それでも先進技術への投資が必要
ERPにARやAIは必要? 激推しするベンダーとユーザーの温度差
ERPベンダーは、拡張現実(AR)や人工知能(AI)といった先進的な技術の導入を後押しする役割を果たすかもしれない。だが、IT予算の締め付けが続いており、そうした技術の売り込みは難航する可能性がある。
Boers & Co FineMetalworking Groupは、在庫のカウントにドローンを使っている。ドローンは、同社の1.2エーカー(約4856平方メートル)の製造工場の内部を飛び、RFIDタグからデータを読み取る。この自動化は従業員の生産性を高めている。ドローンが集めたデータはERPシステムに取り込まれ、ERPシステムはレポートを生成する。このERPシステムのベンダーは、他の企業にもこの技術の利用を勧めている。
Boers & Co FineMetalworkingは、高精度金属部品を受託製造している。製品や設計図は所有しておらず、製品の販売ではなく、製造プロセスの効率を高めることで利益をあげている。そのため、従業員の生産性向上は、Boersの成功にとって重要な意味を持つ。
「われわれは既存プロセスでは限界まで生産性を向上させている。そのため、自動化やスマート思考に多大な投資をすることが必要だった」と、BoersのICT(情報通信技術)マネジャーを務めるジョス・グリーブ氏は語る。
ERPベンダーが取り組みを進めるAR、AIにユーザーは?
ERPシステムは、在庫や財務、価格、従業員などに関わる全ビジネスの中核業務の追跡管理に使用される。だが、ERPベンダーはユーザーに、拡張現実(AR)技術の導入や、マシンやロボットから収集されるセンサーデータへの人工知能(AI)型技術の適用など、より多様な取り組みの展開を勧めている。
ERPベンダーのEpicorは最近開催したユーザーカンファレンスで、Boersにおけるドローンの活用を大きく紹介した。Epicorはユーザーに、従業員の生産性向上に向けてこうした技術を試すよう呼び掛けている。だが、大多数の企業はそういったものを導入していない。
AIが組み込まれた財務アプリケーションについて、「例えば、Starbucks本社では生産性向上に威力を発揮するツールになるだろう。だが、バリスタ(コーヒーを入れる職種)には全く役に立たない」と、G2 Crowdの最高リサーチ責任者を務めるマイケル・ファウセット氏は指摘する。
企業は、従業員の生産性を高めるために、AIのような技術やロボット、その他の技術を使っているかもしれないが、その使い方は、「まだかなり控えめだ」とファウセット氏は説明する。
企業は新たなIT投資に及び腰
米国の生産性上昇率(従業員1人当たりのアウトプットの伸び率)はかなり停滞している。ハイテク企業はイノベーションの進展を盛んに宣伝しているが、生産性上昇率はここ40年で最低の水準にある。調査会社のComputer Economicsによると、この低迷は、IT部門の支出額にも反映されているという。
「生産性が伸びていないのは当然だ」。Computer Economicsのリサーチバイスプレジデントを務めるデビッド・バーグナー氏はそう語る。同社は約200のIT部門の予算について、比較調査を継続している。
「企業は、予算を増やして新しいITに投資しようとはしていない。実際には、予算を厳しく抑制している」(バーグナー氏)
IT部門は、2000年代後半の景気後退以来、売上高に占めるIT支出の割合を、2.3~2.5%という「ごく低い水準」に抑えている。その結果、大半の年では、IT運用予算の伸び率は、インフレ率に辛うじて見合う水準で推移してきたと、バーグナー氏は説明する。この支出規模は、「生産性を押し上げるには不十分だ」とバーグナー氏は語る。
Computer Economicsの調査では、AIや機械学習に関して、ほとんどの企業が「まだ消極的」であることも分かった。「回答企業の9%しかAIを利用していない」(バーグナー氏)
実際、Deloitteも、最近発表したレポート「2018 Global Human Capital Trends」で、1500人の経営幹部に対して調査したところ「AIの考え方と自社のAIアプリケーションについて熟知している回答者は、17%にとどまった」と述べている。
先進技術の導入率は15%止まりか
ERPベンダーには、ユーザーに新しい技術を試すよう勧める動機がある。関係を構築したり、顧客のビジネスにとっての自社ERPシステムの価値を高めたりするのに役立つからだ。ERPベンダーがオンプレミスの顧客を、オンプレミスシステムの最新版に移行させることに成功することもあるかもしれない。「それは、顧客が最新版の機能を求めている場合だろう」と、IDCのエンタープライズアプリケーションおよびデジタルコマース担当のプログラムバイスプレジデント、ミッキー・ノース・リッツァ氏は語る。
だがリッツァ氏は、一般的に、ARやドローンといった新しい技術を使用する企業の割合は、10%か、せいぜい15%だろうと推計している。「それでも、こうした技術に人気が出始めているのは確かだ」
これらの新技術の多くも、従業員の生産性向上に主眼が置かれている。在庫をカウントするドローンは、従業員の時間を節約する。アナリティクスはマシンの予防メンテナンスに利用でき、ダウンタイムを削減する。ARは、現場のサービス技術者が専門家とのリモート通信に利用でき、専門家は技術者に、部品の取り付けやテストなどに関するガイダンスを提供できる。
ERPプロバイダーであるIFS North AmericaのCTO(最高技術責任者)を務めるリック・ビーグ氏は、新技術に投資する企業が少ないことは身をもって知っている。
IFSは、航空や防衛、自動車、エネルギー、公益サービスなど、さまざまな業種向けにERPシステムを提供している。例えば、IFSは、ドローンが電線や電話線などを点検し、作業指示を発行できることを示す概念実証(PoC)のデモを行っている。
生産性を高める大きな可能性
ビーグ氏は、修理の際に使用されるAR技術など、こうした新しい技術には、「生産性を高める大きな可能性がある」と語る。このAR技術では、新しい部品を取り付けるフィールド技術者がゴーグルを着用し、仮想現実を利用して、遠方にいる専門家から協力を得ながら、円滑に作業を遂行するといったことが可能だ。しかし、この技術を試そうとすると、文化的な障害や財務的な障害にぶつかることもあると、ビーグ氏は語る。
特に、製造業ではこの10年間、「コスト圧力が強い」とビーグ氏は振り返る。こうした技術を実装する能力があるIT部門の大半は、「既存システムの安定運用に追われている。彼らは、他のことを実験できるだけの多くの帯域幅がないか、あるいは手いっぱいになっている」とビーグ氏は説明する。
「実験する意思を持たなければならない。初めはとても面白そうに思えても、自社の環境ではうまくいかないかもしれないからだ」(ビーグ氏)
従業員の生産性上昇率が低いのは、世界的な課題だ。だが、一部の企業は積極的に対策を講じている。Boersもその1つだ。
Boersはドローンを使用するとともに、バーコードスキャナーを組み込んだ手袋を一部の従業員に支給している。この手袋は、従業員が適切な部品を手に取ると、ビーッという音を出し、そうでない場合は、触覚に働きかけてフィードバックを伝える。これらのデータは全てEpicor EPRシステムに送られる。工場から集められるマシンセンサーデータもその中に含まれる。BoersはEpicorの協力を得て、AIベースのパターン認識を利用してマシンの予防メンテナンスも行っている。
グリーブ氏は、これらの技術を組み合わせた効果として、生産性が10%向上する可能性があると見込んでいる。
経済学者は、先進的な技術を幅広く導入すれば、生産性が向上するのは明らかだと考えている。
「だが、こうしたレガシー企業における技術の投資や導入は、国家規模や世界規模で生産性を著しく押し上げるのに十分な規模には達していない」と、テクノロジー経済学の専門家ハワード・ルービン氏は述べている。
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