ライフサイエンス企業のCIOが描く成長戦略【第4回】
製薬企業のビッグデータ活用、匿名化された患者の臨床現場データがあると何が分かる?(2/2 ページ)
AI技術の活用
製薬企業における人工知能(AI)技術の活用は、創薬や臨床試験の領域での検討が進んでいる。
武田薬品工業、塩野義製薬、富士フイルム、などの製薬企業が、富士通、NECなどのIT企業などと共に参加し、理化学研究所や京都大学と協力して創薬用AIを開発するという、約50社の連合による取り組みがスタートした。AIシステムは新薬に関する学術論文や、理化学研究所や京都大学病院が持つ患者の臨床データ、病気に関わるタンパク質、新薬候補などの情報を基に新薬候補を見つけることを目指す。AI技術を活用することで、通常は2~3年かかる新薬候補探しの期間短縮や、副作用の恐れがある新薬候補を除外することによる成功率の向上などが期待されている。その他にもさまざまな製薬企業が、AI技術を創薬に生かす取り組みを実施している。
臨床試験の領域の事例としては、塩野義製薬がAI技術による解析プログラム開発と解析ドキュメンテーション業務のセミオートメーション化の開発を進めている。これにより、新薬開発における臨床試験解析の大幅なコスト削減と迅速化を目指している。
営業・マーケティングの領域でのAI技術の活用も始まっている。主な活用領域としては、MRの活動や顧客である医師の行動・特性に基づいた情報提供だ。
例えばファイザーは、MRの面談数、Webセミナーへの参加情報、自社製品の採用情報などをAI技術を使って分析し、活動計画を指示するという仕組みを導入した。他にもMRの訪問ログなどから医師の特性を分析し、有効な資材を提案するという事例もある。第2回「製薬企業の営業・マーケ部隊をITで支援する2つの方向性とは?」で紹介したような、訪問ルートの最適化やパーソナライズドマーケティングの領域においても、今後、AI技術の代表格である機械学習を取り入れることで、より精度の高いレコメンドが実現可能となる。
営業・マーケティング戦略の領域においては、RWDや各種文献情報、売り上げ情報などをインプットとした予測分析により、患者推計や売り上げ予測などの精度が向上し、今後の営業戦略などへの活用が期待される。
情報プラットフォーム構築における考え方
ビッグデータを利活用するための情報プラットフォーム構築に当たっては、どのようなことを考慮する必要があるだろうか。
第3回「製薬企業にもビッグデータの波、『リアルワールドデータ』活用に必要な技術とは」では、ビッグデータの処理基盤として「Apache Hadoop」(以下、Hadoop)を紹介した。Hadoopは複数台のサーバで並列分散処理させることにより、全体の処理能力を向上させる。大規模なデータに対するデータ加工処理や分析処理など、バッチ処理の高速化に有用である。
IMSジャパンの事例としては、RWDを基に患者ごとの分析をするロジックについて、従来、分析処理基盤を利用していなかった場合は約1時間かかっていた処理が、分散化処理基盤に置き換えることにより、処理時間が約10分の1に短縮されるという検証結果が得られた。これは分散化を適切に実施した結果だ。逆に言うと分散化が難しいデータロジックの場合や、適切に分散化されていない場合、期待するほどのパフォーマンス改善効果が得られないこともある。
前回は、多種多様なデータを蓄積する概念として「データレイク」を紹介したが、一般的にデータ参照という面からはリレーショナルデータベース(RDB)の方が高速である。そこで、まずは全データをデータレイクに蓄積し、分析頻度の高い直近データはRDBへ取り込み、全期間データはデータレイクを直接参照する、というような使い分けをする事例もある。
このように、基盤構築においてコストや運用面なども考慮し、適材適所で有用な手段を組み合わせて構成することが重要である。
近年、ビッグデータを処理する基盤として、クラウド環境での構築を検討することが少なくない。分散処理においては複数のコンピュータが必要となるが、必要となるコンピュータを準備・運用するにはコストが掛かってしまう。クラウド環境であれば、処理が必要なときに必要なコンピュータだけ立ち上げることが可能となる。処理ごとにコンピュータ群を構成しておき、処理する際にそのコンピュータ群単位で起動させるという運用もできる。
データストレージについても同様に、初めから必要となるボリュームを見越して準備をするのではなく、必要なときに必要な分を拡張する運用も可能となる。
迅速なシステム構築が可能なこともメリットにつながる。スケールアップ/スケールアウトのシステム拡張や新しいテクノロジーの導入を検討する際、いきなり導入するのではなく、事前に機能検証・効果測定などをした方が望ましい。クラウド環境であれば、検証用の環境を用意し、検証が終了したら元に戻す、ということが可能となる。例えば、データボリュームが増えてきてバッチ処理の時間が増加しているようなケースで、実際にスケールアップした場合の効果を測定する場合、測定結果と追加が必要となるコストとを併せて検討し、そのまま運用するか、元に戻すかなどの判断ができる。
テクノロジーの進歩スピードは速く、利活用できるデータもますます増えていくと予想される。今後はAI技術のビジネス活用もより身近になるだろう。ビッグデータの時代に人材不足が取り沙汰されているデータサイエンティストの役割についても、ある部分AI技術の進展でカバーされる可能性がある。このような状況では、柔軟性・拡張性を持った情報プラットフォーム構築をするとともに、それを推進していく組織の整備も重要となるだろう。
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