Apple×IBM協業でモバイルアプリ開発は加速するが……
「メール」以外の仕事用スマホアプリを開発する意味はあるのか?(2/2 ページ)
ビジネスクリティカルなアプリをモバイル化する場合の難点
企業がエンタープライズアプリケーションのモバイル化に乗り気ではないのには、需要がないことの他にも、幾つか理由がある。1つは、顧客関係管理(CRM)やワークフローアプリケーションといったビジネスクリティカルなソフトウェアは通常よりもカスタムコーディングが多く、複雑なインタフェースやメニュー、機能を搭載する傾向にあるので、簡素化してタッチスクリーンで使いやすいようにするのが難しいからだ。
「これは非常に難しい問題だ」と、PowWowのコーエン氏は語る。「限られた時間の中でこの問題に対処できる確実な方法を見つけようと、皆が苦戦している」(同氏)
アプリケーションをリファクタリングすれば、エンタープライズアプリケーションのモバイル化は容易になる。ただしリファクタリングは大概、SAPなどのレガシーアプリケーションに調整を施してモバイル端末でも動作するようにするためである。企業が特定業務のために特定のユーザーに提供している、ビジネスクリティカルなカスタムアプリケーションをモバイル化するためではない。また従業員が社内に持ち込むさまざまなプラットフォームに合わせて、IT部門はiOSやAndroidからWindowsまで、複数のOSでモバイルアプリをサポートする必要がある。
ビジネスアプリケーションの利用に関してユーザー企業が求めているのは、シンプルかつ高速で、さらに利用者にとってなじみのあるユーザーエクスペリエンスだ。実際、前出の法律事務所は文書管理ソフトウェアベンダーが提供するモバイルアプリケーションを所属弁護士に配布したが、利用は広がらなかったという。そのアプリケーションを使うにはVPN(仮想プライベートネットワーク)接続が必要であり、安定したユーザーエクスペリエンスも欠けていたからだ。
「雑な出来で使いづらく、あまり受け入れられていない」と前出のIT責任者は語る。
コストの問題もある。業務用デスクトップアプリケーションのライセンス契約をモバイル端末で個別に締結したりサポートしたりするコストが、高額になりかねないという懸念だ。前出の法律事務所は、法律検索ポータルや「Microsoft Outlook」など、いずれも既に契約しているサービスに付随する無料のモバイルアプリケーションを使うことでコストダウンを図っている。
外勤の従業員にはビジネスアプリのモバイル版が必要
PowWowのコーエン氏によると、IT予算の変化と新たなベンダー提携が、ビジネスクリティカルなアプリケーションのモバイル化の動きをけん引する可能性があるという。「最近は複雑な業務アプリケーションの導入にも予算が付き始めている。米IBMとAppleの提携の狙いもまさにそこにある。この提携が目指すのは、生産性アプリケーションではなく、実際の業務に役立つアプリケーションのモバイル版をエンドユーザーに届けることだ」と同氏は語る。
Appleはエンタープライズアプリケーション用の設定テンプレートの開発で、MobileIronや米VMware傘下の米AirWatchと提携している。
メールなど基本的なモバイルアプリが必要なのは、外勤の従業員やタスクワーカー(限られたアプリケーションを使って特定業務をするユーザー)も同じだ。グローバルなロジスティクス企業である米Neovia Logistics Servicesは、Microsoftのオンラインサービス群「Office 365」で運用しているメールに、従業員がどのメールクライアントからでもアクセスできるようにしている。
倉庫で働く従業員は現場でメールにアクセスできるので、生産性の向上につながる。「オフィスに戻らなくても、メールをチェックしたり、返信したり、電話をかけたりできる」と、NeoviaのITアーキテクト、ヘクター・コルテス氏は語る。
Neoviaのように外勤者が多い業界では、内勤者が中心の職場と比べて、ビジネスクリティカルなアプリケーションのモバイル化に対する需要が高い。
スペインの飲料会社Damm Groupでは、販売員がモバイルアプリの必要性を感じている。同社は2015年、独SAPのCRM製品「SAP CRM」と連動するカスタムアプリケーションを開発。売り場の画像や位置情報も含め、顧客データをリアルタイムに営業担当者や流通業者の「Windows 8」タブレットに提供できるようにした。
「われわれは流通網に販売関連の最新データを迅速に提供するための手段を必要としていた。販売チームがタブレットで作業し、オンラインでもオフラインでもデータにアクセスしたり、入力したりできるようにする必要があった。販売チームは今ではノートPCを使っていない」。Damm Groupの最高情報責任者(CIO)であるルイス・ミゲル・マーティン氏はこう語る。
他にもビジネスクリティカルなモバイルアプリケーションが必要となりそうなエンドユーザーとして、PowWowのコーエン氏は次のような職種を挙げる。
- 取引や評価情報に社外からでも安全な方法でアクセスする必要がある株式トレーダー
- メモを取ったりセンサー技術で機器を監視したりするためのアプリケーションを必要とする石油ガス会社の現場作業員
- 患者情報と投薬指示のアプリケーションが必要な看護師
- 標準化されていないタイムカード処理や会計処理を扱う管理職
「当社と同様、顧客規模が大きく、販売チームが現場で作業するような業界では今後、モバイルアプリに対する需要が高まるはずだ」とDamm Groupのマーティン氏は語る。
だが複雑なアプリケーションのモバイル化は、口で言うほど簡単ではない。「標準から外れたことをする勇気を持てるかどうかだ」と、Neoviaのコルテス氏は語る。
Neoviaは、サプライチェーンの従業員が商品バーコードのスキャンと処理に使用しているRF(無線周波数)スキャナをモバイルスキャンアプリケーションへ変更。そのアプリケーションをバックエンドでSAPと連係させる計画だという。RFスキャナのハードウェア本体は約4000ドルするので、同じ業務プロセスをモバイルアプリケーションを使って従業員のモバイル端末から遂行できるようにすれば、プロビジョニングと保守のコストを大幅に削減できる可能性がある。
結局のところ、重要なのは快適さだ。基本的な生産性アプリケーションをモバイル端末に導入し、管理やセキュリティ対策が首尾よくできるようになったと実感できる企業は、より複雑なアプリケーションのモバイル化にも着手するだろう。「企業にとっての真のメリットは、モバイル化によって変革や改善が図れるようになった事業全域の日々の業務や活動の中で見えてくるに違いない」と、Ovumのアブサロム氏は語る。
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