EdTechフロントランナー【番外編:葵編(第2弾)】
生徒からファンレターが殺到、進化する無料ネット学習塾「アオイゼミ」の今(2/3 ページ)
進化するアオイゼミ
前回の記事から約1年半を経て、アオイゼミは随所に改善が進んだ。主要な改善点は以下の通りだ。
- 高校講座
- 前回:数学・英語のみ開講
- 現在:数学・英語に加え、物理、化学、日本史、世界史、現代文、古文・漢文を開講
- 中学講座
- 前回:英語、数学、理科、社会を開講。国語は不定期配信のスポット講義
- 現在:英語、数学、理科、社会に加え、国語を隔週配信に“格上げ”
- 講師数
- 前回:5人
- 現在:12人
- 教材
- 前回:PDF形式でのダウンロードのみ
- 現在:PDF形式に加え、新たに有償で紙教材の発送を開始(写真1、中学講座のみ)
- 専用クライアントアプリケーション
- 前回: Android端末と「iPhone」「iPod touch」が対象
- 現在: Android端末とiPhone/iPod touchに加え、「iPad」を対象に追加
その他、映像配信の工夫でライブ授業のストリーミングデータ容量を45分(中学講座の1コマ分。インターバル5分を含む)当たり300Mバイト程度に抑え、無線LANではなく3G/LTE回線といった携帯電話回線でアクセスするユーザーにも配慮した。一部の授業動画については、端末の画面サイズや通信速度に応じてストリーミングのビットレート(1秒当たりのデータ送受信量)を変化させる「マルチビットレート」で配信するようにした。
使い勝手の維持や向上のための改善にも余念がない。ライブ授業に投稿された質問やコメントを追跡しやすくする講師・スタッフ用ツールの導入がその一例だ。講師やスタッフが会員のコメントを拾いやすくしたり、会員同士が連絡先を交換するといった禁止事項をチェックしやすくするために生かしている。
こうしたサービス強化に向け、葵は2014年8月にベンチャーキャピタル大手のジャフコから1億2000万円の資金調達(第三者割当増資)を実施。オフィスを東京・中野から四谷へ移転して延べ床面積を拡大し、ライブ授業用スタジオを大幅に増やした。
「勉強だけではない」特別講義も開講
アオイゼミの強化点は、教科数の増加やシステムの増強にとどまらない。2014年4月からは、中高生向けに月1回、全国の大学を全て訪問したことで知られる大学研究家の山内太地氏による「進路相談」をライブ授業のラインアップに加えた。生徒にとって、学校の教員や両親以外の大人に進路相談ができる機会は限られている。大学選びのガイドブックを執筆する山内氏のようなその道のプロに、コメントを通じて相談できるライブ授業は大きな魅力の1つとなるだろう。
複数の大学とタイアップし、大学教員による講義を配信する「オンライン特別模擬授業」も始めており、会員に好評だという。中高生にとっては、自分が今勉強している内容が大学や社会でどのように役立つのかを知ることができ、知的好奇心や学習意欲が刺激されることだろう。その他、グリーと共同で情報リテラシーに関するライブ授業を配信するなどの実績もある。このようにアオイゼミのライブ授業スタジオは、通常のライブ授業だけでなく、全国の中高生を対象とした情報の配信基盤としての役割も果たしつつある。
ファンレターが届くEdTechプレイヤー
こうした努力の積み重ねにより、会員の定着率は「高い状態を維持している」と石井氏は胸を張る。会員定着率は残念ながら「非公開」(石井氏)とのことだが、会員の満足度は確実に高まっているという。それを端的に示す根拠を2つ紹介しよう。
1つ目の根拠は、専用クライアントアプリのユーザー評価の高さだ。「App Store」「Google Play」といった公式オンラインストアにおけるユーザー評価(執筆時時点)は、iOS版で4.5(評価者約1900人)、Android版で4.1(評価者約600人)と高水準。中でもiOS版については、約1900件の評価のうち約1600件でユーザーが「カスタマーレビュー」に何らかのコメントを残している。「近くに学習塾がないので助かった」「不登校で授業に遅れていたが、アオイゼミで少しずつ取り戻しつつある」「通っている学習塾より分かりやすい」など、アオイゼミへの満足度の高さが伺える声が多数ある。
2つ目は、会員から送られる多数の“ファンレター”だ。今回、オフィスでの取材でその一部を見せてもらったところ、特定の講師に宛てたものや、合格を報告した「御礼状」など、会員直筆の手紙が多数届いていた(写真2)。「最初は『いいものを安く提供しよう』というスタンスだったが、最近は『自分たちのサービスがユーザーの人生に良い影響を与えている』と実感できるようになってきた」と石井氏は話す。
コメント機能を通じた“画面越し”ではあるものの、石井氏も講師も「ライブ授業や日々のコミュニケーションを通して、会員のリアクションがだんだんと分かるようになり、会員との関係性を築けるようになってきた」と声をそろえる。アオイゼミが目指す“教室の価値”が、インターネットを通じて会員・講師ともに共有されつつあることを示す動きだといえるだろう。
競合との違い:競合増加でも「ライブ授業」と「ノウハウ」で差異化
前回記事の公開時から、オンライン教育サービスを取り巻く環境も大きく変化した。リクルートマーケティングパートナーズの「受験サプリ」やトライグループの「Try IT」をはじめ、スマートフォンやタブレットで映像講義を閲覧できるサービスが増加傾向にあるのだ。「東進ハイスクール」を全国展開するナガセや関西地盤の浜学園などの学習塾から、Z会をはじめとする通信教育まで、映像の活用で自社のオンライン教育サービスを強化する動きが相次いでいる。
ただし、こうした競合サービスで一般的に提供されているのは、過去の講義を収録した映像講義だ。アオイゼミの最大の強みであるライブ授業については、引き続き大きな差異化要素になっている。石井氏自身は「映像講義を扱うプレイヤーが増えて、市場が活性化することはウェルカムだ」と冷静だ。現在のオンライン教育サービスの料金水準であれば、「学習塾を掛け持ちするのと同様に複数サービスを併用することも十分できるし、共存も可能ではないか」という考えが背景にある。
もちろん、アオイゼミの強みはライブ授業だけではない。授業動画や試行錯誤を重ねて作り上げたテキスト、そして先に述べたライブ授業配信システムといった「資産」がある。いわゆるEdTech市場において、自社でこれだけのコンテンツを一から作り出したプレイヤーはほとんど存在しないし、今後も同様の取り組みを成功させることができるプレイヤーはあまり出てこないだろうと筆者は予測する。
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