「Medical×Security Hackathon 2015」リポート(後編)
医療・介護に役立つウェアラブル端末とは? 開発のヒントを医療ハッカソンに見た
「医療に革命を起こそう」をテーマにした医療ハッカソン。医療現場が抱える課題解決に取り組んだ参加者たち。4回目となる今回は、話題のウェアラブル端末を活用するユニークなプロダクトが生まれた。
「医療に革命を起こそう」をテーマにしたイベント「Medical × Security Hackathon 2015」が2015年3月7、8日に福島県の星野リゾートアルツ磐梯スキー場で開催された。このイベントは、有識者による「講演」とハッカソン競技「Medical × Security Hackathon」の2つで構成される。前編「日本の医療IT成功に欠かせない3つの注目キーワード――『データ主導型社会』『シビックテクノロジー』『医療ロボット』」に続き、本稿ではハッカソン競技の模様をお届けする。
医療に革命を起こすハッカソン
ハッカソン(Hackathon)とは、「ハック(Hack)」と「マラソン(Marathon)」を掛け合わせた造語で、同じテーマに興味を持った開発者が集まってコーディングを行うイベントのことを指す。日本でも近年は一般的な用語となりつつあり、各地でさまざまなハッカソンが開催されている。通常、ハッカソンは1日程度の短期間で集中してコーディングを実施する。短期間でプロダクトを生み出すことや、異業種の人たちがチームを組むことでより革新的なアイデアの創出が期待できることが特徴であり、魅力だといえるだろう。
Medical × Security Hackathon 2015は「医療に革命を起こそう」というコンセプトで開催され、今回で4回目を迎える。ハッカソン競技は「アプリ部門」「セキュリティ部門」の2部門に分かれて実施。アプリ部門では医療従事者やデザイナー、ソフトウェア/ハードウェアエンジニア、ディレクターなど幅広い業種の25人が参加した。また、セキュリティ部門は今回初めて神戸会場でも同時開催。セキュリティ業務に従事している参加者を中心に福島会場は17人、神戸会場は20人が参加して競技が行われた。
アプリ部門の競技概要
アプリ部門の競技の流れは以下の通り。
- 主催者が提示した課題を解決するアイデアを持っている人が、参加者に向けてそのアイデアを発表する「アイデアピッチ」を実施
- アイデアピッチの中に自分が賛同するアイデアがあれば、参加者が集まってチームを組む
- 賛同するアイデアがない場合は、その参加者同士でチームを組み、新しいアイデアを練る
- チーム分けが完了したら、それぞれのアイデアを実現するための開発を進める。制限時間は約24時間
- 1チーム当たり5分のプレゼンテーションを実施。審査基準による得点と審査員の意見を加味した形で順位を決定する
今回、主催者から提示された課題は「スマートフォンを使った新しい医療アプリケーション/サービス」「被災者向け医療」「遠隔医療」「地域医療再生」の4つ。競技参加者は、上記のいずれか1つ以上の要件を満たすものを開発することになった。
他に類を見ない「医療×セキュリティ」ハッカソン
セキュリティ部門は、主催者が選定した4つのアプリケーションを対象に、脆弱性調査を実施する。こちらはチームの場合最大3人、個人での参加も可能にした。
セキュリティ部門の競技概要
- 個人のクライアントPCに主催者から配布される仮想環境を設定。システムから隔離された領域でアプリを動作させるサンドボックス環境で脆弱性調査を実施し、脆弱性を発見したら都度主催者に報告する
- 主催者が「共通脆弱性評価システム(CVSS v2: Common Vulnerability Scoring System Version 2)」を用いて、報告された脆弱性の深刻度を評価する
- 1チーム当たり4分のプレゼンテーションを実施。「発見した脆弱性の深刻度」「発見した脆弱性の個数」「発表の印象点」などを総合的に評価して得点を付け、順位が決定する
参加者の1人は「アプリやサービスを開発するハッカソンは多く見受けられるが、セキュリティに関するハッカソンは他では見たことがない」と語る。ささいな誤作動が人命にも影響しかねない医療情報システム。Security Hackathonは、そのセキュリティの問題に白羽の矢を立てたイベントともいえるのではないだろうか。
アイデアピッチ、そしてチーム分けが始まった
開会式が終わると、アプリ部門とセキュリティ部門に分かれて競技が開始された。アプリ部門ではアイデアピッチが行われた。デザイナーやエンジニア、医療従事者、ディレクターなど職種別にグルーピングを実施。その後、アイデアのある参加者が手を挙げて発表した。
職種別にグルーピングした理由について、アイデアピッチコーディネータを務めた行田尚史さんは「各チームに職種がバランスよく配置されるようにグルーピングした。特にデザイナーの人数がチーム数に対して不足気味であることから、チーム分けに不公平感が生まれないようにした」と語る。
アイデアピッチでは6人のアイデアが発表された。以下はアイデアの一例である。
