失敗しない「学校IT製品」の選び方:無線LAN編【後編】
学校無線LAN選びを本気で成功させる「4つの視点」
教育機関が最適な無線LAN製品を選定する際には、どのような点に注意すればよいのだろうか。主要な無線LAN製品を形式別に整理しつつ、製品選定の勘所を紹介する。
前編「学校無線LANの『つながらない』『危ない』は“正しい理解”で解消できる」では、無線LANそのものに関する基礎的な知識を整理しつつ、学校が無線LANを導入する際に知っておくべきポイントを紹介した。
では、実際に無線LAN製品を導入する際には、どのような点に注意して製品選定を進めればよいのだろうか。後編では、各学校にとって最適な無線LAN製品を選定する際に必要な視点を整理した上で、市販の無線LAN製品を形式別に分け、そのメリットとデメリットを解説する。
連載:失敗しない「学校IT製品」の選び方
学校の無線LAN製品選びに必要な「4つの視点」
先駆的な導入事例を見ると、学校の無線LAN導入には、用途や範囲によって幾つかのパターンがあることが分かる。前編で述べたように、全校無線LAN化は現時点では必須ではない。教員や生徒のITリテラシー向上やサポート体制などは、その地域や学校の現状に合わせて実施すればよい。
要件定義のために現状を分析して仕様を確定し、システムベンダーに要求仕様として伝える工程は、システム導入の経験が少ない学校関係者には非常に難しい。だがある程度パターン化したプロセスと活用シーンがあらかじめあれば、上記の難しい工程を意識しなくとも、要件とコストに合わせた無線LAN導入が実現できる。
コラム:全校無線LAN化にこだわらなくてもよい理由
前編でもスモールスタートをお勧めしたように、必ずしも校内全体の無線LAN化(以下、全校無線LAN化)を実現する必要は無い。無条件で全校無線LAN化を実施しても問題が無いのは、私の知る限り以下の2ケースだけだ。
1. 授業とITツールとが融合し、何をどのように実現したいという明確かつ具体的なビジョンや計画が既にある場合
2. 学校規模がそれほど大きくなく、最初から全体導入を選択した方がむしろ効率的な場合
なぜ、全校無線LAN化にこだわらなくてよいのか。理由の1つは、全校で安定した無線LAN環境を実現するためには、潤沢な設備投資予算があることが大前提となるからだ。私が知っている高等学校は最近、普通教室のほぼ全てに無線LANを導入した。1学年当たり500~600人規模で、投資額は約3000万円に上ったという。
当然ながら、学校の規模や校舎の構造、付帯工事などで、投資金額は大きく変わる。ただし、学校IT活用を支える安定した無線LAN環境を実現するのはたやすいことではなく、それなりのコストが掛かるものなのだ。
現時点で無線LAN環境が必須でなければ、スモールスタートで導入を進めるなど、多額のコストの発生を避ける工夫も有効だ。ただし、前編でも述べたように、安易に廉価な無線LAN製品を大規模ネットワークに導入する愚は犯してはならない。せっかくの無線LAN製品が安定稼働せずに使えないということも、往々にしてあり得るからだ。
無線LANに限らず、ネットワーク製品の更新間隔が意外と短いことも、全校無線LAN化にこだわらなくてもよい理由である。ネットワーク製品は、通常5年ほどで更新を迎えることになる。さらには、試行運用で想定外の事案が発生し、修正やブラッシュアップの方法を検討している間に、製品のリプレースが必要となってしまうことも十分に考えられる。
こうした諸条件を勘案して、優先順位と方向性を決めながら効率的に設備投資をするのが、学校IT活用の取り組み全体を成功に導くには重要だ。
無線LAN導入の要件を決める際にまず必要なのは、利用シーンを明確にすることだ。学校への無線LAN導入の際には、以下の4つの視点で具体化な利用シーンを整理すれば、要件がある程度明確になるはずである(図1)。特に、どのような用途で利用するのかが最も重要である。
視点1:いつ利用するのか
授業中だけ利用する、家庭学習でも活用する、教員が放課後に生徒とコミュニケーションを取るのに利用するなど、いつタブレットなどの端末を利用するかによってシステム構成は変わる。
視点2:どこで利用するのか
普通教室、特殊教室、職員室、その他の校内のどこでタブレットを利用するかによって、必要な無線アクセスポイント(AP)の数などが大きく変わってくる。
視点3:誰が利用するのか
多くの場合は「教員のみ利用」「教員と生徒の両方が利用」の2択だ。ただし、保護者がタブレットを利用するなどの例外もあり得る。1人1台ではなく、数台のタブレットを班ごとに共有する場合もある。
視点4:どのような用途で利用するのか
