市場規模が徐々に拡大、競争も激烈に
徹底比較:Salesforce、AWS、Azureなどの主要PaaSを紹介 将来有望なのは?
PaaSの前途は有望だが、競争は熾烈だ。アプリケーション開発の分野で重要性を増しつつあるPaaS市場の主要サービスを紹介する。
PaaS(Platform as a Service)は今のところ、SaaS(Software as a Service)やIaaS(Infrastructure as a Service)が過去10年間に経験したほどの爆発的な成長を遂げていない。ただし開発者が数名しかおらず、基盤インフラの管理が開発ペースに追い付かない状況にあるスタートアップ企業は、PaaSを好んで選択している。PaaSは下位層のインフラストラクチャを抽象化し、アプリケーションの開発やテスト、導入に利用できるプラットフォームを提供することによって、アプリケーションの開発を簡素化する。
運用チームは構成済みのインフラストラクチャをコンソールから利用することで、サーバやストレージ、ネットワークなど、スタックの下位コンポーネントの管理に要する時間を大幅に削減することが可能だ。PaaSは通常、コンピュートリソースやOS、開発・テストツール、セキュリティ機能、エンドツーエンドのパフォーマンス監視など、開発に必要な全ての要素を含む。アプリケーション開発に大勢の開発者やサードパーティー開発者が関与する企業にとって、PaaSは優れた選択肢となる。
本稿では主要なPaaSを幾つか取り上げ、PaaS市場の主な動きとともに紹介する。
クラウド ナビ
Salesforce.com「Salesforce App Cloud」
Salesforce.comの「Salesforce App Cloud」は、同社のPaaSである「Heroku」と「Force.com」にユーザーエクスペリエンスプラットフォーム「Lightning」と同社のその他のサービスを組み合わせた統合プラットフォームだ。Salesforceは自社で開発したForce.comとLightningだけでは、それほど支持を獲得できていない。だが同社が2010年に買収したHerokuは、PaaS市場の黎明期から存在するよく知られたベンダーであり、それだけでもSalesforce App Cloudに与える影響は絶大だ。Herokuは多数のプログラミング言語とハイブリッドインフラをサポートする成熟したPaaSプラットフォームであり、恐らく開発者がPaaSプラットフォームといわれてまず思い浮かべる名前である。この状況はまだ当分は変わりそうにない。それでもSalesforce App CloudがPaaS市場で成功するためには、Herokuのレガシーに頼っているだけでは駄目だ。SaaSの草分け的存在であるSalesforceがPaaSで同じ成功を繰り返せるかどうかは、まだ定かではない。
Google「Google App Engine」
「Google App Engine」(GAE)は、Googleのクラウドサービス「Google Cloud Platform」で最初にスタートしたサービスだ。動画メッセージングサービス「Snapchat」やモバイルゲーム「Angry Birds」などのアプリケーションがプラットフォームに採用している。創業からの数年間ダウンタイムに悩まされたTwitterなどのスタートアップ企業とは異なり、GAEを利用したアプリケーションはそうした問題とはほとんど、あるいは、全く無縁で済んだ。GAEは負荷分散とスケーリングを自動的に実施できるので、リソースの限られたスタートアップ企業にとって理想的なサービスだ。GAEはHerokuほどオープンな技術を採用しておらず、プロプライエタリなSQLデータベースとAPIを使用している。ただしGAEは「Amazon Web Services」(AWS)などのIaaSと比べて、アプリケーションの開発とスケーリングを大幅に簡素化できる。マイナス面としては、GAEは2016年に一度大規模障害を起こし、Snapchatも含め、GAEを利用したアプリケーションの21%が停止するという事態を招いたことがある。ただしこれは例外的なケースであり、その他の点においては、GAEはPaaS市場における手堅い有力候補の1つである。
AWS「AWS Elastic Beanstalk」
IaaS市場のリーダーであるAWSは、「Amazon Elastic Beanstalk」というPaaSを提供している。企業がElastic Beanstalkを選ぶ理由の1つに、NoSQLデータベース「Amazon DynamoDB」や運用監視ツール「AWS CloudWatch」、ストレージ「Amazon Simple Storage Service」、アクセス制御「AWS Identity and Access Management」といったAWSの各種サービスとの連携がある。AWSでインフラを構築した経験がある人ならば、使い慣れたAWSのコンソールとツールでPaaSベースのアプリケーションが管理できる。HerokuもAWSのIaaS上に構築されているが、Elastic Beanstalkの方がAWSの仮想サーバ「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)を管理しやすい。Elastic Beanstalkは、利用者による独自のカスタムプラットフォームの作成もサポートする。これを理由に、HerokuからElastic Beanstalkに乗り換えたユーザーもいる。ただしこうなるとIaaSとPaaSの区別は曖昧となり、PaaSとは何かという疑問が浮かぶ。その答えは企業とアプリケーションによって異なるだろうが、検討に値する疑問ではある。
Red Hat「Red Hat OpenShift」
「Red Hat OpenShift」はオープンソースソフトウェアを基盤とするPaaS型クラウドサービスだ。近年開発者の間で人気のコンテナ技術「Docker」とコンテナ管理ツール「Kubernetes」に重点を置くことで他社との差別化を図り、自らを「エンタープライズクラスのコンテナプラットフォーム」と称している。Red Hatはこの製品で開発者の支持を取り付けようと力を注いでいる。従来Red HatはIT部門にソリューションを販売してきたが、PaaSのターゲットとなるのは開発者だ。Red HatはOpenShiftでパブリッククラウドとプライベートクラウドにわたる単一のプラットフォームを提供することを目指しており、この目的のために、OpenShiftをAWSやGoogle Cloud Platformといったパブリッククラウドプラットフォームに対応したバージョンを提供している。Red Hatは従来、ベンダーロックインを嫌う企業の間で大きな成功を収めてきた。飽和状態のPaaS市場において、OpenShiftが影響力を発揮できるかどうかは、まだ定かではない。
Microsoft「Azure App Service」
Microsoftは2015年、PaaS「Azure App Service」を発表した。Azure App Serviceでは、Webアプリ、モバイルアプリ、APIアプリ(APIを構築し利用できる)、ロジックアプリ(ワークフローやビジネスプロセスを自動化できる)に加え、サーバレスアーキテクチャを実現する関数アプリ(Azure Functionsの関数)を作成できる。クロスプラットフォーム化という時代の流れに合わせ、MicrosoftはAzure App Serviceで構築したアプリケーションをどのプラットフォームでも実行可能にしている。Azure App Serviceは目下、PaaS市場への最新の参入者として足固めを図っている段階だ。
新勢力
上述したベンダーはいずれもIaaSとSaaSで既に人気を確立し、各種ソリューションを販売するための十分な資金力を有している。一方、PaaS市場での成功を目指し、こうした大手に戦いを挑んでいる新勢力もある。その代表格Cloud FoundryはオープンソースのPaaSだ。こうした新勢力に共通するのは、DockerとKubernetesを全面的に採用していることだ。Cloud FoundryやEngine Yard、ApprendaといったPaaS事業者は、市場を席巻中のコンテナ技術の時流に乗るべく、DockerおよびKubernetesとの統合強化を発表している。
PaaS市場はまだ動き始めたばかりだ。アプリケーションは今後10年間で徐々に、基盤インフラを心配する必要のないDevOpsチームによって導入されることになるだろう。そこでPaaSの出番だ。当初の予想より時間はかかっているが、興味深い動きは確かに進んでいる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
4
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
5
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
-
6
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
7
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
8
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
9
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
10
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー