は語る。これまではIT資産を持つことが前提だったが、クラウドが登場したことでベンダーロックインなど悪しき慣習から解放され、日陰の存在だった情報システム部門がクラウドを活用した新たな業務提案やビジネス変革など、ビジネス側にさまざまな提案ができるチャンスが生まれてくるという。

 自社の中だけにとどまらず、IT部門がサービサーとして外部と積極的につながり合うことで業界全体の情報システムを考える立場になる可能性もある他、業界を超えたコラボレーションなど人材の流動化も活性化していくと見ている。

 「そのためには、グローバルでのビジネスを支え、かつITでどのようにビジネスをドライブしていくかを語ることのできる人材が増えていくことが必要」。同氏は、クラウドがそうした新たなビジネスを有効にしていく手段だと考えている。

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