生徒と進める西大和学園のIT活用【後編】
東大・京大進学校、西大和学園生はなぜ「iPadで学校改革」に本気なのか(2/2 ページ)
西大和学園生が語るIT活用の課題
このように、iPadなどのIT活用は、学校側にも生徒側にも確実にメリットをもたらしている。だがiCT運用委員会のメンバーは、IT活用を進める際に対処すべき課題もあると指摘する。
櫻井さんがIT活用の課題として挙げるのは、「ITが使える生徒とそうでない生徒との間に生じた情報スキルの差」だ。iPadなどのIT製品を使い慣れている生徒は、多様なサービスを自ら積極的に使っていく。一方、IT製品に不得手な生徒は、情報や知識の浸透に時間がかかるという。
今の高校生は、生まれたときからITに囲まれて育った世代として「デジタルネイティブ」と呼ばれる。また画面のタッチで操作できるスマートフォンやタブレットは、誰でも直感的に操作できるといわれる。だが、それは皆に当てはまることなのだろうか。
実際には、表計算やワープロといった多少複雑なアプリの操作だけでなく、アプリやサービスのアカウント取得といった基本的な操作ができない生徒も少なくないと、iCT運用委員会のメンバーは明かす。具体的な解決策の1つとして櫻井さんは、「生徒全員に一斉配信ができるマニュアルが必要ではないか」と提案する。
米国留学経験を持つ山本さんは、米国現地校のように生徒同士が活発に議論やディスカッションをする学習環境を作り出すためには、現状のシステムだけでは必ずしも十分ではないと考えている。具体的には、現地校が使っていたオンラインLMSサービス「Schoology」の導入が効果的ではないかと主張する。西大和学園では既に、同様のサービスであるClassroomを利用しているが、Schoologyはディスカッションが可能なSNS機能を搭載するなど、コミュニケーション機能が充実しているという。
西大和学園生が熱弁「ITを使うなら、授業や学校はこうあるべき」
難関進学校である西大和学園に通う彼らにとって、日々の授業や学習に取り組む際、常に念頭に置いているのは大学受験であろうことは容易に想像できる。そのため、授業に対して抱く目的意識は高いはずだ。そんな生徒の目に、IT活用は実際のところどう映っているのだろうか。
山本さんは「普段のテストや入学試験でもITを活用してほしい」と訴える。現状の試験では、最終的に学力を判断するのはITではなくペーパーテストである。こうした現状では、いくら授業でITを使ったとしても、結果として注力するのは紙と鉛筆を使った書く作業にならざるを得ないというのが、山本さんの見方だ。櫻井さんも、この意見に同調する。
大学入学試験をはじめ、現状のテストで主に問われるのは知識だ。一方で西大和学園でのIT活用授業は、生徒同士が教え合い学び合う「協働学習」が多く、必ずしも知識の習得自体を目的としているわけではない(写真2)。そのような授業に対して、ITを使う意味や目的意識が見いだせない生徒もいるかもしれない。そのため、授業でITを使うからには、その目的を明確化する必要があるのではないか――。山本さんや櫻井さんの意見からは、そんな考えが垣間見える。
一方で、IT活用を授業変革の機会として期待する声もある。「授業は課題を与えられる場でなく、意識を高める場であってほしい」と語る廣河さんは、ITを使った生徒同士のコミュニケーションをベースにした学習が、生徒の学ぶ意欲の向上やモチベーション維持につながると考えている。
インターネットを使って情報収集をしながら、他の生徒と議論する時間を十分に確保する。こうした授業を実現するために、「板書を写す時間を省略してもよいのではないか」と廣河さんは提案する(写真3)。「ずっと板書を書き写すような授業であれば、テキストを製本して配布してほしい」(同)
「iCT運用委員会だけでは変革は無理」 生徒会の役割が重要に
西大和学園のiCT運用委員会は実のところ、学校側が正式な委員会として認めているわけではない。ただし、新しい組織だからこそ、既存の組織にとらわれず新たなチャレンジできる。今回話を聞いた3人は、そんな環境を最大限に生かして、今も積極的な活動を続けている(写真4)。
ただし、実際にiCT運用委員会の活動に取り組んだ山本さんと櫻井さんは、「iCT運用委員会の活動だけでは学校は変えられない」と痛感したという。そこで2人が取った行動が、生徒会役員への立候補だ。生徒全体、学校全体へ働きかけていくためには、生徒会が動くことが必須だと考えたからだ。結果、2人は見事に生徒会会長と副会長に当選。現在はiCT運用委員会に在籍する傍ら、生徒会活動にも従事している。
生徒会が動いてこそ、iCT運用委員会の活動も加速化もできる。タブレット導入校では、西大和学園のiCT運用委員会と同様の「ICT委員会」を設置するケースが増えている。ただし、生徒の考えや意見を実際のIT活用や普及に生かすには、生徒会がどのように関わるかが重要な視点だといえそうだ。
iPadを“便利パッド”で終わらせない 皆の意識を変えるツールへ
「iPadを、学校にいる皆の意識を変えるためのツールにしていきたい」。iCT運用委員会 委員長の廣河さんは、活動の根底にある信念をこう語る。前編で述べた通り、西大和学園のiPad導入は、学校をより良くするためのアイデアとして、生徒から挙がった「SNSを活用した学習効率向上のシステム導入」の提案がきっかけで始まった。その提案を実現していくためには、単に効率化や便利さを求めてiPadをはじめとするITを活用するのではなく、生徒の意識や学び方も変えていかなければならないとiCT運用委員会のメンバーは考えている。
生徒会と兼任してまで、ITを使った学校改革を進めようとするiCT運用委員会のメンバー。ITで、学校の何をどう変えていきたいと考えているのだろうか。皆の意識が変わるためには、学校に何が必要だと感じているのだろうか。
「自分たちが今、iCT運用委員会を通して経験していることを、他の多くの生徒もできるようにしたい」と山本さんは語る。新しいことへのチャレンジ、リーダーシップを発揮する機会など、生徒が成長できる場を学校の中にもっと作りたいというのだ。「高校生の多感な時期を、受動的な勉強だけで終わらせたくない。例えば想像力は、大人よりも高校生の方が高いかもしれない。いろいろなチャンスを与えてもらい、挑戦できる場が欲しい」(同)
櫻井さんは「学校の勉強だけでは学べない、人間の“総合力”を上げてくれるような学びや機会が欲しい」と話す。ここでの“総合力”はiCT運用委員会のメンバーがよく使う言葉で、コミュニケーション能力や発信力、創造力など指す。「今後、自分たちが社会に出たときに必要とされる能力を育むために、例えば社会で新しいものを作り上げた社会人から直接話を聞く機会などが欲しい」と櫻井さんは言う。
「皆の意識を高め、集団としての成長の起爆剤となるようなIT活用を提案していかなくてはいけない」。委員長の廣河さんはこう考える。iCT運用委員会での活動を通して「学校へ行く目的について再度、考え直した」と語る廣河さん。受験勉強専門の環境としては塾や予備校があり、受験に必要な知識はそこで全て手に入る。では、学校へ通う目的や意味とは何か。廣河さんがたどり着いた結論が、「学校は勉強だけではなく、人間的な成長ができる場だ」というものだ。IT活用を生徒全体の成長に結び付けたいという思いが、廣河さんをはじめとするiCT運用委員会のメンバーを活動に駆り立てている。
西大和学園のiCT運用委員会のメンバーが語ってくれた内容には、教育機関がIT活用を進める上でヒントとなる要素が多く含まれているといえる。見落としてはいけないのは、メンバーが学校に求めていることは勉強の機会だけではなく、人間的な学びや成長の機会も望んでいることだ。学習者が本当に学びたいことを学ぶ機会を実現する。そのためのツールとしてITを生かす姿勢が、教育機関に求められている。
執筆者紹介
神谷加代(かみや かよ)
フリーランスライター/ブロガー。結婚を機にサンフランシスコに移住し、日本語の絵本を扱ったECサイトを運営。その後、10年の在米生活を経て帰国し、主婦ブロガーとして「家庭×教育IT」に関する話題をメインにした「主婦もゆく iPad一人歩記」を執筆。家庭や教育におけるITの在り方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ITの分野を中心にライター業、子ども向けプログラミング教室の講師として活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』。
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