Siri活用ビジネスアプリの誕生?
実は大ニュースかもしれないAppleとIBMの「iOS提携」
米Appleは「iOS」に関して米IBMと業務提携を結んだ。この業務提携については、懸念を持ちつつも楽観的に捉える意見と、懐疑的な見方をする意見がある。真相は?
米IBMと米Appleの新たな業務提携は双方にメリットがあるとし、ほとんどのアナリストがこの業務提携を好意的に捉えている。一方、提供されるといわれているアプリとサービスの幾つかを実際に見るまでは、どの程度のメリットがあるのか分からないと懐疑的な見方をしているIT担当者もいる。
IBMとAppleは、広大なエンタープライズモバイル分野における業務提携の一環として、業界に特化した100種類にも及ぶエンタープライズアプリを2014年秋から提供する予定だ。同時に、AppleのモバイルOS「iOS」用に最適化されたIBMのクラウドサービスも提供される。主なターゲット市場は「セキュリティ」「モバイルデバイス管理」および「データ分析」だ。またIBMは、自社の直販営業チームやパートナーネットワークを通じて「iPhone」や「iPad」を再販することも計画している。
失敗すれば2度目はない
両社が実現するアプリに企業の購買意欲をそそるほどの魅力がなければ、この業務提携は単なる大規模な再販契約となる。米ボストンに拠点を置くマネージドITサービスプロバイダーで、Appleの再販業者でもあるTech Superpowersの創設者兼代表取締役のマイケル・オー氏によると、この業務提携によってAppleはiOS搭載デバイスの売り上げを伸ばすかもしれないが、それはIT業界にとって重要ではないという。
「この業務提携が単なる再販契約に成り下がるようであれば、この業務提携は失敗に終わり、両社が協力することは二度とないだろう」(オー氏)
IBMとAppleの提携内容
- AppleとIBMは、業界に特化した100種類にも及ぶエンタープライズソリューションを開発予定だ。これには新たなiPhone/iPadアプリも含まれる
- アプリの提供は2014年秋に開始が予定されている。また、IBMはエンタープライズアプリがインストールされたiPhone/iPadを世界中の顧客に再販する計画
- AppleとIBMは、iOS用に最適化されたIBMクラウドサービスを開発する。ターゲット市場は、「セキュリティ」「モバイルデバイス管理」および「ビッグデータ/分析」
- デバイスの有効化、支給、管理に対応するIBMの新しいサービスが提供される。同時にサポートサービス「AppleCare」のエンタープライズ版も新たに提供される
IBMの巨大な顧客企業基盤を手中に収めることができても、Appleのモバイルデバイスの販売台数が伸びることについては疑問視する声もある。多くの企業ではIT部門がAppleデバイスを公式にサポートしており、既に多数のユーザーがAppleデバイスを所持している。両社の抱える顧客企業が、Appleデバイスを追加購入する理由は見当たらない。
インドWiproの米国拠点でソリューションアーキテクトを務めるマイク・ドリップス氏は次のように話す。「私たちはBYOD(私物端末の業務利用)時代の真っ只中にいる。企業は、従業員が自宅と職場で使用するデバイスに投資する必要がない。もしくは、投資するつもりがない」
一方で、IBMとAppleの優れたテクノロジーのスムーズな融合によって、この業務提携が双方にメリットをもたらすという見方をしているIT担当者もいる。また、財政面だけでなくテクノロジー面でも相互に恩恵を受けられると見ている。
「IBMのサーバベースのテクノロジーとAppleのユーザーエクスペリエンスの技術を統合すれば、どちらの企業も相互に恩恵を受けられる」と話すのは、カナダのマニトバ州ウィニペグに拠点を置くGHY Internationalの最高情報責任者(CIO)、ナイジャル・フォルトラーゲ氏だ。
IBMが最近買収したエンタープライズモビリティマネジメント(EMM)企業である米Fiberlinkや、そのクラウドベースのEMM製品「MaaS360」については、業務提携発表の場で言及されなかった。ただし、IBMはiOS搭載デバイス管理のクラウドサービスを提供する予定だ。また、製品サポートとサービスを提供する新しいエンタープライズ版のAppleCareも業務提携の対象となっている。
IBMとAppleのアプリに秘められた多くの可能性
この業務提携がもたらすテクノロジー面における利点の1つに、Appleの「Siri」がアプリに組み込まれる可能性が挙げられる。Siriがアプリに組み込まれれば、ユーザーがIBMのサーバベースのデータベースやその他のデータストアにある情報に簡単にアクセスして取得できるようになる。
米ニューハンプシャー州ハンプトンの市場調査会社Technology Business Researchで主席アナリストを務めるエズラ・ゴットヘイル氏は次のように話す。「AppleがSiriをアプリのインタフェースに統合する手助けをすれば、ビジネスユーザーがSiriを使ってサーバベースの分析ソフトウェアやデータベースを照会したり、ERPの処理状況を確認したりすることが可能になる。これは興味深い見通しだ。この契約がそこまで行き着けば、それはすごいことだ」
