教育ITキーワード解説
学生自ら学びたくなる学習法、「アクティブラーニング」とは?
教員から学習者への一方向型の授業ではなく、学習者の能動的な学習を促す学習方法である「アクティブラーニング」。その注目の背景や実現を支えるIT製品を整理する。
学習者の能動的な学習を促す「アクティブラーニング」への関心が高まっている。取り組みを進める教育機関は大学から高等学校、小中学校まで幅広く、「アクティブラーニング支援」をうたうIT製品も急速に充実。2015年5月に開催された教育関係者向け年次イベント「第6回 教育ITソリューションEXPO」でも、アクティブラーニング関連の事例や製品が数多く紹介され、来場者の注目を集めていた。
国もアクティブラーニングを後押ししている。文部科学大臣は2014年11月20日、小中高校の学習内容を定める学習指導要領の改訂について、文部科学省の諮問機関である中央教育審議会に諮問。その中でアクティブラーニングの重要性を指摘し、指導方法や評価手法の検討を要請した。また中央教育審議会は2014年12月22日の答申で、高等学校や大学でのアクティブラーニングの充実を明記している。
ここに来て、アクティブラーニングへの関心が高まっている理由とは何か。アクティブラーニングの実践に役立つIT製品とは。教育機関のアクティブラーニング支援にいち早く取り組んできた内田洋行で公共本部コンテンツ企画部部長を務める青木栄太氏、プロダクト企画部ICTプロダクト課長兼任部長の畠田浩史氏、同社グループで学習空間の構築を手掛けるパワープレイス常務取締役の濱村道治氏の話を基に解説する。
アクティブラーニングとは:学習を一方向から双方向へ、主体性向上を促す
アクティブラーニングとは何か。中央教育審議会が2012年8月にとりまとめた答申によると、教育から学習者への一方向型の授業ではなく、学習者の能動的な学習への参加を取り入れた教授・学習法の総称である。また、アクティブラーニングでは教員と学習者、学習者同士での議論を中心とした双方向型の授業を想定する。知識の獲得だけではなく、獲得した知識を生かし、問題の発見や解決に主体的に取り組む力を養うなど、知識の活用にも焦点を当てる。
上述の答申では、アクティブラーニングの具体的な方法として、教室内でのグループディスカッションやディベート、グループワークなどを挙げる。実際の教育機関での実施例を見ると、一方向型の授業の中にこうしたアクティブラーニングの要素を盛り込んだり、双方を別々に実施するなどの“折衷型”が目立つ。小樽商科大学など、予習で基礎知識を習得してもらい、授業内でグループワークなどに取り組む「反転授業」形式のアクティブラーニングを実践する教育機関も現れつつある。
現状への不満が普及を後押し
「次世代を担う人材に求められる能力は、今までとは異なる」。内田洋行の青木氏は、アクティブラーニングへの注目が集まる背景をこう説明する。
実際、産業界からのアクティブラーニングへの期待は高い。日本経済団体連合会(経団連)が2015年3月に発表したグローバル人材育成に関する企業アンケートの結果では、大学に優先的に取り組んでほしい教育方法やカリキュラム改革として、アクティブラーニングや課題解決型学習(PBL)の実施を挙げた企業は87%に上った。グローバル人材の基礎力として、アクティブラーニングを通じた主体性向上を求める企業の声は確実に高まっている。
教育機関も現状に満足しているわけではない。「従来の授業形式に対する教員、学習者双方からの不満が、教育機関がアクティブラーニングに取り組むモチベーションになっている」と、パワープレイスの濱村氏は指摘する。
教員が多数の学習者に対して一斉に指導する従来の一方向型授業は、教員から学習者への知識の伝達手段としては効率的だと考えられる。一方でこうした授業形式では、学習者に対して、獲得した知識を活用する機会を授業内で提供するのが難しく、個人学習に依存せざるを得ないという課題がある。また漫然と授業を受ける学習者を生んでしまい、そもそも知識の定着につながりにくいのではないか、という考え方もある。
もちろん、上述の通り一方向型授業が適切なシーンもあるし、「アクティブラーニング」と呼ぶかどうかはともかく、演習を盛り込むなど能動的な学習を促す工夫を凝らしてきた教育機関は少なくない。それでも、現状の教育に対する内外からの課題意識や期待の高まりが、教育機関をアクティブラーニングへの取り組みに駆り立てる原動力となっている。
実現を支援するIT:インフラ、端末、システムの組み合わせが鍵
アクティブラーニングは授業/学習スタイルそのものに影響を与えるだけに、関連するIT製品は幅広い。冒頭で述べた通り、市場にはアクティブラーニング支援製品をうたうIT製品が相次ぎ登場しているものの、「これさえ導入すれば、アクティブラーニングが実現できる」といった製品があるわけではない。なすべきことを明確にした上で、その取り組みを支えるインフラやIT機器、システムを必要に応じて組み合わせることになる。
各教育機関の方針や学習者の発達段階によって、適切なアクティブラーニングの形は異なり、役立つIT製品も変わる。一般的にアクティブラーニングに役立つと考えられる主要なIT製品として、畠田氏は以下の9種を挙げる。
- 無線ネットワーク(無線LANアクセスポイントなど)
- モバイル端末(タブレット、ノートPCなど)
- プロジェクター/大型モニター(電子黒板機能が付いたものを含む)
- 無線映像伝送製品(無線ネットワーク経由で映像を伝送する製品。米Appleのセットトップボックス「Apple TV」など)
- AV(音響・映像)切り替えシステム(教室内の各種AV機器を制御する製品。AVセレクターなど)
- 遠隔授業/会議システム(映像や音声で遠隔地の教室同士を結ぶシステム)
- 授業・学習支援システム(教員の授業進行や学習者の学習を支援するシステム)
- デジタルノート/デジタルペン(アナログの紙に書いたデータをデジタル化する機器/システム)
- クリッカー(教員の質問に対して学生がリアルタイムに回答できるシステム)
ITを生かしたアクティブラーニングを無理なく進めるには、個別の製品導入だけでなく、「各製品をどう組み合わせ、どう統合管理するかが重要になる」と畠田氏は指摘する。その具体例として同氏が指摘するのが、AV切り替えシステムの重要性だ。
アクティブラーニングの実践内容によっては、映像や音声を多用するプレゼンテーションを盛り込むケースもあるだろう。その場合、スクリーンやプロジェクターといった映像機器、スピーカーをはじめとする音響機器、照明など、幅広い機器を活用する機会がある。これらの機器を全て手作業で制御するとなると、機器に不慣れな教員にとっては骨が折れる。AV切り替えシステムがあれば、例えば手元のタブレットなどで機器のオン/オフを切り替えたり、スピーカーの音量を調整したりできる。
モバイル端末も活用の可能性
スマートフォンやタブレット、ノートPCといったモバイル端末も、アクティブラーニングの可能性を広げるものとして活用が進むと考えられる。
移動式の机やいすを整備し、グループを頻繁に組み替えて議論しやすくするなど、活発な議論を促すために教育機関は知恵を絞る。ただし、端末がLANにつながれたままでは、端末使用時には特定の場所にとどまらなければならず、手軽に端末を利用できない。無線ネットワーク接続が前提で可搬性に優れるモバイル端末であれば、思い立ったときにすぐ端末を利用できる利点がある。
特に、学習者のスマートデバイスやノートPCの保有率が比較的高い大学では、私物端末の利用(BYOD)も現実的な選択肢になり得る。例えばクリッカーには、スマートデバイスを使って手軽に回答を送信できる機能を持つものもある。こうしたクリッカーと、学習者が持つスマートフォンやタブレットを組み合わせれば、特別な機器を整備することなく双方向型の授業が実現できる。
普及状況:専用施設は2000年代中盤から普及、ノウハウ確保が課題
アクティブラーニングは「既に2000年代中盤から、国内でも実践事例がある」と濱村氏は説明する。東京大学が2007年に開設した「駒場アクティブラーニングスタジオ」(KALS)をはじめ、大学を中心にアクティブラーニングの専用施設の設置が進む。大学図書館をアクティブラーニングの拠点にする動きもあり、「ラーニングコモンズ」「アカデミックコモンズ」と呼ばれる専用空間を図書館の内外に設ける大学も少なくない。
このように施設が整ったとしても、アクティブラーニングを進める教育機関や教員のノウハウが伴わなければ、具体的な効果を生むことは難しい。とはいえ、アクティブラーニングの授業ノウハウは一朝一夕に得られるものではない。「施設を作ったとしても、それをアクティブラーニングにどう生かすかに関するノウハウを十分に蓄積している教育機関は、それほど多くない」と青木氏は指摘する。
教育機関の間でもこうした状況に対処すべく動き始めている。例えば同志社大学は、アクティブラーニングの一手法であるPBLについて、その方法論化や学外も含めた事例共有に取り組む「PBL推進支援センター」を開設済みだ。内田洋行をはじめとするベンダーも、単にIT製品導入や施設整備を支援するだけでなく、模擬授業の実施などIT製品の活用ノウハウを伝えるといった努力をしているという。
その他、効果検証手法の開発や実施時間の確保など、アクティブラーニング実践に当たって対処すべき課題は少なくない。ただし、教育機関とベンダー双方の努力と工夫で、こうした課題は徐々に解消されると考えられる。
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