授業での学習用途のみであればセキュリティ対策もそれほど気にせずに済むが、校務でも利用する場合には、生徒の学習成果や成績など重要性が高いプライバシー情報を扱うため、相応のセキュリティ対策が必要になる。これらも用途によって考慮の程度を変えなければならない。特に家庭学習で利用する場合は、認証などのセキュリティ対策の方法が大きく変わる可能性がある。
グランドデザインやコストの考慮も必要
上記は無線LANに関係する要件のみであり、タブレットや私物端末の利用(BYOD)の考慮など、決めなくてはならないことは無数にある。それらは、「学校IT化を本気で成功させる『グランドデザイン』の作り方」で記載したグランドデザインの作成の際に考慮しなければならない内容となる。
詳しくは後述するが、無線LAN製品は形式によって導入コストが大きく異なることも考慮するべきだ。落とし穴となるのが、製品価格だけを比べると、一見同じように見えてしまうことだ。導入に必要なトータルコストを把握するにも、まずは上述した4つの視点で無線LAN導入の要件を明確にする必要がある。こうして利用イメージを明確にできれば、最適な無線LAN製品を選ぶことが容易になるはずだ。
学校用の無線LAN製品として選択できる4形式
本記事の前編にも記載したが、学校専用の無線LAN製品は存在せず、一般的な無線LAN製品から各学校の用途に最適なものを選択する必要がある。主要な市販の無線LAN製品は、以下で説明する4つの形式のいずれかに当てはまる(図2)。
FAT型:シンプルかつ廉価でスモールスタートが容易
無線通信だけでなく、暗号処理など全ての処理をAPが担う無線LAN製品をFAT型と呼ぶ。FAT型の無線LAN製品は、AP単体で利用し、AP自体に設定情報を入力する形式を取る。家庭や小規模オフィスでの利用には一番ポピュラーなタイプだ。1台当たりのコストは数千円からと、非常に廉価なのが最大のメリットである。
ただし、多人数での利用可能性、セキュリティ機能、電波干渉/故障時の復旧など、安定運用に必要な機能や性能は充実していない。そのため、試験導入フェーズなどの限定した利用シーンでしかお勧めはできない。
特に家電量販店で販売されているようなコンシューマー向け無線LAN製品は、多人数で接続することを考慮した機能や性能を備えていないことが多い。機能面はもちろん、信頼性や耐久性などで問題があると考えられる。
FAT型のAPは、アライドテレシスやディーリンクジャパン、バッファローといったベンダーが販売している。
コントローラー型:最も安定したネットワーク環境が構築可能
全てのAPに接続する無線LANコントローラー(以下、コントローラー)に設定情報を入力し、各APの状況などもこのコントローラーで常に制御できるようにしているのが、コントローラー型の無線LAN製品だ。FAT型とは桁違いのコストが掛かる半面、FAT型のデメリットを全て解消する。
止められないネットワーク環境を構築するためには、各APや電波環境全体をコントロールできるコントローラー型の無線LAN製品が必要になる。ビジネス利用でコントローラー型が多く利用されているのはそのためだ。無線LAN製品の中でも最も高価だが、一番安定している形式だといっていいだろう。
コントローラー型無線LAN製品の課題として、接続するAPの性能に比例した、高性能、つまり高価なコントローラーが必要になる点がある。ネットワークの規模が大きくなると、処理性能を追随させるためにコントローラーも上位機種にランクアップする必要があるなど、導入コストがかさみがちなのがネックだ。
障害時の対処が困難なのも課題である。コントローラーが全てのAPの通信が集約するハブの役割を果たしており、コントローラーの故障がネットワーク全体の故障につながってしまうことがその原因である。そのため、障害時に通信を止めないために冗長化構成が必須となり、導入や運用にさらにコストが掛かることになる。
コントローラー型の無線LAN製品は、シスコシステムズやアルバネットワークスといったベンダーが販売している。
管理サーバ型:コスト面で有利でありながら安定性を確保
管理サーバ型無線LAN製品は、コントローラー型とほぼ同様の仕組みと機能を持つ。コントローラー型のコントローラーに当たる管理用機器として、管理サーバを用意する。
コントローラー型との最大の違いが、管理用機器である管理サーバがダウンした場合にもネットワークを止めない仕組みを持つ点だ。上述の通り、コントローラー型はコントローラーに全てのAPの通信を集約させる形式を取る。これに対して管理サーバ型は、管理サーバが各APからのネットワークの通り道にあるわけではないので、冗長化の必要性が無い。ネットワーク規模が大きくなっても、高価な上位機種が必要になることも無いのだ。
このように、管理サーバ型にはメリットが多いものの、最近市場に出てきたばかりの形式であり、導入事例はそれほど多くない。全校無線LANといった大規模ネットワークへの導入実績はまだこれからといった状況である。
