可能性が広がる人工知能【前編】
挫折を重ねてきた人工知能研究が今注目される“歴史的な理由”とは
米IBMの「Watson」をはじめ人工知能(AI)技術が発達し、今後次々と生まれる新たな可能性は非常に巨大だ。今までのAI時代の歴史を振り返る。
私は今、大いに高ぶる気持ちと同時に一抹の不安を抱きながら、この原稿を書いている。私が興奮しているのは、約60年間にわたる研究開発の飛躍と挫折を経て、今や人工知能(AI)がついにメインストリーム技術となったという紛れもない現実が存在するからだ。この現実を劇的かつ明白に示した出来事が、2011年2月16日に米IBMのスーパーコンピュータ「Watson」が米クイズ番組「Jeopardy!」で74連勝という最長連勝記録保持者のケン・ジェニングス氏と賞金獲得額トップのブラッド・ラッター氏に圧倒的勝利を収めたことだ。
一方、私の懸念は個人的な体験に深く根ざしている。1967年に米ピッツバーグ大学のあどけない新入生としてAIの研究開発に興味を抱いたのが、私がIT分野に足を踏み入れるきっかけだった。私は下記の大学でAI技術の最先端にいたパイオニアたちと共に研究に没頭する4年間を過ごした。
- ピッツバーグ大学
- 米カーネギーメロン大学
- 米マサチューセッツ州工科大学(MIT)
- 米スタンフォード大学
だが私はAIが社会と人類に素晴らしい貢献をする可能性に胸を躍らせる一方で、原爆のような恐ろしい存在になる可能性もあると思えた。そのような可能性を持つ技術の開発に貢献することに必然的に伴う知的・心理的・感情的な葛藤にも苦しめられた。
私は大学を卒業した後、AI技術から離れることにした。COBOLプログラマーとして銀行に就職したのだ。AI分野とは天と地ほど懸け離れた世界に飛び込んだのである。
Jeopardy!での勝利に至るまで
業界専門家の間では、AI分野の起源は1956年に米ダートマス大学のキャンパスで開かれた会議だとする見方が一般的だ。この会議に出席した
- 米国のコンピュータ科学・認知科学者のジョン・マッカーシー氏
- 米国のコンピュータ科学・認知科学者のマービン・ミンスキー氏
- 米国のコンピュータ科学・認知心理学者のアレン・ニューウェル氏
- 米国のAI研究の第一人者のアーサー・サミュエル氏
- 1978年にノーベル経済学賞を受賞し、米国の経済・認知心理学者のハーバート・サイモン氏
はその後、AI分野における卓越した科学者および指導者として研究開発をリードした。彼らの研究は1960年代を通じて米国防総省から多額の資金援助を受け、チェッカーをするプログラム、英語を話すプログラム、方程式を解くプログラム、論理定理を証明するプログラムなどが開発された。
これらの初期のAI技術に対して大きな期待が渦巻いた。サイモン氏は「20年以内には、人間ができる全ての仕事を機械ができるようになるだろう」と予想した。ミンスキー氏もこの予想を支持し、「『人工知能』を作るという問題は、1世代以内にあらかた解決するだろう」と記した。
当然のことながら、初期のパイオニアたちはやや楽観主義的過ぎる面があった。だが、全体として見れば、さほど楽観的ではなかったようだ。1970年代に入ると、政府からの資金が削減され、AI分野は米Gartnerのハイプサイクル(※)でいうところの「過度の期待のピーク期」から「幻滅期」に移行した。1980年代には、ナレッジ機能やアナリティクス機能を高めたエキスパートシステムの開発を通じて商業的な成功を収め、10億ドル以上の市場に成長した。文字通りの意味でも比喩的な意味でも「啓蒙活動期」に入ったのだ。AIへの期待が再び高まった。
※テクノロジーやアプリケーションが時間の経過と共にどう成熟し、進化・発展していくのかをグラフィカルに表したもの。
ある朝、目が覚めると、あなたの頭の中で新たな脳葉が活動しているのに気付く。この目に見えない補助脳葉は、あなたの記憶にないことであっても質問に答えてくれ、適切な行動指針を示し、関連事項を思い起こすのに役立つ質問をしてくれる。あなたはすぐに、この脳葉にすっかり頼るようになり、その仕組みがどうなっているのか考えることもやめてしまう。ただ利用するだけなのだ。これが人工知能の理想郷だ
――フィリップ・レモンズ『Artificial Intelligence』(Byte Magazine、1985年4月号125ページ)(レモンズ氏はByte Magazine誌、PC World誌の元編集長)
1990年台から21世紀初頭は「生産性の安定期」で、AI技術をめぐって数々の顕著な前進が見られた。これらの技術的進歩の具体例の一部を以下に示す。
後編ではCIOが検討すべき人工知能に関する課題を解説する。
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