彼らは戦場でなくても一番乗り
勇猛果敢な米海兵隊でさえ悲鳴を上げる──Windows 10 vs.“古参”PC
軍隊向けITデバイスでは、導入計画から予算確保、調達、そして、部隊配置まで長い時間を要する。そのため、最新技術の導入では常にタイムラグの問題で悩むことになる。Windows 10もその例外ではない。
米国防総省で最高情報責任者(CIO)を務めるテリー・ハルボーセン氏は、2015年第4四半期に「米軍の全部門は2017年第1四半期までに『Windows 10』に移行せよ」と指示した。この指示を受けて米海兵隊は、米5軍の中で一番乗りでこの取り組みを開始すると宣言した。
国防総省でアップグレードの対象となるクライアントデスクトップPCは、全部で約300万台(ただし物理マシンと仮想マシンを併せた数)に上るため、米軍の実戦4軍(陸軍、海軍、空軍、海兵隊)で最も規模の小さい組織が、試験的に先陣を切るのは理にかなった判断だった。
ところが、海兵隊はWindows 10へのアップグレードの過程で思いがけない伏兵に遭遇した。アップグレード対象のハードウェアプラットフォームが最新の技術に対応していなかったため、リモートの自動アップグレードが当初予想していたよりも困難でなことが分かったからだ。
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FederalNewsRadio.comが掲載した2016年5月12日付の記事「Outdated hardware snags Marines’ migration to Windows 10」(旧式ハードウェアが海兵隊におけるWindows 10移行の障害に)で報じられているように、リモートによる自動アップグレードが可能な海兵隊のクライアントPCは約10%にすぎないことが分かった。当初の予想では、海兵隊エンタープライズネットワーク(MCEN)に接続しているクライアントPCの60~70%にリモートアップグレードを適用できると考えていた。「対応可能クライアントPCがわずか10%」の結果は期待外れであっただけでなく、経費の増大を招く可能性もある。
米軍通信電子機器協会(AFCEA)ワシントンDC支部の会議で、米海兵隊のデニス・クロール准将は、Windows 10アップグレード問題について次のように語った。
「今回の件で直面したのはハードウェアの問題だ。新しいハードウェアと比べると、2年前より古いハードウェアはWindows 10のインストールが難しい。国防総省内で『新しい』というのは、過去の技術を将来購入することを意味する。省内の最新システムの多くは、箱から取り出した時点で既にアップグレードが困難な代物になっているが、それを予想していなかった」
Windows 10アップグレード問題の原因
「過去の技術を将来購入する」というクロール准将の指摘は鋭いが、海兵隊でのアップグレードの取り組みが深刻な問題に直面しているのには、他にも幾つかの理由がある。
人間の関与の度合いを高めることは、アップグレード作業全体がより多くの時間と労力、そして費用が必要になることを意味する。そればかりか、アップグレードできなかったマシンを更新するのにも費用が掛かる。
現在、海兵隊は、労力の増大に伴う経費増加とWindows 10に対応した新ハードウェアを購入するコストのどちらを取るかの判断で悩んでいる。人件費がハードウェア購入コストを上回る場合は「全部買う」のが賢明だが、その費用は当初の予算に組み込んでいなかった。
アップグレードしてもWindows 10で導入した高度なセキュリティ機能の一部を利用できない場合もある。例えば「Secure Boot」機能を利用できるのはUEFI(Unified Extensible Firmware Interface)搭載マシンだけであり、「Credential Guard」機能を使えるのは、最新の仮想化機能をサポートするマシンだけだ。すなわち、アップグレードしたマシンの中には、国防総省の「セキュアホスト基準」に完全に準拠していないものもあるということだ(特に古いマシンの場合)。この基準は、国防総省の管轄下にある何百万台ものクライアントPC全体に適用する共通のセキュリティ構成だ。セキュリティの例外をつくることは、よく知られた問題を引き起こすことにもなりかねない。
仮想化という手段は、Windows 10アップグレード問題の部分的な対策になりそうだ。米空軍の副CIOを務めるビル・マリオン氏は、全ての状況で、従来のフルスペッククライアントPCが必要とは考えていない。「伝統的なデスクトップとオフィスソフトウェアさらにそれに付随するセキュリティのコストはかなり高い」とマリオン氏は指摘する。
空軍では1つの代替選択肢として、「軽量で強固に暗号化した、防護が容易なコンテナ方式のクラウドアプリケーションを利用するモバイル端末」の利用拡大を検討中だ。後方支援に設置する基地で使うクライアントデバイスなら仮想化方式が適しているが、戦場で使う作戦支援用クライアントデバイスにはスタンドアローンでも使える従来タイプのクライアントデバイスが適している。一方で、仮想化方式は、サービスのアップグレードに伴う労力から解放できるメリットがある。ハードウェアのアップグレードは、最も費用効果の高い部分に対して集中的に行えばいい。
米軍は概して、Windows 10はこれまでのWindowsと比べてはるかにセキュアなOSと考えている。ハルボーセン氏は、最初から用意しているセキュリティのメリットを生かすために、Windows 10プラットフォームへの移行を重視している。ハルボーセン氏は、米国防総省のクライアントノートPCとクライアントデスクトップPCの80%以上がアップブレード期限の2017年1月に間に合うと考えている。これらのクライアントPCは、ほとんどが戦場から離れた米本国にある司令部のオフィス内で使っており、海軍と米海兵隊のイントラネットあるいは空軍ネットワークの「AFNET」を通じて管理しているからだ。
しかし、残りの約20%については状況が異なる。海上の兵器システムに組み込んでいるものもあれば、米国外にあって実戦部隊に配備しているものもあるため、現状のまま使い続けることになると予想している。例えば、海軍の艦艇には今でもWindows XPで動作するシステムが稼働しており、今後数年間にわたってアップグレードする見込みはない。さらにいえば、Windows 10アップグレード問題を理由に、アップグレードが困難な一部のシステムを当分このまま放置するという問題の先送りとなる恐れもある。
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