移行の決断は容易ではない
「SAP ERP HCM」サポートが2030年まで延長、「S/4HANA」移行問題はどうなる?
SAPは、オンプレミスで導入した人材管理(HCM)システムのサポートを5年間(2030年まで)延長する。だが、こうしたHCMユーザーがSAPのサポートを受けるには、「S/4HANA HCM」へ移行しなければならないだろう。
オンプレミスで導入した「SAP ERP HCM」のサポート終了を2025年から2030年に延長するという、SAPの新しい計画には驚きを隠せない。それは、オンプレミスシステムをそのまま維持することが、「SAP S/4HANA」の人材管理(HCM)システムへの移行を意味するためだ。このことは、オンプレミスユーザーの意思決定を難しくする。
オンプレミスで利用できるSAP ERP HCMの新オプションのアップグレードは2023年まで利用できない。そして、S/4HANA HCMライセンスの有効期限は「少なくとも」2030年までになる。このことが、ベンダーがサポートを延長する妨げにはならない。だが、ユーザーは今のところ何が起きるか分かっていない。
SAPによると、オンプレミスでHCMを導入している顧客企業(約1万4000社)のうち北米以外の顧客が80%を占めるという。
同社は、こうした顧客企業にとってはS/4HANA HCMへの移行が最善だと考えていて、アップグレードのコストはインメモリシステムのメリットによって相殺されると主張する。
だが、こうした顧客企業のHCMの最終的なアップグレード先として、クラウドベースのHCMである「SAP SuccessFactors」が残っている。ということは、オンプレミスシステムが存続するかどうかは分からないことになる。
SAPでSuccessFactorsの製品責任者を務めるエイミー・ウィルソン氏はインタビューに次のように答えている。「重要なのは、顧客の仕事をもっと楽にして、ビジネスを最善の方法で運営できるようにするのが今回の目的であることだ。これ以外の目的を考えたことはなく、これが当社の顧客が求めていることだと考えている。当社は顧客を大切にし、顧客に共感している」
だが、疑問はある。英国とアイルランドのSAP User Group会長を務めるポール・クーパー氏は、TechTargetの質問に対して次のように答えた。「既存のR/3 SAP HCMのサポートを単純に延長するのは、特に、2020年から2025年にサポートを延長した現状では恐らく非常に難しいだろう」
「現段階では、SAPがユーザーにさらなる期限延長ではなく、S/4HANAへの移行を求めるにはまだまだ不十分だ」とクーパー氏は話す。
クーパー氏によると、ユーザーグループの調査では「多くのユーザーが古い『SAP HR』と新しいアプリのSuccessFactorsをS/4HANAと統合することに関して懸念を示した。そのため、S/4HANA HCMの発表では、ある程度これに対処し始めていることを強調していた」という。
だが、クーパー氏によると、その発表もまた問題を引き起こしているという。
「とはいえ、製品とその目的に関する情報を理解しないで、移行の複雑さを判断するのは難しい。このようなプロジェクトには多大な時間が必要になり、大量のリソースを利用するため、企業に悪影響を及ぼす恐れがある。多くの企業が疑問視しているのは、有効期間が7年しかないうえに、2023年までは入手できないオンプレミスソフトウェアを購入してライセンスを取得する準備ができるのかということだ」(クーパー氏)
ウィルソン氏は、S/4HANA HCMへは「問題なく」アップグレードできるはずだと話す。
「オンプレミス環境では、技術的なアップグレードがあり、その後に機能のアップグレードがある。技術的なアップグレードであれば、必要な作業やテスティングのようなことはあるとしても、やることはクラウドの更新とほとんど変わらない」(ウィルソン氏)
EIC Expertsのパートナー管理を担当するSAP HCMコンサルタントのジャレット・パザハニック氏はSAPの計画を厳しく批判している。同氏には、Global SAPとSuccessFactorsのLinkedInグループに多くのフォロワーがいる。
「SAPはHCM顧客のためにサポートを2025年以降も延長すべきだと考えている」とパザハニック氏は話す。
同氏はTechTargetの質問に対して、SAPの行動は「顧客中心ではない」と答えている。
「新しいSAP HCMオンプレミスシステムの『付属品』ともいえるサービスにアップグレードするために、オンプレミスHCMを忠実に維持しようと費用を負担する顧客に対して、最低5年(2023年まで)待ち、移行コストと移行に伴うリスクを全て引き受けるよう求めているのだ」(パザハニック氏)
S/4HANAにはネイティブのHCMがないため、ここではあえて「付属品」としている。「SAP HCM for S/4HANA」は個別のインスタンスで実行されるが、S/4HANAと緊密に統合されている。SAPによると、このアプローチをサポートするためのツールやサービスを用意しているという。
「SAPはただ『現在のサービスでSAP ERP HCMと顧客を2030年までサポートする』と発表すればよいだけだ。それが、シンプルかつ明快であり、最終的には顧客基盤の一部が望んでいることだ」(パザハニック氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「Microsoft 365のセキュリティ運用」に関するアンケート
-
4
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
5
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
6
「Salesforceのテスト自動化ツール」に関するアンケート
-
7
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
8
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
9
AIで人を減らした企業がもう心変わり 「AIブーメラン現象」の実態
-
10
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー