教育ITキーワード解説
“究極の個別指導”を実現する「アダプティブラーニング」とは?(2/2 ページ)
実現を支援するIT:メタ情報を埋め込んだデジタル教材が肝
教育機関がITを活用したアダプティブラーニングを実践するには、冒頭に挙げたようなアダプティブラーニング支援製品/サービスの利用が近道である。上述の通り、現状のアダプティブラーニング支援製品/サービスの多くはレベルアダプティブの実現にとどまっており、かつ選択肢も限られるのが現状だ。ただし、国内大手ベンダーや教育関連企業の参入に伴い市場が活性化すれば、今後は量・質ともに充実していく可能性がある。
レベルアダプティブを実現したいのか、スタイルアダプティブを実現したいのかといった目的によって、役立つITの要素は異なると関島氏は指摘する。特に、実用化が進むレベルアダプティブの実現に必要な要素としては、以下が挙げられる。
- デジタル教材
- 学習ログ収集・分析
- 学習用端末
この中で関島氏が特に重要だと語るのは、デジタル教材だ。学習者に適切な学習内容を提示するには、問題や解説といった各要素について、それぞれどのような単元に関するものなのか、難易度はどの程度なのかといったメタ情報を埋め込む必要がある。必然的に、問題や解説は問題集や教科書といったパッケージではなく、個別に利用できるようにすることが重要になる。さらに、ある単元につまずいている原因となっている単元を把握するには、学習内容を体系化した上で、単元同士の関連性も併せて管理しなければならない。
こうしたデジタル教材の環境を整えた上で、学習者がデジタル教材で学んだ単元や問題の解答などを学習ログとして収集、分析する仕組みが必要になる。分析の結果、単元ごとの理解度や学習の進捗状況を踏まえた上で、適切な問題を学習者に提示できる。また学習用端末については、学習ログを継続的に取得するには「1人1台環境が整備されていることが理想的」(関島氏)だといえる。ただし、端末導入の過渡期においては、「教育機関の共用端末や学習者の私物端末、家庭にある端末を生かすなど、他の手段も有力な選択肢となる」(同)。
ソーシャルの活用で「仲間」の声も取り入れる
関島氏がアダプティブラーニングの効果を高める上で効果的だと指摘するのは、ソーシャルメディア機能の実装だ。例えば、デジタル教材の問題1問ごとにコメント機能を設け、ある問題の解答方法について他の学習者と議論したり、その問題を解くのに参考にした教材といった情報を共有できるようにする。システムや見ず知らずの他人から紹介された教材よりも、「知っている人からのレコメンドの方が、本気になって『やってみたい』と思える」(関島氏)といった効果を狙った工夫である。
普及状況:立命館守山中高などで実践 スタイルアダプティブはこれから
アダプティブラーニングに取り組む国内の教育機関は増えつつある。立命館守山中学校・高等学校(滋賀県守山市)は、関島氏が所属する電通国際情報サービスと共同で、アダプティブラーニングを実践する「RICS(Ritsumeikan Intelligent Cyber Space)プロジェクト」を進めている。また福岡市教育委員会とKDDIが共同で進めるIT活用教育の実証研究の一環として、そのモデル校である福岡市立賀茂小学校でアダプティブラーニングを実践した例もある。その他、上述のすららや勉強サプリなど、アダプティブラーニングの要素を備えた製品/サービスを導入する教育機関も増えつつある。
レベルアダプティブを支援する仕組みは実用化が進む一方、スタイルアダプティブについては、実証研究が中心の状況だと関島氏は説明する。スタイルアダプティブの実現には、学習者の学習方法や学習タイミングといった情報をある程度長期にわたって収集し、やる気や理解度にどう影響するかを分析する必要がある。また学習方法もタブレットへの書き込みやゲーム形式などさまざまであり、適切な手段を網羅的にそろえるのは難しい。
一方で、本当に学習者一人一人に合った学習を実現するには、レベルアダプティブに加えてスタイルアダプティブも実現することが重要になる。「今は紙に書いて覚えるしかないとしても、それが学習者にとって最も適切な方法かどうかは別の問題。学習目的が明確であれば、学習者自身が好きな方法で学べるようにすることが、無理なくかつ効果的に学習を進める有効な手段となり得る」(関島氏)。レベルアダプティブとスタイルアダプティブが組み合わさって初めて、“究極の個別指導”が実現するというわけだ。
