開発者がインフラを意識しない世界へ
ヤフーの「Cloud Foundry」徹底活用術、使って分かったPaaSの魅力と難しさ
「Yahoo! JAPAN」を運営するヤフーは、開発速度の10倍向上を目指しクラウドネイティブ基盤を構築。そのために「Pivotal Cloud Foundry」を採用した。同製品を選択した理由や目指している方向性についてまとめた。
次の20年に向けた新たなビジョン「UPDATE JAPAN」を掲げるヤフーは、最新のデジタルテクノロジーで人々の生活と社会をアップデートするため、サービス開発のさらなる高速化を追求している。その解決策として着目したのがオープンソースに基づくPaaS(Platform as a Service)環境の活用である。2017年11月16日に開催されたPivotalジャパンのイベント「Pivotal.IO 2018」に登壇したヤフーのクラウドプラットフォーム部・部長、佐野 雄一郎氏が、クラウドを前提としたシステムであるクラウドネイティブの次世代プラットフォーム(システム動作環境)として採用した「Pivotal Cloud Foundry」の全社横断的な活用方法や運用体制について解説した。
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開発者がインフラを意識しない世界へ
月間に4158万ものユーザーIDがログインして利用するポータルサイト「Yahoo! JAPAN」を運営するヤフー。同社は、生活に密着した公共性の高いサービス事業者として、安全かつ快適なポータルサイトを提供する使命を担っている。それを支えるコアとなるのが、月間に約758億ものPVを処理するインフラおよびプラットフォームに関するエンジニアリングだ。
同社は現在も絶え間ない改善を続けている。Pivotal.IO 2018に登壇し、「UPDATE JAPANの実現へ『10倍速く』開発するためのYahoo! JAPANの取り組み」と題する基調講演を行った佐野氏は、「デジタルテクノロジーで人々の生活と社会をアップデートするには、より速いスピードでサービスを開発する必要があります」と語った。その目標値が講演タイトルにもある“10倍”なのだ。
もっとも単に開発作業だけをスピードアップする仕組みを導入しても、新たなサービスをデリバリー(提供)するまでのトータルの時間短縮にはつながらない。実際には開発者は日々の運用にもかなりの工数を割いており、その部分を圧縮しなければならない。「開発者がインフラを意識することなく、さまざまなサービスの提供といった、より大きな価値を生み出すことに集中できる世界を作りたいと考えました」と佐野氏は強調した。
この課題を解決すべく同社が導入に踏み切ったのが、OSS(オープンソースソフトウェア)ベースのPaaS環境、「Cloud Foundry」だ。具体的に選定したのは、「Pivotal Cloud Foundry」および開発やデリバリー作業を自動化するCI(継続的インテグレーション)/CD(継続的デリバリー)ツール「Concourse」の2製品である。
Pivotal Cloud Foundryを選定した理由とは
Pivotal Cloud Foundryを選んだ理由として佐野氏は、既に多くの企業で採用されている点を挙げた。加えてOSSのクラウド構築基盤「OpenStack」やサーバ仮想化ソフトウェア「VMware vSphere」など複数のIaaSや仮想化基盤で動作するなど動作環境が幅広いこと、好みの開発言語やデータベースなどを追加・拡張して独自のPaaS環境としてカスタマイズしやすい点も大きかったという。
一方のConcourseの選定理由として挙げたのは、次の3つの特徴だ。まずは「Simple」(単純さ)で、開発・デリバリー作業(タスク)の流れを示すCI/CDパイプラインの定義を全てYAMLファイルで管理でき、構成管理が容易になる。次に「Scalable」(拡張可能)なことで、CI/CDパイプライン内の各タスクを実行する「Worker」のインスタンス(コンテナ)を追加するだけで容易に拡張できる。そして3つ目が「Reproducible」(再現可能)なことだ。タスク実行環境をコンテナで提供するため、コンテナイメージさえあればどこでも再現できる。
もちろんPivotal Cloud FoundryやConcourseを導入したからといって、基盤構築や運用の全てを自動化できるわけではない。それでもミドルウェアのランタイム(実行環境やライブラリ)部分をワンパッケージで提供する「Buildpack」というCloud Foundryの機能を利用すれば、少数のプラットフォーム担当者でバージョンアップや脆弱(ぜいじゃく)性パッチの適用などもできるようになる。トラフィックやCPUの使用率にあらかじめしきい値を設定しておき、それを超えた際に自動的にインスタンスを増やし、負荷が下がったらインスタンスを減らすといったオートスケールも可能になる。こうしたプラットフォーム側の操作をサービス担当者は全く意識する必要はなく、「ワンコマンドでソースコードをアップロードするだけで、その言語に合わせた環境を簡単にデプロイ(配備)でき、Webサービスを立ち上げることができます」と佐野氏は強調した。
この基盤で2017年度末までに17種の社内ツール、28種の一般ユーザー向けサービスが本番稼働を迎える計画だ。「2018年度以降は、さらにこの数倍の開発プロジェクトが動き始めることになります」と、佐野氏は今後の見込みを示した。
全ての社内プラットフォームの“マーケットプレース化”を推進する
実際のところ、ヤフーはどのような体制でPivotal Cloud FoundryならびにConcourseの活用を推進しているのだろうか。佐野氏によると、Googleがクラウドビジネスで提唱している「CER(顧客信頼性エンジニアリング)」と「SRE(サイト信頼性エンジニアリング)」の2つのチームを、同社も社内に設置した。
CREチーム(8人)のミッションは、開発者によるプラットフォーム移行の不安を取り除くこと。Pivotal Cloud Foundryの効率的な利用方法を提案し、困難な課題を解決する。例えばCI/CDパイプラインの整備、Pivotal Cloud Foundry管理ツールの開発・保守、ユーザー(社内のエンジニアなど)からの問い合わせサポート、セミナーなどのユーザー教育に当たる。
一方のSREチーム(7人)は、Pivotal Cloud FoundryおよびConcourseの信頼性向上に注力し、障害予防や自動化促進に努めてシステムの信頼性を高める。例えばPivotal Cloud Foundry本体やBuildpackのアップデート、新規クラスタの構築、運用監視、障害対応などが主な役割となる。
そしてこの2つの社内チームの活動を補完すべく導入しているのが、Pivotalが提供する「Business Critical Support」と「Professional Service」のサポートである。
こうした運用体制の下、「開発者がより簡単にプラットフォームを利用できるようにするため、あらかじめプラットフォームを登録しておくことで即座にPivotal Cloud Foundryで利用できる“マーケットプレース化”を、全ての社内プラットフォームに対して推進していく」と佐野氏は語った。
また現在、Pivotal Cloud Foundryの標準管理ツールでクラスタごとに個別に権限の管理(設定・変更)をかけていたものを、複数クラスタに一括で権限を管理できるツールを開発した。社内の権限管理ツールとも連携し、Pivotal Cloud FoundryのACLを一元管理する。その他、障害発生時のアラートを受け取って自動で復旧させる仕組みづくりも進めており、将来的に全ての運用系作業の自動化を目指す。さらにはクラスタの正常稼働に必要なメトリクス(数値指標)を可視化することで、問題発生のアラートをトリガーとしている後追い的な対応から脱却し、より余裕を持った先回り対応に移行していく計画だ。
Pivotal Cloud Foundryの導入に当たっては苦労もあった。既存システムで使用していた、全社システム共通処理用のデーモン(常駐プログラム)のプロセスをPivotal Cloud Foundryへ移行する際、BuildpackベースのCloud Foundryアプリケーションではこのデーモンプロセスを利用できないという課題に直面した。オンプレミスやIaaSの仮想マシンでは問題がなかったIPアドレスベースのセキュリティポリシー(ファイアウォール設定など)についても、PCFは複数のサービスがマルチテナントでテナントに乗るため、サービスごとにIPアドレスを定められず、想定通りのセキュリティポリシーが適用できない場合がある点でも苦労した。標準化でも課題になった。Pivotal Cloud Foundryは利用可能なミドルウェアや開発言語が多様だが、他のプラットフォームと連携する場合は専用のライブラリを用意する必要がある。PaaSは自由度が高いとはいえ、規模によってはある程度の標準化をしておかないと苦労しそうだ。
佐野氏は「クラウドサービス化では単に開発環境を提供するだけでなく、現行ポリシーの見直しや体制づくりも含めて準備することが重要です。特に開発者に対してはセルフサービス化を推進し、運用担当者に対しては可能な限り自動化を図ることで、PaaSのメリットを最大限に享受できます」と訴求し、基調講演を締めくくった。
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