個人への最適化が教育現場にもたらすものとは
“究極の個別指導”「アダプティブラーニング」は学校に役立つのか? 教育者が議論(2/3 ページ)
専用ツールの活用だけがアダプティブラーニングではない
アダプティブラーニングの実践に、KnewtonやQubenaといった専用ツールは必ずしも必要ではない。「個別の学習者に寄り添った学習の実現」をアダプティブラーニングの目的に据えるのであれば、その実現のための手段はさまざまだ。
2011年に情報コミュニケーション科でAppleのタブレット「iPad」を必携化し、1人1台iPad環境を実現した千葉県立袖ケ浦高等学校の永野 直教諭は、学校を休んだ生徒のフォローに動画を活用している。生徒が休んでいる間の授業を三脚で固定したiPadで撮影し、その映像をオンラインサービスに保存。自宅からでも映像を閲覧できるようにして、休んだ生徒が授業に付いていきやすくなるよう配慮している。
数学を難しいと感じる生徒が多いことから、教員と生徒が協力して、数学の理解を助けるための動画を作成する取り組みも進めている。動画は校舎の廊下に設置したiPadから閲覧できるようにしており、他の生徒の興味を引き付けるためにiPadの周囲にキャラクターの絵を描くなど、生徒自ら工夫しているという。
ツール活用の自由度向上にも取り組む。例えばレポート発表において、Appleのプレゼンテーションツール「Keynote」から、「Microsoft Word」「Microsoft PowerPoint」といったMicrosoftのオフィスアプリケーション、模造紙をはじめとするアナログな手段まで、各生徒の得意な手段を選べるようにしている。永野教諭によると、なかなかノートを取らなかった生徒にデジタルツールの活用を許可したところ、ノートを取るようになった例があったという。
堀井学園で総合企画室室長を勤める堀井章子氏は、アナログな手段でアダプティブラーニングに取り組む。堀井氏が利用している「チャレンジノート」は簡単に言うと、生徒と教員による交換日記のような紙のノートである。チャレンジノートには、塾生が学習した内容の振り返りや評価、テストの点数などを記録する。自らの思考や行動を客観的に認知する「メタ認知」の力を醸成し、PDCA(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)サイクルを塾生自身で回せるようにするのが狙いだ。面談にチャレンジノートを活用し、塾生が主体的・計画的に学習を進められるように工夫している。
変わりゆく大学入試を戦えるのか
iPadをはじめとするデバイスを積極的に活用し、神奈川県を中心に学習塾「中萬学院」を展開する木暮誠一氏は「効率を重視するなら成果が出るだろう」と、アダプティブラーニングの効果に一定の理解を示す。ただし大学入試が変貌する今、アダプティブラーニングが「キラーコンテンツになるかというと、やや懐疑的だ」と語る。
学習指導要領の改定と並行して議論が進んできた大学入試改革。今後は、学習指導要領でも育成を求める「思考力」「判断力」「表現力」を問う問題が大学入試で広がるとみられる。具体的には、通常の選択式よりも深い思考力が求められる「連動型複数選択問題」や記述式問題などの増加が見込まれている。こうした状況を踏まえると、現状のアダプティブラーニングが得意な基礎知識の定着だけを追求しても「学習者は“戦えなくなる”のではないか」と、モデレーターを務めたiOSコンソーシアムの野本竜哉氏は疑問を投げ掛ける。
いわば“究極の個別指導”の実現を支援するのがアダプティブラーニングだ。一方で「全てが個別指導になればいい、というわけではない」と、中萬学院の木暮氏は語る。例えば集団指導であれば「同じクラスの同級生から刺激を受け、新たなことに興味を持つといった“化学反応”が起こる」(同氏)。生徒によっては個別指導よりも集団指導でたくさんの刺激を受けた方がいい場合もあるし、個別指導の方が学習を進めやすい場合もある。“どんな子どもにも適した学習法”を見つけ出すのは難しい。
袖ケ浦高校の永野教諭は、基礎的な知識やスキルの育成にはアダプティブラーニングが役立つ可能性があると認める。だが教育に求められる要素が変化している状況を踏まえると「それだけでは足りない」と強調する。思考力、判断力、表現力の育成は、何かを覚えれば終わりといった単純なものではなく、技術による効率化が難しい。こうした複雑な学習は、今後も教員が担う必要がある、という考えだ。
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