「Google Atmosphere Tokyo 2015」リポート
目指せ“生涯アドレス化” 慶應義塾が考える「Google Apps for Education」の使い道(2/2 ページ)
導入/運用時の課題:3つの“山場”に直面
慶應義塾のメールシステム刷新は、決して順調に進んだわけではない。Google Apps for Educationの導入時から運用時に至るまで、さまざまな“山場”があったと金子氏は話す。
山場1:“都市伝説”の払拭
1つ目の山場は、Gmailへの移行に伴う“都市伝説”、つまり誤解の払拭だった。慶應義塾では、教職員や学生といったエンドユーザーに「メールシステムをグーグルのサービスへ変更する」と告知した当初、「メールアドレスのドメインがgmail.comになるのか」「これまでのメールアドレスは使えなくなるのか」「ITC本部はメールの提供をやめるのか」といった不安の声が一斉に挙がったと金子氏は明かす。
こうした不安の多くは、誤解に基づくものだったという。例えば、メールアドレスのドメインは「gmail.com」にするわけではなく、新たに利用可能にした「keio.jp」に加え、慶應義塾が従来使っていた「xx.keio.jp」ドメインのメールアドレスも継続的に利用できるようにしていた。また今回の刷新ではメールシステムをGoogle Apps for Educationへ移行するだけであり、当然ながらITC本部がメールシステムの提供をやめることはない。こうした事実をエンドユーザーへ正しく伝え切れていなかったことが、誤解につながったと考えられる。
誤解を払拭すべく、ITC本部はワーキンググループを組織。移行に関するエンドユーザーへの説明や周知をどう進めるべきかを検討し、「教授会などさまざまなところに出向き、直接説明をしたりした」と金子氏は説明する(図2)。
エンドユーザーへの説明の際に心掛けたのは、どのメールシステムへ移行するかといったことよりも、「メールはこれからも問題なく利用できる」という事実を理解してもらうことだったと金子氏は説明する。「エンドユーザーの立場からすれば、メールがつつがなく使えるかどうかが最も重要だ」と判断したからだ。こうした努力や配慮を通じて、移行通知直後のエンドユーザーの誤解を「何とか払拭できた」と同氏は語る。
山場2:“想定外”のトラブルへの対処
実際の移行作業でも「いろいろと苦労はあった」と金子氏は振り返る。移行に伴ってさまざまな問題が発生することは、検証を通じてあらかじめ想定しており、可能な限り事前の対処をしていたという。例えば、エンドユーザーが旧慶應メールでどの機能を利用していたかによって移行作業が異なることから、必要な移行作業を案内するチェックリストを用意するといった配慮をしていた。
ただし、「実際に動かしてみて初めて分かった」という想定外の問題もあり、そうした問題への対処が2つ目の山場だったと金子氏は説明する。中でも大きな落とし穴だったのは、エンドユーザーが旧慶應メールのメールアドレスを使って、個人のGoogleアカウントを作成していた場合のトラブルだ。
慶應義塾はGoogle Apps for Education導入と併せて、「Keio Apps ID」と呼ぶkeio.jpドメインのメールアドレスを用意した。このKeio Apps IDのメールアドレスに対して、旧慶應メールで利用していた「慶應ID」と呼ぶxx.keio.jpドメインのメールアドレスをエイリアス(別名)として設定していた。Keio Apps IDと慶應IDの双方でメールをやりとりできるようにするためだ。
しかし、エンドユーザーが慶應IDを使って個人のGoogleアカウントを作成していた場合、Google Apps for Educationへログインを試みるとメールアドレスの重複を指摘するエラーが発生することを確認したという。現状はエイリアスの無効化で対処していると金子氏は説明する。
その他、Webブラウザで個人のGoogleアカウントとKeio Apps IDのアカウント切り替え方法が分からないエンドユーザーが意外と多かったことなど、検証時点では分からなかったさまざまな課題に直面したと金子氏は振り返る。あらゆるトラブルを事前に想定しておくのは難しく、「判明した課題は一つ一つ総力を挙げてつぶしていくしかないというのが、現在の結論だ」と同氏は語る。
山場3:コラボレーションツールとしての活用推進
慶應義塾がメールシステムの刷新時に挙げた条件の中に、「メール単体ではなく、グループウェアやコラボレーションツールとしての機能があること」を入れていたのは上述の通りだ。金子氏は、Google Apps for Education導入の意義はメールシステムの置き換えだけにあるのではないと強調。「むしろ『コラボレーションツールを導入した』という事実の方に、大きな意義を見いだしている」と語る。
「コラボレーションツールは、考え方やワークスタイル、ライフスタイルを変える可能性がある」と金子氏は語る。ただし現状では、Google Apps for Educationの利用はGmailが中心であり、Web会議/メッセージングサービスの「ハングアウト」といったコラボレーションツールの活用は一部にとどまっているという。「コラボレーションのためのツールは導入できた。今後はどう活用するべきかを真剣に考えていく必要がある」と同氏は話す。これが3つ目の山場であり、慶應義塾が現在直面している山場だ。
今後の方針:「Google Apps for Education終了」を想定した対策も
「いろいろとやっていかないといけないことはある」と金子氏が語るように、慶應義塾はGoogle Apps for Educationの活用の幅を広げるべく知恵を絞る。上述した卒業生でもメールシステムを利用できるようにする“生涯アドレス化”やGoogle Apps for Educationのコラボレーションでの利用促進はその一例だ。
さらに、「Google Apps for Educationが使えなくなったときを見据えた対策も必要だと考えている」と金子氏は語る。「企業の判断として将来的にサービスの無償提供が終了してしまう可能性はゼロではない。最悪のケースを想定して検討を進めていく」と同氏は語る。
そもそもGoogle Apps for Educationの無償提供は、米Stanford University(スタンフォード大学)の研究プロジェクトから生まれた米Googleが教育界への“恩返し”として始めたものだという。明確な意思で無償提供していることから急なサービス終了は考えにくいが、企業である以上「絶対」はない。生涯アドレス化を考える慶應義塾にとって、無償提供をリスクとして認識することは当然だといえる。
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