- 看護の現場は効率化されておらず、無駄が多い。特に排せつ物の確認はロスが多く、患者も確認されることを嫌がる傾向にある。アプリで確認できるようにしたい(医療関係者)
- 睡眠障害に悩んでいる日本人はとても多い。3次元的な音の方向や距離、拡がりなどを再生する「立体音響」技術を使い、孤独感や不安を解消して安心して睡眠ができるようにするアプリを作成したい(IT企業社長)
アプリ部門・セキュリティ部門のチーム分けは以下の通り。チーム分けの段階では、具体的なアウトプットが決定していないチームもあった。
| チーム名 | 成果物のイメージ内容 | 人数 |
|---|---|---|
| Racco Eyes | ウェアラブル安否確認 | 2人 |
| Medical OSS | Medical OSS Catalog Live DVD | 2人 |
| ウェットキャッチ | ウェットキャッチ | 3人 |
| Gruner Star | Eye Checker | 3人 |
| Eight Eyes | 安心な睡眠 | 4人 |
| 価値観カルテ | 価値観カルテ | 3人 |
| スピリチュアル添い寝 | ― | 4人 |
| 119 | ― | 2人 |
| カフェインと温泉 | ― | 2人 |
| チーム名 | 人数 |
|---|---|
| 脳トン | 3人 |
| マラットソロリートチキン | 1人 |
| op | 1人 |
| m1Z0r3(みぞれ) | 2人 |
| .HacQ// | 2人 |
| YE3ARDBk(わいなんちゃら) | 2人 |
| ssh -p64 | 3人 |
| 三重螺旋 | 3人 |
メンターセッション、そしてひたすら開発
アイデアピッチ、チーム分けが終わるといよいよ本格的なハックを開始。アイデアが煮詰まってきたチームから、順次メンターによる「メンターセッション」を受けた。これは3人のメンターと会話して、アイデアをより良いものにしていくというものだ。今回は以下の3人がメンターを務め、参加者をサポートした。普段医療分野とはあまり縁のないエンジニアは、メンターとの会話が刺激的であったようで、話が長時間途切れないグループもあった。
メンター
- 崔 熙元氏(GUGEN 代表)
- 上森久之氏(公認会計士/トーマツベンチャーサポート エンターテイメントテクノロジーセクター 事業統括)
- 工藤憲一氏(野村総合研究所 主任データサイエンティスト)
メンターセッション終了後は各チームが開発に勤しんでいた。当日夜の懇親会が終わった後も競技会場に戻り、夜遅くまで、あるいは夜通し作業をした参加者もいた。
気分を変えてアイロンでも?
競技2日目の朝、競技会場には夜通し作業をして疲れきった参加者が机に伏せて眠っている姿も見受けられた。午前中、アルツ磐梯スキー場の山頂にあるカフェ「磐梯天空Cafe」で特別プレゼンテーションと、あらゆる場所でアイロン台を広げて服にアイロンを掛ける競技「エクストリームアイロニング」が開催された。
特別プレゼンテーションは、杉本真樹氏(神戸大学大学院 医学研究科 内科学講座 消化器内科学分野 特命講師)の「心の壁を乗り越える4つの秘訣:エクストリームアイロニングのすすめ」。エクストリームアイロニングによって人生観が変わったと杉本氏は講演した。講演後、聴講者が実際にエクストームアイロニングを体験。思い思いのパフォーマンスを楽しんだ。
11時45分に競技時間が終了し、いよいよプレゼンテーションとなった。
開発の成果を発表するプレゼンテーション
プレゼンテーション会場は磐梯山温泉ホテル。各部門で別々の部屋に分かれてプレゼンテーションを実施した。アプリ部門では、持ち時間5分の中で各チームが趣向を凝らしたプレゼンテーションとなった。一部チームのプレゼンの様子をお伝えする。
アプリ部門 審査員
- 古橋大地氏(Race for Resilience 実行委員長)
- 崔 熙元氏(GUGEN 代表)
- 上森久之氏(公認会計士/トーマツベンチャーサポート株式会社 エンターテイメントテクノロジーセクター 事業統括)
- 工藤憲一氏(野村総合研究所 主任データサイエンティスト)
- 杉本真樹氏(神戸大学大学院 医学研究科 内科学講座 消化器内科学分野 特命講師)
命を助けられるプレゼント「喜づな」:チーム Racco Eyes
高齢者の安否確認サービスには、対象の高齢者がポットやガスを使ったときに家族の携帯電話に通知するという仕組みを採用するサービスがある。しかし、その場合、例えば急病で倒れてしまったときにすぐに察知できず、発見が遅れて死に至るというケースを防ぐことはできない。高齢者の家族が求めているのは「高齢者の命を救えるサービス」であるという点に着目し、常にセンサーを身に着けてもらえるプロダクトを開発した。
チーム Racco Eyesが発表した「喜づな」は、加速度センサーを搭載した老眼鏡。センサー情報をスマートフォンで受信し、そこから家族の携帯電話に通知するというものだ。送信側アプリはインストールするだけ、また中高年が操作することを考慮して受信側アプリではシンプルなデザインを心掛けたという。受信側アプリを開くと、見守り対象者が活動しているかどうかがリアルタイムで分かる。活動していないときは、最後に記録された活動時間から何分が経過したかを確認することが可能だ。例えば、10分活動していない場合には携帯電話にポップアップで通知したり、日中1時間以上活動がない場合には電話をかけることができる。