ゴットヘイル氏によると、2014年7月中旬に開催されたアナリストへの説明会で、IBM幹部は、この業務提携が同社の管理/セキュリティソフトウェアにもたらすメリットを強調した。そのメリットは、Appleのモバイルデバイスをより適切に管理して保護できるようになることだ。IBMの製品/サービスで標準化された企業では利便性の面で大きなメリットとなるだろう。ただし、この業務提携固有のメリットにならない可能性がある。
「IBMの顧客にとっては、モバイルセキュリティ問題に対処するワンストップショップと成り得るだろう。とはいえ、BYODの管理ソリューションを提供しているのはIBMだけではない。IBMが米Hewlett-Packardや米Dellよりも強力なソリューションを提供する理由はどこにも見当たらない」(ゴットヘイル氏)
IBMとAppleの幹部は、新しいモバイルデバイスを提供する計画は示さなかった。IT部門の大半は、IBMとAppleが開発している100種類にも及ぶアプリのライセンスを取得して既存のデバイスにダウンロードすることになる。アプリがインストールされている新しいデバイスを購入することはないだろう、とゴットヘイル氏は見ている。
GoogleとMicrosoftにもたらす暗雲
この業務提携により、Appleは企業の中に強いストリートクレディビリティ(最先端でかっこいい感覚)を確立し、競合他社よりも優位に立てるだろうと予想するのは、勤務先がIBMサーバハードウェアで標準化されているフォルトラーゲ氏だ。
フォルトラーゲ氏は、カナダBlackBerryの「BlackBerry」が今でも人気を博していたなら、この業務提携がBlackBerryを衰退へ追い込むことになっただろうとも加えている。
「これは、米Googleの『Android』市場では見られない類の業務提携で、韓国のSamsung Electronicsですら、このような業務提携は行っていない」(フォルトラーゲ氏)
「Appleは、Androidからエンタープライズ市場のシェアを取り戻すのに必要な優位性をIBMから得ることになるだろう」(フォルトラーゲ氏)
この業務提携は、GoogleがAndroidビジネスで得ている利益や多数のモバイルデバイス管理ベンダーに影響を与えることが予想される。米Microsoftのモバイルハードウェアとソフトウェア製品に影響するのも必至だろう。MicrosoftのCEO、サトヤ・ナデラ氏が2014年7月上旬に全社員に送ったメッセージにある通り、同社は転換期の真っ只中にあるが、そのペースを上げる必要があるかもしれない。
「IBMは完全なモビリティを実現する、iOSと統合されたエンタープライズアプリスイートを積極的に展開している。MicrosoftがIBMに対抗できるようになるまでには、長い時間がかかるだろう。正直なところ、Microsoftにそのような能力があるのかは疑問だ」とドリップス氏は言う。
この業務提携により、IBMはフロントエンドのシステムと直接統合して企業にエンタープライズアプリを提供できるようになる。これで、米SAP、米Oracle、米CA Technologiesといった競合他社に大きな差を付けることが可能だ。だが、「企業と契約を結ぶためには企業のニーズに合ったアプリを開発しなければならない」と話すのは、米マサチューセッツ州ノースバラに拠点を置くJ. Gold Associatesでアナリスト兼主任を務めるジャック・ゴールド氏だ。
「アプリの出来が悪ければ、買わないだけの話だ。メーカーが誰と業務提携を結んでいるかなどユーザーの知ったことではない」(ゴールド氏)
「Microsoft Office」と「Google Apps」が覇権を握っている生産性向上/コラボレーション市場をAppleとIBMがすぐに目指すことはないだろうというのが、大方の業界関係者やユーザーの見方だ。米マサチューセッツ州のネイティックを拠点とするVDC Researchのアナリスト、エリック・クレイン氏によると、まずはビッグデータと分析の分野を攻めることが予想され、その立役者となるのがIBMの分析ツール「IBM Cognos」だという。Cognosは、2011年からiPadで使用可能になっている。
だが、この業務提携は戦略的な重要性が過剰宣伝されているだけで、うまくいかない可能性があることを指摘するアナリストもいる。
「これはハードウェアとエンタープライズサービス企業による業務提携だ。個人的には、取るに足らない発表について大騒ぎしているように見える」と、米ワシントン州カークランドの市場調査会社Directions on Microsoftでアナリストを務めるウェス・ミラー氏は語る。
「衝撃的なニュースと報じられているが、私はそうは思わない」(ミラー氏)
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