EdTechフロントランナー【番外編:葵編(第2弾)】
生徒からファンレターが殺到、進化する無料ネット学習塾「アオイゼミ」の今(3/3 ページ)
アオイゼミの次なる一手:選抜制の難関校受験対策「サクラス」
サービスの拡充と会員の満足度向上を両立し続けるアオイゼミ。石井氏はその成功に安住することなく、早くも次の一手を繰り出した。それが、2015年4月に開始した新サービス「サクラス」だ。アオイゼミの「ハイブランド講座」の位置付けというサクラス。そのサービス概要を以下に示す。
- 会員資格
- 難関公立高校受験に挑む中学校3年生に限定
- 入会テストの通過が必須
- 受講条件
- 米Appleのタブレット「iPad」が必要(レンタルサービスも展開中)
- 特徴
- 会員に専任の「チューター」が付き、年中無休で会員の学習やToDo管理を支援
- 受講料は一般的な塾と同等クラスの月額2万7000円(税別)
アオイゼミとの最大の違いは、ターゲットを「難関公立校受験に挑む中学校3年生」に絞り込んでおり、会員も選抜すること。このためハイレベルなライブ授業が展開できるだけでなく、少人数クラスなので講師が会員からの質問に素早く答えることができる。質問はアオイゼミ同様、ライブ授業のコメント機能からできる(画面1)。会員の個人差はあれど、周囲に遠慮する必要なくどんどん質問ができるという点ではメリットが大きいケースもあるだろう。
また、ライブ授業後や演習問題を解いているときに不明点が出た場合は、「質問掲示板」にカメラで撮影した写真や文字で質問を投稿すれば、24時間以内に必ず返信が得られるようにしている(画面2)。
ライブ授業の教材には、サクラスのために難関校対策に配慮して作成した専用教材を利用。自習用の教材には、学習参考書の出版社として知られる受験研究社の教材から、チューターが会員に合わせてチョイスした問題を届ける。アオイゼミがこれまで蓄積してきた4000本を超える中学講座の授業動画も見放題だ。これら全てをiPad用クライアントアプリから利用できるようにしている。アオイゼミとは異なり、サクラスをiPad専用にしている理由は、「iPadに絞ることで、学習に最適化されたユーザーインタフェース(UI)や受講環境を安定的に提供しやすくするため」(石井氏)とのことだ。
サクラスは、一般的な学習塾では別料金となる夏期講習や冬期講習も通常の受講料に含む。オンラインサービスの利用やSNSを通じた質問に抵抗がない生徒であれば、一般的な学習塾に通うより、サクラスを使った方がトータルコストは安くなるだろう。なお、現時点でサクラスは退会者ゼロであり、アンケートでは全ての会員が「とても満足」「満足」と回答するなど、滑り出しは上々だ。
「難関校対策」に偽りなしか 注目の初年度成果
サクラスはマスを狙うアオイゼミとは対極にある、特定領域に特化したサービスだといえる。入塾試験を課すことや、リアルな教室を持たない学習塾としては非常に高価ともいえる受講料設定は、ある意味“冒険”とも取れる。石井氏も「何百人もの会員を最初から抱えるとは想定していない」と素直に打ち明ける。とはいえ、アオイゼミで蓄積した強みを生かしつつ、確実に存在する難関校受験対策のニーズに応えるサクラスは、葵にとってある意味必然的なサービスだといえる。
だが、サクラスは「難関公立高校受験対策」という看板を掲げる以上、「合格実績」という結果については、アオイゼミ以上にシビアに求められることは間違いない。一方、サクラスが成果を挙げ、口コミで評判が広がるようになれば、商圏が半径2キロ以内だといわれる一般的な学習塾にとって非常に大きな脅威となることだろう。サクラスには距離の制約がないからだ。サクラスが卒業生を初めて輩出する2016年3月は、会員の合格実績に注目が集まる。
デジタル“だからこそ”コミュニケーションが豊かになる
「インターネット越しでも生徒の人となりは分かる」――。アオイゼミのある講師が語った、筆者にとって非常に印象に残っている言葉だ。
オンラインで完結する教育サービスというと、講師と生徒が同じ場所を共有していないことによる“距離感”が原因で、血の通った交流がしにくいのではないか、と考える人が少なくないだろう。だがアオイゼミやサクラスの講師やチューターの話を聞く限り、必ずしもそうではないようだ。特に少人数制を採用するサクラスでは、講師やチューターが会員とオンラインで交流する中で、だんだんと打ち解けていき、信頼関係が築けていくことがよく分かるのだという。サクラスで実際にチューターをしている担当者は、「チャットやToDoリストで会員の学習管理をしたりサポートをしたりするのは、程よい距離感でよいのかなと思う」と話す。こうした“適度な距離感”を好む生徒も少なくないはずだ。
アオイゼミはライブ講義を全てアーカイブしているし、チューターとのやりとりはテキストベースである故、ずっと記録に残る。自ら取り組んできたことを振り返ったり、チューターと他愛もないやりとりをすることを、ある種の「体験」として財産になると考える会員もいるだろう。こうした「人と人との血の通ったコミュニケーション」は、教育サービスのオンライン化やIT化が進んでいる今こそ、最大の差異化要素なのかもしれない。
石井氏は葵の創業以来、一貫して「ユーザー目線」を貫いてきた。教育業界の老舗や大手のオンライン教育サービスへの相次ぐ参入を前に石井氏が冷静でいられるのは、「ユーザーが求めていること」の本質を理解しているからかもしれない。石井氏は2015年4月よりアオイゼミ社会科の講師を外れて経営に専念しているものの、ユーザーの声を集める活動にも余念がない。具体的には、ライブ授業外で会員とコミュニケーションが取れる「ホームルーム」的な授業外タイムラインに登場したり、高校生を会社に招く「アオイゼミ会社見学会」を開催してユーザーの生の声をヒアリングしたり、講師に対する会員のフィードバックを収集したりと精力的に活動しているという。
「生徒がもっと勉強したくなるような仕掛け作りをしたい」。石井氏の挑戦はまだ続く。
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