「iTeachersカンファレンス 2014 Spring」リポート
iPad授業の先駆者が語る、学校IT活用「最悪のシナリオ」とは?
IT製品の活用を持続的な取り組みとするには。5年後の教育ITを巡る「最悪のシナリオ」とは――。教育IT活用の先駆者たちが、こうした疑問を解く。
教育現場へのIT活用を実践する教育者チーム「iTeachers」は2014年4月、教育関係者向けイベント「iTeachersカンファレンス 2014 Spring」を開催した。テーマは「教育ICT、成功への分岐点」。新学期を迎え、各地の教育機関でタブレットをはじめとするIT製品活用の新たな取り組みが始動する中、教育ITの今後を占う材料を得ようとする参加者の熱気に会場は包まれていた。
イベントのラストを飾ったのがトークセッションだ。トークセッションには、米Appleのタブレット「iPad」などのIT製品を教育機関に生かすiTeachersのメンバーに加え、現役の高等学校生1人が参加。iTeachersのメンバーや会場の参加者からの質問に答えた。本稿は、トークセッションの内、教育IT関連の主要な質問とその回答をピックアップして紹介する。
トークセッションの参加者(50音順)
大阪大学 教授 岩居弘樹氏
新潟大学教育学部附属新潟小学校 教諭 片山敏郎氏
広尾学園中学校・高等学校 教諭 金子 暁氏
デジタルハリウッド大学/デジタルハリウッド 准教授 栗谷幸助氏
玉川大学 准教授 小酒井 正和氏
神戸大学 医師・医学博士 杉本真樹氏
千葉県立袖ヶ浦高等学校 教諭 永野 直氏
千葉県立千葉高等学校 2年 山本恭輔さん
司会
俊英館/教育ICTコンサルタント 小池幸司氏
質問1:「インターネット社会」のマイナス要素は?
「インターネットの活用が生活全般に浸透する中、大学生や社会人が陥りがちなマイナス要素とは何か」。広尾学園の金子氏はこう質問した。
キャンパス全体で無線LANが利用できるというデジタルハリウッド大学。同大学の栗谷氏は、「特に大学生は問題の答えを求めるとき、自分で考えることをせず、インターネット検索で答えを探してしまう傾向がある」と現状を嘆いた。「インターネットは、答えそのものを得る手段ではなく、自分で答えを導き出すための情報を探す手段。インターネットの使い方に関するファシリテーションをする必要があると感じている」(栗谷氏)
医学生を教える神戸大学の杉本氏は、「インターネットで探していたことが、事実とは違うこともある。自分の足で確認することも重要だ」と、インターネットの情報に依存することの危険性を強調した。一方、ソーシャルメディアでの発言も、「“知ってるつもり”の情報を他の人に発信してしまう危険性もある」と注意を促した。
質問2:IT製品のデメリットは?
大阪大学の岩居氏が向けた質問は、「IT機器導入のデメリットは何か」。板書ではイメージしにくい物理現象を動画でイメージしやすくするなど、IT製品が教育機関にもたらすメリットは多い。だが同時に、利用に当たって注意すべきこともある。
情報コミュニケーション科の生徒にiPadを利用させている千葉県立袖ヶ浦高校の永野氏は、「『生徒はタブレットで遊んでしまうのではないか』『情報漏えいの危険性はないのか』といった懸念を抱く人はいる」と認めた。ただし、こうした懸念のためにIT製品を一切活用しないなど、「IT機器の長所を生かせなくなる潮流を作らないようにしたい」と強調した。
袖ヶ浦高校では、基本的には生徒自らIT製品の利用ルールを決めている。とはいえ、「アプリケーションの利用禁止といった規制をせずに、生徒がIT製品をうまく使えるように経験を積ませるには時間がいる」と永野氏は指摘。「省力化はIT機器導入のメリットの1つだが、こうしたところには労力をかける必要がある」と語った。
質問3:「持続的なIT活用」をどう進めるべきか?
「教員はいろいろな環境でIT製品を活用しているが、IT製品活用の持続性についてはどう考えているか」。千葉県立千葉高校の山本さんは、教育機関の今後のIT活用を考える上で重要な質問を寄せた。特に公立学校の場合、IT製品の活用に積極的な教員が異動で学校を去ると、IT製品の活用が滞ってしまう可能性がゼロではないからだ。
IT導入の取り組みを「楽しいからやっているのが本音だ」と語る大阪大学の岩居氏は、「まだ柔軟性のある若い教員を少しずつ説得しながら、自分なりのIT製品の使い方をセミナーや講演会などで広めている」と説明した。
これまで複数の大学でIT活用を模索してきた小酒井氏は、「2人以上は、自分の“クローン”となる人材を確保しておくべきだ」とアドバイスした。ただし、「自分と同じ考え方と、そうでない考え方の教員双方を仲間にしておくべきだ」と指摘した。自分と異なる考え方の教育がいれば、取り組みを引き継ぎつつ、改善すべきところを見つけて改善できる可能性が高まる。
質問4:“タブレット嫌い”の教員を巻き込むには?
「タブレットを活用したくない、活用する必要がないと考える教員がいる場合、教育機関はどういった段取りでタブレット活用を進めていくべきか」。会場の参加者からはこんな質問が出た。
永野氏は、「教科書的にはIT製品自体の『研修』だが、それだと意味が無いし、IT製品の良い使い方が生まれない」と前置きしつつ、むしろ「教員自身がどういった授業をしたいかが重要だ」と強調した。教員の想像力を高めるための手段として永野氏は、「良い授業をしている教員を見てもらい、学習ドリルで使うといった単純な使い方だけではなく、どういった授業の広がりがあるかを把握してもらうのが大切だ」とアドバイスした。
質問5:管理職のコミットをどう得る?
教員がボトムアップでIT製品の導入を進めようとすれば、越えるべきハードルは少なくない。大学教員からは、「管理職からのコミットをどのように得るか」について質問が上がった。
玉川大学の小酒井氏は、「管理職がどういうことに“うまみ”を感じるかを把握しておくことが必要だ」と指摘した。IT製品の導入や活用、その成果が、管理職自身や教育機関全体のメリットにつなげることが説明できれば、大きなコストが掛かるIT製品導入にも納得してもらいやすくなる、という考えに基づく。実践には「日頃から常に人を見ておく必要がある」(小酒井氏)など、日常的な行動が鍵になりそうだ。
質問6:リアルとバーチャル、バランスをどう取る?
直接会って話すといった“リアル”なコミュニケーションと、SNSなどのデジタルツールを使った“バーチャル”なコミュニケーションには、それぞれにメリットとデメリットがある。コミュニケーションに限らず、リアルとバーチャルをどう使い分けるかは、今後も重要な課題となるはずだ。ある省の室長は、「リアルとバーチャルのバランスをどう考えているか」と問題提起した。
金子氏は、iPadなどのデジタルな教育手段と、従来型のアナログな教育手段とのバランスを課題視している1人だ。同氏によると、広尾学園では「IT活用を進める一方で、携帯電話も電気製品も使えないところに、生徒を送り込んで生活してもらうといった取り組みを進めている」という。
質問7:教員の指導時、IT活用の何を見るべきか?
教員を指導する立場での質問も出た。教育委員会の指導主事を務める参加者が寄せたのは、「現場の教員にIT関連の指導助言をする際、どのような観点で授業を見るべきか」という質問だ。
新潟大学教育学部附属新潟小学校の片山氏は、観点は「思考の可視化」と「コミュニケーション」の2つあると指摘した。思考の可視化は、マインドマップやプロジェクターで思考を見やすくするなど、可視化ツールとしてIT製品を機能させているかどうかといった観点。コミュニケーションは、いかにコミュニケーションを機能させるためにIT製品を活用しているか、といった観点だ。
質問8: 5年後のIT活用、理想と最悪のシナリオとは?
高校の教務主任/ICT準備係の参加者から上がったのは、「教育機関のIT活用の今後5年間および5年後の状況として、理想的なシナリオ、現実的なシナリオ、最悪なシナリオとは何か」という質問だ。
岩居氏が理想的なシナリオとして挙げたのは、「実現するかどうかは分らないが、『ICT教育』という言葉が無くなる状況」だ。岩居氏は、「『鉛筆支援授業』『黒板支援授業』とは誰も言わない」と指摘。教育機関で当たり前のものとしてIT製品が利用されるようになる状況が理想的、ということだ。また現実的なシナリオとして岩居氏は、「どこにいっても、無線LAN環境が整えてもらえる状況」を挙げた。
では、最悪のシナリオとは何か。岩居氏が挙げたのは、以下の3つの状況だ。
- 使いにくいデバイスを無理やり使わせる
- 何が何でもデジタルデバイスを使わせようとする
- “IT活用技術”という入学試験科目ができる
中でも興味深いのが、3つ目の「“IT活用技術”という入学試験科目ができる」である。これからの社会を生き抜くための基礎的なスキルとして、教育機関がIT活用技術の育成を重視することは自然なことのように思える。ここで岩居氏が懸念しているのは、「外国語学習と同様、知識だけで実践を伴わない科目ができてしまう」ことだ。
長い間勉強していたにもかかわらず、実社会で使えない――。IT活用技術の重視という名目で、そんな科目を学習者に学ばせなければいけなくなるとすれば、教育機関にとっても学習者にとっても“悲劇”である。学習者が黒板や鉛筆と同様、自然なツールとしてIT製品を使いこなす。そのためには、知識の習得だけでなく、学習者が授業や学校生活の中でIT製品を積極的に活用することこそ有効なはずだ。
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