ペンタブレットの技術の歴史
徹底解説:アクティブスタイラスペンの2大巨頭、ワコムとN-trigは何が違うのか
アクティブスタイラスペンの2大巨頭といえば、ワコムとN-trigだ。この2社の技術は、具体的に何が違うのだろうか。技術の歴史を振り返りながら解説する。
ワコムとN-trigは、アクティブスタイラスペンの2大巨頭である。Microsoftの「Windows」またはGoogleの「Android」搭載デバイスでスタイラスを使用して、メモを取ったり、線を引いたり、いたずら書きをしたりしている場合は、いずれかのテクノロジーを使用しているだろう。
ワコムとN-trigのアクティブペン技術には、どのような違いがあるのだろうか。本稿では、それを検証したい。
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スタイラスペンとディスプレイ技術の歴史
ワコムの歴史を振り返る
長きに渡って、ワコムはアクティブペンデジタイザの領域で絶対的な地位を確立していた。同社が電磁誘導方式テクノロジーをベースにした製品で一世を風靡(ふうび)したのは、1980年代のことだ。そして、1990年代半ばには、電磁誘導(EMR)デジタイザ内蔵のLCDディスプレイの販売を開始した。
このテクノロジーの中核を担っているのは、バッテリー非搭載のペンである。ペン先付近に磁気コイルが埋め込まれている。これにより、LCDと照明アセンブリの下に埋め込まれたデジタイザのセンサー板が発する電磁波を跳ね返すという仕組みだ。
ワコムは1990年代後半に「PL300」や「PL400」などの液晶ペンタブレットのPLシリーズを展開し始めた。また、2000年にリリースした「PL500」では、本格的なグラフィック処理にも耐え得る15インチ、解像度(1024×768)、色深度(24ビット、1677万色)の液晶ペンタブレットの販売に乗り出した。そして、2001年にはPLシリーズを「Cintiqシリーズ」と改名し、市場のリーダーとしての地位を確固たるものにした。
2001年にPL550をCintiqシリーズと改名することで、ワコムは液晶ペンタブレットのリーダーとして不動の地位を手に入れた。なお、Cintiqシリーズは現在も展開されている。
初期のタブレット
ワコムのリブランディングと同時期に実施されたことがある。それは、モバイルコンピューティングの次の段階として、MicrosoftがタブレットPCプラットフォームを発表したことだ。このタブレットPCプラットフォームでは、ペン入力が重要な鍵を握っていた。初期のタブレットPCの仕様では、ポーリングレート(マウスの情報を1秒間に何回送るかという値)が100Hz以上のアクティブなペンが必要だった。“アクティブ”という言葉は、EMR方式またはバッテリーによって動力が提供されることを意味する。なお、100Hzのポーリングレートでは、1秒当たり100回はペンの位置がコンピュータに通知される。
2003年までに出荷していた初期のタブレットには、東芝の「Toshiba Portege 3500」やViewSonicの「ViewSonic V1100」などがある。どちらもワコムのEMRテクノロジーを搭載していた。かつてはCompaqの「Compaq tc1000」など、他のデジタイザテクノロジーを採用しているタブレットPCも存在していた。だが、初期のタブレットPCデジタイザとアクティブペンの分野において、ワコムのテクノロジーは圧倒的な存在感を放っていた。
初期のタブレットPCプラットフォームは、市場に衝撃を与えられず苦戦していた。Microsoftと同社のハードウェアパートナー企業は、ニッチ市場を主なターゲットにしていた。だが、ハードウェアの要件が厳しく、バッテリーが数時間しか持続しないという問題を抱えていた。また、タブレットPCの価格が高額であったことも、市場での普及が進まない一因だった。つまり、初期のタブレットPCは、時代を先取りしすぎていたといえるだろう。
iPad
この状況はAppleが「iPad」を発表した2010年に一変した。故スティーブ・ジョブズ氏は、翌2011年に「iPadは一般消費者向け製品で最大のヒットを記録した製品だ」と誇らしげに語っている。iPadによって静電容量方式のマルチタッチが一般に普及し、指によるタッチ操作の重要性が示されることになった。だが、当初、MicrosoftのタブレットPCプラットフォームでは、指によるタッチ操作の重要性には配慮せず、ペンによる入力を採用していた。
アクティブペン技術に対するN-trigのアプローチ
その後、Microsoftはタッチフレンドリな未来を考慮して、「Windows 7」から「Windows 8」への転換を図った。それと時を同じくして、静電容量方式のマルチタッチパネル対応のアクティブペンデジタイザを製造するイスラエルの中小企業、N-trigのアクティブペン技術が大流行の兆しを見せていた。2011年ごろ、N-trigの技術は、LenovoやHTCが製造するAndroid搭載タブレットに採用され始めていた。N-trigの「DuoSense」テクノロジーによって、アクティブペン技術がモバイルデバイスに導入されるようになったのだ。DuoSenseは、アクティブペンに対してユニークなアプローチを採用していた。それは、ペン入力と通常のタッチ入力の両方で静電容量方式パネルを採用するというものだった。これは、指によるタッチ入力とアクティブペン入力で異なる2つのデジタイザが必要なワコムのEMRテクノロジーに対する大きな差別化要因となった。
N-trigの技術がデバイスメーカーにもたらすメリットは明らかだった。デジタイザが1つということは、デバイスの軽量化と薄型化につながった。また、コスト削減にも貢献した。多くのパワーユーザーは、総合的にワコムのペンのパフォーマンスの方が優れていると評価しているものの、N-trigは徐々に改良を重ねて、ハードウェア面では高い評価を得るようになった。以前、ソニーは「Sony PCV-LX900 VAIO」などの液晶ペンタブレット製品でワコムのテクノロジーを採用していた。だが、後にリリースした「VAIO Duo 11」などの液晶ペンタブレット製品ではN-trigのテクノロジーが採用されるようになっている。
N-trigは、DuoSenseの後継として、大幅に改良されたアクティブペンとタッチパネルを組み合わせた「DuoSense 2」をリリースしている。そして、N-trigはついにワコムと肩を並べ、ハードウェア面のメリットから大勝利を収めることになった。
ワコムのEMRデジタイザを採用したMicrosoftの「Microsoft Surface Pro」と「Surface Pro 2」は従来のタブレットPC市場の再活性化の立役者となった。ただし、好評を博した「Surface Pro 3」ではN-trigのテクノロジーに切り替えられている。また、「Surface Pro 4」「Surface Book」、近日発売の「Surface Studio」でもN-trigテクノロジーが引き続き搭載されている。それから、動かぬ事実として、Microsoftは2015年前半にN-trigを買収している。
DuoSense 2に対抗すべく、ワコムは静電容量方式のタッチパネルとペンを組み合わせた自社製品「Wacom Active Electro Static」(ワコムアクティブES)プラットフォームの開発に取り組んできた。だが、Microsoftは採用せず、今日の現状に至る。
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