中堅・中小企業を先手必勝へと導く「一歩進んだIT活用」を学ぶ【第1回】
攻めのIT活用でつまづく中堅・中小企業 小規模企業に見習うべき姿勢とは
中堅・中小企業が激しいビジネス環境の変化を生き抜くためには、IT活用がますます重要になってきている。だが、根強い現状維持志向が一歩先を行くIT活用の大きな障壁となっている。こうした状況の打開策とは。
2014年度は消費税率改正やWindows XPサポート終了をはじめ、中堅・中小企業の経営やIT活用に大きな影響を与える出来事から幕を開けた。2015年度は政府が推し進めるさまざまな経済対策の真価が試される時期でもある。しかし、景気の回復を待つだけでは変化の激しい今の時代を生き抜いていくことは難しい。
中堅・中小企業としても、さまざまな工夫を凝らして先手を打っていく必要がある。その際に欠かせない道具の1つが「IT」だ。そこで本連載では、「中堅・中小企業が今後を見据えて取り組んでおくべきIT活用とは何か?」を探っていく。
「中堅・中小企業におけるIT活用」といってもカバーすべき範囲は非常に広い。本連載では以下の4つのテーマに分け、全4回に渡って解説していく。
- 第1回:中堅・中小企業を取り巻く経済環境とIT投資概況
まずは全体指標を基に中堅・中小企業が置かれている現状を俯瞰する。 - 第2回:2015年に必須の対応が求められる法制度
マイナンバー制度のように、2015年中の対応が必須となるIT関連の事柄を確認する。 - 第3回:既存のIT資産はクラウド移行すべきなのか?
既存のIT資産をクラウドへと移行すべきなのか? について検証する。 - 第4回:中堅・中小企業にも無関係ではないIT活用の新領域
ビッグデータ、ソーシャル、IoT/M2Mといった新たな取り組みの可能性を考察する。
つまり、第1回で全体を見渡した後、第2回では「避けることのできないIT投資をいかに賢く乗り切るか?」を考える。その後、第3回で「既存のIT資産に起因するコスト負担を軽減する施策」について学び、第4回で「新たなビジネス展開につながる攻めのIT活用とは何か?」を探っていくという流れだ。IT活用において、「守りと攻め」や「既存と新規」の優先度をどう判断すべきか? これは多くの中堅・中小企業が悩むポイントだろう。本連載を全て読み終えた段階で、何らかのヒントが得られるはずだ。
「根強い現状維持志向」が一歩先を行くIT活用の大きな障壁
それでは早速本題に入っていこう。今回は「中堅・中小企業を取り巻く経済環境とIT投資概況」について見ていく。以下のグラフは年商50億円以上~100億円未満の中堅企業、年商5億円以上~50億円未満の中小企業、年商5億円未満の小規模企業のそれぞれについて、「経常利益DI」と「IT投資DI」の値を2014年10月から四半期ごとにプロットしたものである。
「経常利益DI」と「IT投資DI」はいずれも中堅・中小企業の経営状況とIT投資意向を図るための指標であり、定義および算出方法は以下の通りである。
[経常利益DIの定義]
四半期ごとに前回調査時点と今回調査時点を比較した場合の経常利益変化を尋ね、「増えた」と「減った」の差によって算出した「経常利益増減指数」を指す。例えば、2015年4月時点での値は2015年1月時点と比較した場合の経常利益増減の実績値となる。
[IT投資DIの定義]
今四半期以降のIT投資予算額が前四半期と比べてどれだけ増減するかを尋ね、「増える」と「減る」の差によって算出した「IT投資意欲指数」を指す。例えば、2015年4月時点のIT投資DIは2015年1月~2015年3月と比べた場合の2015年4月以降のIT投資意向を示す「先行指数」である。(IT投資の「実績値」ではなく、投資意向を反映した「見込み値」である点に注意)
つまり、『経常利益DI値がプラス』だと前四半期と比べ、経常利益が改善した企業の方が悪化した企業よりも多い(マイナスの場合にはその逆)、『IT投資DI値がプラス』だと前四半期と比べ、IT投資を増やす企業の方が減らす企業よりも多い(マイナスの場合にはその逆)、ということになる。
それぞれの値を詳しく見てみよう。中堅企業の経常利益DI値は4.0(2014年10月)、0.5(2015年1月)、15.0(2015年4月)と半年間の間に大きな変化を見せている。消費税率改正の影響などが緩和され、2015年に入ってからは「商品/サービスの販売量が増えた」と回答した企業が多いことが大きな要因の1つとして考えられる。中小企業の経常利益DI値は12.0(2014年10月)、14.0(2015年1月)、11.0(2015年4月)であり、直近の半年間は大きな変化が見られない。景気が回復基調となれば、中堅企業で見られた変化が中小企業にも波及するものと予想される。つまり、中小企業の経常利益DI値は今後さらに高い値となる可能性がある。いずれにしても、中堅・中小企業全体で見た場合の経常利益DI値はプラス値となっており、「経常利益が改善した」と考える企業が徐々に増えつつあることが分かる。
IT投資DIについては2015年1月時点で若干上昇したものの、中堅企業と中小企業のいずれにおいても0.0~1.5程度の値にとどまっている。異なる種類のDI値を直接比較することはできないが、経常利益DI値が2015年4月時点でプラス10を超える値を示している点を踏まえると、中堅・中小企業がIT投資に対しては慎重な姿勢であることが感覚的にもつかめるだろう。
IT投資DIが伸び悩んでいる最も大きな要因は中堅・中小企業の「根強い現状維持志向」だ。「IT投資を増やさない理由」を尋ねたところ、「売り上げが低迷し、IT投資費用を捻出できない」の次に多く挙げられたのが「現在は減価償却上の更新時期には当たらない」という回答だ。つまり、既存のIT資産を維持できれば良いと考える中堅・中小企業が多いわけだ。しかし、こうした考え方では業績改善に直結する画期的なIT活用が登場したときにも大きく後れを取ってしまうことになりかねない。
小規模企業を見習い、部署単位で「ワークスタイル改善」に取り組んでみる
では、どうすれば良いのか? ここで注目すべきなのが小規模企業(年商5億円未満)の動きだ。小規模企業は資本力も限られるため、「円安による原材料/燃料コスト増」や「消費税率改正による消費の低迷」といった経済環境変化の影響を受けやすい。そのため、経常利益DI値も大幅なマイナス値となっていた。だが、グラフが示すように経常利益DI値は-18.0(2014年10月)、-14.5(2015年1月)、-4.0(2015年4月)と急速に回復し、今後の見込みではプラス値を示している。だが、中堅・中小企業と大きく異なるのはIT投資DI値の推移である。2015年1月には-14.0と大きく落ち込んだものの、2015年4月には1.0のプラス値まで急回復している。2015年1月~2015年4月にかけてIT投資DI値が微減となっている中堅・中小企業とは対照的だ。
ここで小規模企業が「IT投資を増やす理由」として挙げている内容が興味深い。「売り上げが向上して、IT投資費用が捻出できた」に続いて、「自宅や外出先からでも業務を遂行できる環境の構築が必要」(※1)や「成果報酬や時短勤務などの多様な雇用形態への対応が必要」(※2)といった回答も挙げられているのだ。つまり、業績が回復したタイミングを逃さず、従業員の生産性や労働意欲を改善する取り組みに素早く着手しているわけだ。
良く考えてみると、※1や※2のような取り組みは中堅・中小企業にとっても極めて重要だ。企業体質を改善する努力を続けなければ、景気が回復して販売量や発注量が増えたときに「業務の非効率さが原因で注文をさばけない」「報酬が公平でないため人材が他社に流出する」などといった事態を招きかねない。小規模企業は小さいが故に動きも素早い。だが、中堅・中小企業も部署単位であれば同様の素早い動きで※1や※2といったワークスタイル改善に取り組むことも可能であるはずだ。
このように全体を俯瞰する何らかの指標を見る場合には自社が属する年商帯だけでなく、その下に位置する企業層の動きが参考になることがある。中堅・中小企業が今後のIT活用を検討する上で小規模企業の取り組みは大きなヒントとなるわけだ。今回は「中堅・中小企業を取り巻く経済環境とIT投資概況」から垣間見えるポイントについて解説した。次回は「避けることのできないIT投資をいかに賢く乗り切るか?」について考えていく。
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