ライフサイエンス企業のCIOが描く成長戦略【第5回】
製薬企業にITの新風を吹き込む、次世代のCIOがやるべき4つのこと(3/3 ページ)
第3世代のファーマITになるためのCIOがやるべき4つのこと
前述の4つの発見から導き出される示唆とは何だろうか。
1.ファーマITの再定義(戦略論点)
これからのファーマITは、デジタル化、データ活用、事業構築など、期待される部門目的と役割が広がっている。こうした広がりに対して、ファーマITの新たなロードマップはどうあるべきか、あらためて明確にしなくてはならない。
バイオファーマ企業UCBのCIOであるミゲル・ローザン氏は、米国医薬系メディア「Pharmaceutical Executive」の対談「 Transforming Technology: The Future of the CIO in the Life Sciences(テクノロジーの変容:ライフサイエンスにおける、これからのCIO)」で、バイオファーマ企業UCBのCIOであるミゲル・ローザン氏は次のように述べている。
「デジタル情報は重要である。デジタル情報の応用範囲は、薬を越えた(Beyond the drug)領域へと広がっている。支払者、保険会社、医師ニーズ支援のためのデータ分析領域だけでなく、ウェアラブルデバイスやアプリなど、患者治療を補完する領域へも投資がなされている」
このように、既にアクションを起こしている企業は存在しているが、第3世代ファーマITの自社なりの将来像をきちんと描けている企業は少ない。将来像の実現に向け、何年までに何をどこまでやっていくのかを計画することが必要だ。当然、使える資源は限られているため、やりたいことが全てできるわけではない。自社の事業戦略との整合性も取らなければいけない。
2.新たなIT機能部門の組織化(組織論点)
デジタル化、ビッグデータ活用、イノベーションといった新しい役割に対しては外部から人財(Human Capital)の採用を進めなければならない。だがその前に、こうした新しい役割の人たちをファーマITの傘下に据えて1つの部門として運営するのか、パラレルな組織として別々の部門として存在させるのかを考えなければならない。会社によっては、それまでのIT部門長の知らないところでCDO(Chief Digital Officer、またはChief Data Officer)を採用して、IT戦略とデータ戦略のアライメント(方向性の調整)が取れていない企業もあるかもしれない。
新しい役割の人たちをファーマITの傘下に据えるメリットは、技術の標準化を進めやすかったり、技術インフラを共通に使うことでIT予算を節約したりできることがある。しかし、ユーザーのニーズに柔軟に応える体制としてはさまざまな難しさが生じるであろう。
他方、パラレルな組織としてデジタル部門を置く企業は、将来的に彼らをプロフィットセンターにしようと目指している傾向があり、社内業務プロセスのIT化を担当するIT部門とは違う位置付けにしている傾向がある。また、CDOのバックグラウンドは、従来のIT部門長のバックグランドと大きく異なり、メディア企業の出身者も少なくない。理由としては「どのようにデジタルチャネルを通して発信していこうか」という思惑があるからであるが、そもそも人間関係の相性の問題も無視はできないだろう。
3.経営者としてのファーマITのリーダーへ(経営論点)
ITTSの調査結果の通り、企業の取締役会の役員になっているCIOは全体の4分の1以下である。これまでのCIOはシステムを理解できるエンジニア的側面と、大規模なプロジェクトマネジメントを推進するマネジャーという側面を併せ持つ人財が中心であった。しかし、今後は自ら事業を興し、PL(損益)管理をしていくということになれば、当然経営者としての素養と能力を身に付けなければならない。残念ながら、現在の製薬業界のCIOで、取締役会でPL管理責任を持っているメンバーと渡り合える能力のある方は多くない。これまでは、それでもさほど問題はなかったが、今後は取締役会のメンバーとして招聘(しょうへい)され、戦略的機能部門として誰からも認知され、経営陣の1人として経営に関わることが必要となってくるだろう。
そして、このようなCIO人財を招聘する側の、製薬企業の経営メンバーも、新たな文化と価値観を受け入れる組織風土や土壌を作らなければいけない。このような人財は、従来の製薬企業の風土や土壌の中では、異端なタイプであることも多いためである。
4.勝者としてのファーマITのリーダーへ(競争論点)
上記3つのことをやらなければならないもう1つの理由が、この領域が対外的脅威にさらされているからである。
同対談で、Egon Zehnderのアラン・サーハン氏は次のように述べる。「Samsung ElectronicsやGoogleの参入により、製薬業界全体がリスクにさらされている。CIOはこうした脅威に対し、顧客体験のより良い理解を通じて、競争に勝つための準備はできているのだろうか」
ヘルスケアIT、デジタルヘルス、データヘルスの領域は、製薬業界の外側の人たちにとって、極めて魅力的な領域となっている。ITプレイヤーだけでなく、多くの投資家がこの領域に注目しており、その期待値は大きい。この期待値が具体的な付加価値に変換された暁には、大規模な時価総額へと化けることになるだろう。
このような時代が到来した時、果たして第3世代のファーマITは、十分に戦える準備ができているのであろうか。第3世代のファーマITのリーダーの責務は、デジタルやデータ技術とヘルスケアの融合より生まれる事業機会の捕捉にとどまらず、対外的脅威にどう備えるかといった極めて戦略的レベルまで広がっているのだ。
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ライフサイエンス企業のCIOが描く成長戦略
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