フルノシステムズなどのベンダーが、管理サーバ型無線LAN製品を販売している。
サービス提供型:ネットワークや無線環境の管理を外部委託
製品自体の形式ではなくその提供方式が異なるのが、サービス提供型の無線LAN製品である。ネットワークベンダーのセンターにコントローラーまたは管理サーバといった管理用機器を置き、APをレンタル形式などでユーザー組織に貸し出す。
サービス提供型の無線LAN製品は、月額のサービス利用料の支払いとなるので初期導入コストが削減できるのと、煩雑なネットワーク管理業務を全て外部委託できる点が非常に有効である。
ただし、サービス提供型のトータルコストは、コントローラー型や管理サーバ型の製品構成に管理サービスが付くので高価になりがちだ。ただし、ここ何年かで非常に廉価なサービスも登場してきている。安定した無線LAN環境が欲しいものの運用ノウハウに自信が無かったり、段階的に追加導入していくことが決定していたりする学校にお勧めできる。
網屋などが、サービス提供型の無線LAN製品を提供している。
コラム:工夫を凝らした無線LAN製品も存在
製品によって多少の差異はあるものの、無線LAN製品には導入する際に知っておくと便利な機能がある。その一例が、コントローラー型でありながら、コントローラーレスでスモールスタートできる機能だ。複数のAPのうち1台が簡易的なコントローラーとして機能し、一定の台数のAP(最大16台程度)を制御できる機能だ。こうした機能を使えば、10台程度の試験利用の際にはコントローラー無しで運用し、本格導入の際には既存の設備をそのまま維持して、コントローラーを導入するだけで済む。
FAT型は、スモールスタート後に規模を拡大しようとすると、管理機能が重要になる本格導入時に利用に支障が出る可能性がある。上述した機能を備えた無線LAN製品であれば、設備投資に無駄が無くなる。しかも、簡易コントローラーの役割を果たしているAPが故障しても、その役割は自動的に他のAPが引き継ぐので、可用性も高められる。
コストだけで見ると、FAT型の無線LAN製品一択になってしまうのは否めない。ただし、校舎全体に安定性の高い無線LAN環境を敷くには、一見高価な製品でも廉価なFAT型とは一味違う機能やコンセプトを持っているものも多い。導入際には、価格だけでなくさまざまな観点から検討することをお勧めする。
基礎を理解し、各校に合った無線LAN導入計画の実現へ
文部科学省や総務省の計画では、2020年までに全国の津々浦々にある3万校以上の小中高校にタブレットなどの情報端末が配備される。IT製品を活用した教育を支えるには、安定した通信が可能な無線LANなどのインフラを整備したり、セキュリティ対策を十分に施したりすることはもちろん重要だ。
とはいえ、十分な予算が無い地方自治体や小規模な学校法人では、既に十分なネットワーク運用実績を持つ大学や企業と同じレベルで無線LANを導入することは難しい。ネットワークだけで1000万円以上の設備投資が5年ごとに必要というようなことは、現在の多くの学校や地方自治体、そして国家の財務状況では許されるはずもない。
地方の人口密度が低く学校数が少ない地域では、ベンダーの保守サポート体制が手薄になりやすいという問題もある。小中高校の場合は、システム導入の経験も浅く、ほぼゼロからのシステム導入となることも多いので、導入成功のハードルは高いといわざるを得ないのが現状だ。
こうした状況で、効果的な無線LAN導入を進めるにはどうすべきか。まずは、前編で述べたように、ネットワークと無線LANの仕組みを正しく理解することが先決だ。その上で、後編で説明したように利用範囲を明確にし、無線LAN製品の各方式を理解し、要件を明確に定義することで、各学校に適した無線LAN製品の投資計画ができる。ひいては、各教育基幹があるべき姿を実現する安定したシステム基盤を、低コストで実現することにつながるはずだ(図3)。
執筆者紹介
武田一城(たけだ かずしろ) 株式会社日立ソリューションズ
情報セキュリティ、システムプラットフォーム、オープンソースなどさまざまな分野のマーケティング業務に従事。現在は特に学校IT分野における市場調査や企画に重点的に携わる。2011年より日本PostgreSQLユーザ会の理事を兼務し、代表的なオープンソースデータベース「PostgreSQL」の普及啓発活動も行っている。
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失敗しない「学校IT製品」の選び方
教育機関がIT製品を導入する際、どのような点に気を付けて製品選定を進めればよいのか。製品分野の基礎知識をおさらいしつつ、製品選びのポイントを伝授する。
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