佐野日大学園がIT活用で目指すもの【後編】
佐野日大学園が作った「いつでもどこでも学べるシステム」の中身とは?(2/2 ページ)
いつでもどこでも学習可能な「デジタルキャンパス」
東日本大震災がきっかけで開発に着手した、佐野日大学園独自の学習基板システムであるデジタルキャンパス。開発を手掛けた安藤教諭の話によると、デジタルキャンパスは「教員用グループウェア」「生徒用教育支援システム」「学校Webサイト構築システム」の3つのシステムで構成される。
このうち、教員用グループウェアはスケジューラーやメールシステムといった一般的なグループウェアの機能を備え、以下のような用途で利用されている(画面1)。各作業に対して操作方法の解説動画を作り、新任の教員でも分かるように配慮しているという。
- 新着情報(その日、何があるかの連絡事項を共有)
- 予定表(週間別・個人別など)
- 教員の勤務状況(出張・年休の共有)
- 校内の教師間連絡
- 外部メールへのアクセス(「Gmail」を利用)
- 各種申請(担当教員に自動的にメールで送信)
- 各施設予約
- 時間割の作成・コマ入力
一方の生徒用教育支援システムは、デジタル教材の共有機能を備え、生徒が自由にデジタル教材へアクセスできるようにしている(画面2)。グーグルの教育機関向けオンラインサービス群「Google Apps for Education」(以下、Google Apps)と連係させて活用している。また学校Webサイト構築システムは、コンテンツ管理システム(CMS)の機能を備え、同校のWebサイト構築に生かしている。
専任管理者を設けないことが管理の容易さに
3つのシステムで構成されるデジタルキャンパス。一般的に同様のシステムを教育機関が導入する際、それぞれのシステムを別々に捉え、異なるサービスを利用したり、異なる開発先に依頼する傾向がある。安藤教諭は、これら3つのシステムを全てOSSの情報共有システム「NetCommons」(開発:国立情報学研究所)で統一して開発することにこだわった。その理由として「ユーザーインタフェース(UI)を統一することで、全教員が管理しやすい体制を作ることができる」と話す。
佐野日大はNetCommonsの専任管理者を設けていない。全教員が管理者になり、全員が権限を持ってアクセスできるよう設計している。これにより、教員がどのシステムでも使いやすくするとともに、例えば生徒の顔が分かる写真を掲載してしまった場合など、お互いにチェックし合い、すぐに訂正できる環境を作り上げている。
思わぬ落とし穴 「ファイル共有」の概念共有に苦慮
タブレットに無線LAN、そしてデジタルキャンパスなど、さまざまなITを活用する佐野日大学園。そんな先駆的な同学園だが、全てが順調に進んだわけではない。安藤教諭はそんな苦労話の一例として、「教員にファイル共有の概念を理解してもらうのに時間がかかったこと」を挙げる。
上述の通り、デジタルキャンパスの生徒用教育支援システムでは、Google Appsと連係させている。例えば安藤教諭は、プリントをPDF形式のファイルとして配布する手段として、Google Appsのオンラインファイル同期サービス「Google Drive」の共有フォルダを利用。フォルダにPDFファイルを置くだけで、生徒のタブレットに自動的に反映されるようにした。
ところが、当初教員にはファイルを共有するという考え方がなく、ファイルをメールに添付したり、グループウェアで共有する状況が続いたという。「教員がファイルを共有フォルダでシェアするようになるまでに、かなりの時間がかかった」と安藤教諭は明かす。ただし、「いったん定着してしまえば、ファイル共有は驚くほど現場の効率を上げ、教員もかなり楽になった」(同)という。現在は約70万ファイルを共有するまでに当たり前の手段になっている。
身軽なITで「いつでもどこでも学習できる環境」を実現
佐野日大学園はIT活用に取り組み始めたのは1990年代のこと。これまでも2000年に無線LAN環境を整備して全教員にノートPCを配備したり、学習管理システム(LMS)や分析システムなどの大型システムを導入したいきさつがある。
そんな佐野日大学園で20年間、IT活用をけん引してきた安藤教諭は、「試行錯誤を繰り返して分かったことは、簡単で便利だと思える環境でないと定着しないことだ」と語る。「例えば分析システムは、ある程度使っていくうちに教員の“勘”が働くようになり、次第に使う必要性を感じる機会が少なくなる」(同)。導入当時は必要だと考えていたシステムも、教員のスキル向上といった要因で魅力が薄れる可能性がある。特定のシステムにしがみつくことは、ときとして大きな無駄にもつながりかねない。
タブレット活用に関する現時点での改良点として安藤教諭が考えているのが、意外なことにホワイトボードの導入だという。「チョーク式の黒板をホワイトボードに変更できれば、タブレットの活用がさらに広がる」と、同教諭は語る。ホワイトボードであれば黒板と比べて、プロジェクターでタブレットの画面を投影しやすくなる。そうすれば、もっと効率的にインタラクティブな授業ができるという考えに基づく。
東日本大震災をきっかけに「いつでもどこでも学習できる環境づくり」に着手した佐野日大学園。その取り組みから見えるのは、お仕着せの大型システムや特定のタブレットに依存しない、小回りの効くIT活用を目指す姿勢である。今後は、スマートフォンの活用やマルチデバイス環境の採用も視野に入れ、生徒の生活スタイルに合ったより自由度の高い運用を目指す考えだ。
執筆者紹介
神谷加代(かみや かよ)
フリーランスライター/ブロガー。結婚を機にサンフランシスコに移住し、日本語の絵本を扱ったECサイトを運営。その後、10年の在米生活を経て帰国し、主婦ブロガーとして「家庭×教育IT」に関する話題をメインにした「主婦もゆく iPad一人歩記」を執筆。家庭や教育におけるITの在り方を主婦目線で描き、教育関係者をはじめとする多くの読者から支持を得ている。現在は教育ITの分野を中心にライター業、子ども向けプログラミング教室の講師として活動中。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』。
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