今回は眼鏡を使用したが、時計やネックレスなどのウェアラブル端末に加速度センサーを搭載することも可能。「喜寿のお祝いなどにウェアラブル端末を選べるカタログを贈り、プレゼントとして日常的に身に着けてもらうことで、高齢者に抵抗なく使用できる仕組みを考えた」と発表した。
緑内障の早期発見「Eye Checker」:チーム Gruner Star
失明の原因の第一位である「緑内障」。緑内障は視野が狭くなり、最終的に失明に至るが、進行が遅いために発症者の約8割が病気の進行に気が付いていないという。また、近年はクライアントPCやスマートフォンの利用時間増加に伴い、緑内障発症の若年化や患者の増加傾向がある。緑内障の一般的な検査方法は「視野検査」「眼圧検査」「視神経の画像解析」という手順。チーム Gruner Starではその中で眼圧検査に注目し、緑内障の早期発見のために誰でも眼圧を計測できる「Eye Checker」を開発した。
Eye Checkerは、専用アプリが入ったスマートフォンをゴーグルに張り付けて利用する。ゴーグルを装着するだけで眼圧を計測できる仕組みだ。従来の眼圧検査では眼圧計を目に押し当てて計測するが、その際に痛みを伴うこともある。装着するだけで計測するEye Checkerでは、そうした痛みを心配することはない。また、従来は検査結果が分かるまで1時間半程度かかるが、Eye Checkerでは約1分程度で結果が分かるという。
アプリ起動後にEye Checkerを装着すると、男の人の絵が現れて砂嵐が出てくる。この砂嵐が一様に見える場合は正常であり、ある部分だけぼやけたり、ゆがんだりして見える場合は、緑内障の疑いが強いという。この検査方式は、東京医科大学の白土城照先生監修の検査方法を参考にしている。
「Eye Checkerは、職場などの病院以外の場所でも利用でき、早期発見に役立てられる。また、機能拡張によって緑内障以外にも白内障や認知症の検査を可能にすることで『目の検査の総合アプリ』を作成したい」とプレゼンを締めくくった。
セキュリティ部門でも白熱したプレゼンが行われた
セキュリティ部門は、脆弱性発見の点数とプレゼンテーションによる印象点の合計によって順位が決まる。プレゼンテーション会場に来た参加者は、脆弱性調査が終わったこともあり少しリラックスした表情が多かった。プレゼンテーションでは各チームが発見した脆弱性について解説を交えながら発表した。時折笑いが起きる一幕もあり、またセキュリティの専門家ならではの鋭い質問も飛び交った。
セキュリティ部門 審査員
- 園田道夫氏(サイバー大学 Cyber University 専任教授/独立行政法人情報処理推進機構)
- 竹迫良範氏(サイボウズ・ラボ)
- 高橋郁夫氏(駒澤綜合法律事務所 所長/弁護士)
- 笹原英司氏(博士[医薬学]/特定非営利活動法人ヘルスケアクラウド研究会 理事)
猪苗代湖上での結果発表
競技結果の結果発表は、場所を変えて磐梯観光船かめ丸の船内で実施された。まず各部門の審査員による審査が行われ、各部門の結果発表・表彰式が行われた。
アプリ部門の優勝は、Gruner Star。同チームは特別賞「Race for Resilience」も受賞した。Race for Resilience賞は「発展途上国×防災・減災」ハッカソンにちなんで設定された賞だ。その受賞理由として、Race for Resilience実行委員長を務める古橋大地氏は「手軽に緑内障をチェックでき、災害時でも活用できるサービスである」と講評した。2位はチーム「ウェットキャッチ」、3位はチーム「119」という結果になった。また、特別賞「GUGEN」賞をチーム「スピリチュアル添い寝」が受賞。GUGEN代表の崔熙元氏は「とてもユニークなサービス。ぜひ実際にアプリを触ってもらいたい」と語った」と語った。
セキュリティ部門の優勝は、チーム「脳トン」。このチームは同じ会社の同僚で結成しており、脆弱性の報告数もさることながら、ユーモア溢れるプレゼンテーションで印象点も高いことが優勝につながった。2位はチーム「三重螺旋」、3位はチーム「op」だった。また特別賞「SECCON」賞は、チーム「三重螺旋」に贈られた。その理由として、サイボウズ・ラボの竹迫良範氏は「脆弱性を発見することも大切だが、啓発的な意味でそれを一般の人に分かりやすく説明することも大切。とても丁寧な説明で好感を持てた」と説明する。
同イベントの総括として、Eyes, JAPAN代表の山寺 純氏は「過去最大規模のイベントとなり、医療ITやセキュリティについての認知度を上げる一助になれば幸いだ。IT目線で私たちにできる問題提起をこれからも続けていきたい」と語った。
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