さらに、個別の学習者だけでなく、多数の学習者の学習ログを蓄積し続けることで、現時点での学力と得手不得手といった情報を基に、「この目標を達成するには、これからどういう勉強をしていくべきか」といった“勉強ガイド”のような仕組みが実現できる可能性もある。「単独の教育機関だけで実現するのは難しい。幅広い教育機関で大量の学習ログが蓄積されていくことが重要になる」(関島氏)
教科によって適用のしやすさに差が
アダプティブラーニングの実現に当たっては課題もある。代表的な課題は、教科によってアダプティブラーニングの適用のしやすさが異なることだ。特に苦手な単元に関連する学習内容を提示するのは、算数や数学、英文法など単元同士の関連性が明確な教科・科目でないと実現が難しいと考えられる。全ての授業にアダプティブラーニングを適用するのではなく、アダプティブラーニングが得意な分野ではアダプティブラーニングを適用する、といったスタンスが現実的だといえる。
自前でアダプティブラーニングの仕組みを構築する教育機関にとっては、デジタル教材の調達も課題となる。デジタル教科書やデジタル問題集などは教材会社がパッケージ単位で販売していることが一般的であり、問題ごと、単元ごとに切り出して購入することは難しい場合も少なくない。「数学が得意」という学習者でも、単元によって得手不得手があり、適切な問題の難易度や解説の内容も異なる。可能な限りさまざまな難易度や内容の問題/解説を用意するのが理想的だが、たった1問の問題のためにデジタル問題集を丸ごと購入しなければならないとなると無駄が多くなる。
まだ発展途上ともいえるアダプティブラーニング。一方、ITの活用効果が最も分かりやすい分野ともいえることもあり、今後も教育機関とベンダーの双方で取り組みが進むことは間違いないだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[キヤノンマーケティングジャパン株式会社] マンガで学ぶXDR/MDRのメリット、中小企業のセキュリティ強化になぜ有効か? -
市場調査・トレンド
[キヤノンマーケティングジャパン株式会社] 有識者が語る、中堅中小企業に求められる最新のサイバーセキュリティ対策とは -
製品資料
[キヤノンマーケティングジャパン株式会社] マンガで解説:情シスの負担を減らす「MDRサービスのインシデント対応」の中身 -
市場調査・トレンド
[SANS Training Japan 合同会社] “知識”では守れない AI時代に問われる実戦力の身に付け方 -
製品資料
[株式会社イトーキ] 会議室不足を解決する「AI×データ」活用術
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
2
Microsoft 365移行で露呈した標準機能の限界 地方銀行は上長承認や「脱PPAP」をどう実現?
-
3
年収が増えても幸せになれない 給与増でエンジニアが直面する「幸福度の壁」
-
4
Microsoft 365導入後も稟議は「Excelをメールで回覧」 承認が止まる理由
-
5
「また同じ説明か」 消費者の半数が離脱するAIチャットbotの“記憶喪失”
-
6
生成AIが普及しても「技術書」を手放せないエンジニアの本音
-
7
SAPやOracleが警戒する「ERPの土管化」 汎用AIとの主導権争いが激化
-
8
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
9
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
10
「Windows」の不要なファイルを安全に消して容量を空ける方法
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
-
3
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
4
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
5
2026年のサイバーセキュリティには何が必要か? 最新データに学ぶ傾向と対策
-
6
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
7
SASE選定は「見極め力」で大きな差――本当に必要な製品を選ぶための6つの視点
-
8
マンガで学ぶXDR/MDRのメリット、中小企業のセキュリティ強化になぜ有効か?
-
9
脱VMwareに成功した企業は何をどう実践した? 事例に学ぶ戦略立案&実装のコツ
-
10
自社データから高精度な回答を生成、簡単に生成AIチャットボットを構築する方法
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー