「アクティブラーニング」促進の武器に
庭園付き和室も完備、関西学院大学の学び空間「アカデミックコモンズ」に潜入
関西学院大学が2013年4月に開設した「アカデミックコモンズ」。電子黒板、プロジェクターといったIT機器に加え、和室などのユニークな設備を備え、学生の主体的な学びを促す。
「関関同立」で知られる関西私学の雄、関西学院大学(兵庫県西宮市)。学生の主体的な学びである「アクティブラーニング」を促進すべく、同大学が2013年4月に開設したのが、共同学習空間(コモンズ)の「アカデミックコモンズ」だ。神戸三田キャンパスに位置し、「CRESCENT」の愛称を持つアカデミックコモンズは、同キャンパスを拠点とする理工学部や総合政策学部の学生が利用する。
アカデミックコモンズでは、アクティブラーニングを促進すべく、レイアウトやIT環境に工夫を凝らしている。関西学院大学は、どのような経緯でアカデミックコモンズを設立したのか。そこで活用されているIT製品とは。同大学 神戸三田キャンパス事務室で課長補佐を務める中谷良規氏に話を聞いた。
アカデミックコモンズとは:主体的学びを促す開放的な空間 イベントにも活用
建物の中に入るとすぐ目の前に広がるのが、約800平方メートルの面積を誇る「アクティブラーニングゾーン」だ(写真1)。2階部分を貫いた2層吹き抜けで、大きな壁のない開放感のあるアクティブラーニングゾーンには、可動式の机やいす、ホワイトボードが多数並ぶ。学生は目的に応じて机を組み合わせ、ディスカッションやブレインストーミングなどに取り組む。
このアクティブラーニングゾーンは、学生主体のイベントでも活用できる。アカデミックコモンズでは、プログラミングワークショップやプロジェクションマッピングなど、学生の自発的なプロジェクトが多数動いている。アカデミックコモンズ開設直後の2013年6月には、小学生向けのロボット工作を実施するなど、学外の一般人も参加可能なイベントの開催例もある。
アカデミックコモンズの利用は無料だ。ただし、アクティブラーニングゾーンを貸し切るなど比較的大規模なイベントを開催する際は、イベントの概要や狙い、想定する学びの効果といった内容をまとめた企画書の提出を学生に義務付けている。しかし、小規模な学生間の打ち合わせや学習活動に利用する場合、申請は必要ない。
アクティブラーニングゾーン以外にも、目的に応じてさまざまなゾーンを用意している。「クレセントラウンジ」というカフェを併設したリラックススペース、掘りごたつ風のテーブルを備えた和室の「新月の間」などだ(写真2)。新月の間は、ミーティングに利用できるだけでなく、茶会や落語など日本文化を留学生に伝えるといったイベントにも利用できる。
移動式のIT機器で学びをサポート
アカデミックコモンズでは、学生の学びの可能性を広げるべく、さまざまなIT機器を導入している。ノートPCはもちろん、60インチの大型液晶ディスプレーを備えた電子黒板、60インチと100インチの稼働式スクリーン、卓上プロジェクター、単焦点プロジェクターなどを配備する(写真3)。無線LANも利用可能だ。机やいすなどと同様、これらのIT機器も基本的には全て固定式ではなく移動式だ。「機器を固定すると、考えも凝り固まる」(中谷氏)という考え方がその背景にある。
約70人を収容可能なシアターには、無線LANやプロジェクターに加えてWebカメラも配備(写真4)。ノートPCに導入した「Skype」などの音声通話アプリケーションを使えば、大人数でのリモート会議も可能だ。ボランティアサークルなど海外で活動するサークルが、渡航前に現地の大学などとミーティングやディスカッションをする際に有効活用できる。
クレセントラウンジには、アカデミックコモンズで開催されるイベント情報に加え、学生が作成した映像作品などを表示するデジタルサイネージを設置。クレセントラウンジに直結したバスロータリーからのバスの出発時間も表示し、学生がバス出発までの時間を有効活用できるようにしている。
アカデミックコモンズ設立の経緯:課外活動に最適な場を生み出す
「構想は2009年からあった」(中谷氏)というアカデミックコモンズ。設立を検討するきっかけとなったのは、既存施設だけでは学生の課外活動のニーズに応えられないという意識の高まりだ。
アカデミックコモンズがある神戸三田キャンパスは、周囲が緑に囲まれた郊外型のキャンパスだ。近隣に店舗などはほとんどないため、「学生はキャンパス内に1日中滞在することが多い」と中谷氏は語る。
学生が講義以外で自由に過ごせる場所は限られている。特に1、2年生など研究室やゼミに所属していない学生の場合、過ごせる場所といえばもっぱら食堂だ。「食事も課外活動も食堂で済ますという学生も少なくなかった」(中谷氏)
食堂の他にも図書館がある。だが図書館は本来、個人または少人数で静かに利用することを想定した施設だ。「グループで話し合いをするときに図書館を利用する学生も多く、図書館が騒がしい状態になっていた」と中谷氏は説明する。
こうした状況を踏まえ、アクティブラーニングの基盤ともなる課外活動のための専用スペースとして、アカデミックコモンズの検討が始まったという。
学部横断組織で目的を明確化
構想は2010年に具体化した。食堂や図書館などを含む当時のキャンパス全体の機能を洗い出し、アカデミックコモンズを何のための空間にするかを検討。「学生の主体的な学びの場とする」ことを決めた。その後、建物の設計や建築場所の選定を進め、ハード面での仕様確定を進めていった。
2012年には、「用途が明確でないと、遊びの空間になりかねない」(中谷氏)という懸念から、「アカデミックコモンズ活性化委員会」という学部横断の教職員組織を構成。16人の教職員が月1回集まり、アカデミックコモンズの用途を議論。100種近くのプロジェクト案をまとめ上げた。
教職員が用途を考えるのは、学生の主体的な学びを実現するという、アカデミックコモンズの目的から外れるようにも見える。だが活性化委員会のプロジェクト案は、新しい施設であるアカデミックコモンズがどのような用途で使えるのかを示したたたき台にすぎないという。「活性化委員会が考えたプロジェクトしかできないというわけではない。その枠を壊す動きがどんどん出てきてほしい」(中谷氏)
アカデミックコモンズの効果:文理交流も促進、“社会人力”の育成も
2013年4月の開設とまだできてから日が浅いアカデミックコモンズだが、その効果は少しずつ見え始めているという。「『こんな学生がいたんだ』と、今までは見えなかった学生の才能が見えやすくなった」(中谷氏)こともその1つだ。
理系である理工学部と、文系である総合政策学部の学生との交流から、新たな学びが生まれるといった効果も見え始めているという。「海外で起きている問題を総合政策学部の学生が紹介し、その解決策を理工学部の学生と共に考える、といった動きも起こりつつある」(中谷氏)。こうした文理の交流が、「幅広い視野を持った人材育成に寄与する」と中谷氏は考えている。
就職活動が本格化する3年生になる前に、社会人の基礎となる力を身に付ける場としても効果的だと中谷氏は見る。「コミュニケーションスキルやリーダーシップ、企画力、問題解決能力などは、1つのグループの中で何かに取り組む中で習得できる」(同)。3年生以上では専門領域の講義や研究活動が増えるため、「自らの専門領域に入る前に、いろいろなことを体験してほしい」(同)という思いもあるという。
課題も少なからずある。電子黒板など、一部のIT機器の利用が想定したよりも進んでいないことが現状の悩みだ。「どう使えばよいのか、どのようなことに使えるのかが分からない可能性がある」(中谷氏)との仮定から、学生に活用方法を紹介する取り組みを学生と共に進める考えだ。
関西学院大学は2014年4月、西宮上ケ原キャンパスにも「ラーニングコモンズ」(愛称: CReatE)という同種のコモンズを開設した。同大学にとって、コモンズは不可欠な存在となりつつある。
アカデミックコモンズに込めた思い:“勉強場所”ではなく人間性育成の場に
「大学の学びの場は講義だけではない。幅広い視野を培い、自分の興味を持ったものを実現してほしい」――。中谷氏はアカデミックコモンズに込めた思いをこう語る。「アカデミックコモンズは、生きた学びの場。情報を発信し、共有し、仲間を増やしていく。こうした経験を学生に積んでほしいと考えている」(同)
「ラーニングコモンズ」などの名称を持つ大学のコモンズは、文献検索の支援など、一般的には講義関連の学習や研究活動を支援する、いわば「勉強場所」(中谷氏)という位置付けだ。関西学院大学のアカデミックコモンズは、こうした従来の学習の延長線上にあるコモンズにはしたくないというのが、中谷氏の思いだ。そのため、アカデミックコモンズを通常の講義の場として提供する考えは「一切ない」と中谷氏は言い切る。「人間性を育てる場として、コモンズが発達していけばよいと考えている」(同)
少子化の影響もあり、大学間競争が激しくなる中、「独自性のある大学でないと選ばれない時代になった」と中谷氏は語る。2015年4月に理工学部の学科再編を控え、2019年には6000人の学生が集う関西学院大学 神戸三田キャンパス。その中核施設として、アカデミックコモンズがどのような役割を果たしていくか。今後に注目だ。
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