関東第一高等学校・横山北斗教諭の挑戦【後編】
東京大学の合格経験から見えた、教育にITを使うメリットと課題は?(1/2 ページ)
ある現役教員がITを活用した受験勉強に挑戦し、見事、東京大学合格を果たした。その教員の話から、受験勉強や普段の学習にITを活用するメリットは何か、そこから教育はどう変わるべきかを探る。
若年層におけるスマートフォンの所持率が高まる中、学習や受験に活用できるIT製品/サービスが急速に充実している。これらのIT製品/サービスは、本当に受験や学力向上に有効か。この答えを探るべく、自らITを活用した受験勉強に挑戦し、東京大学合格を果たした現役教員がいる。関東第一高等学校(東京都江戸川区)で数学を教える横山北斗教諭だ。
前編「東京大学にIT活用で合格した現役教員 受験に活用したアプリとは?」では、横山教諭が東京大学の合格を目指した理由、受験勉強において使用したIT製品/サービス、それらの活用方法の詳細を紹介した。後編の本稿では、横山教諭の受験経験を基に、ITを活用した学習のメリットや課題、普段の授業にITを生かす際のポイントなどを聞く。
何度も聞くことができるオンライン動画講座は、受験勉強に有効
横山教諭は2016年、国公立大学や難関私立大学を目指す特別進学コースの担任となった。受け持ちの生徒の中に東京大学志望が5人おり「生徒と一緒に受験勉強をすることで、説得力のあるアドバイスができるのではないか」と考え、自ら東京大学受験に挑戦することを決意した。当時高校2年生だった生徒と共に受験勉強に励み、その結果、2018年に東京大学合格を果たした。
受験勉強の際に横山教諭が主に活用したのが、リクルートマーケティングパートナーズのオンライン動画学習サービス「スタディサプリ」と、スタディプラスが提供する同名の学習管理サービスの2つだ。同教諭は、自身の授業の中で長年にわたってIT活用に取り組んできた経験から、「ITを活用することで、自力で勉強を進めることができる」との手応えを感じていた。
IT活用の可能性を模索し続けてきた横山教諭は、ITを活用した受験勉強に、どのようなメリットを見いだしているのだろうか。同教諭は、スタディサプリを使って初めて音声で勉強する経験をした際、「『これは学習手段として使える』とあらためて実感した」と語る。同教諭は以前から、授業と予習の役割を一部逆転させる「反転授業」の実践において、自作の解説動画を活用してきた。
東京大学受験では自身が勉強する立場になり、動画教材のメリットを再認識した。「確かに紙の教科書や参考書を読む方が、目に入る知識量は多い」と横山教諭は認める。ただし同教諭は現役の教員であり、受験勉強に費やせる時間が限られていたので「読むことばかりに時間が取れるわけではなかった」。動画教材であれば、通勤時間に動画を見たり、歩きながら動画の音声だけを聞いて勉強したりできるため「助かった」と同教諭は語る。
横山教諭は「動画を1度聞いただけで理解できるとは考えていない」と強調。最初から何度も繰り返し聞くつもりで、スタディサプリを利用していたと説明する。もちろんスタディサプリの動画だけで、受験勉強が完結するわけではない。同教諭は時間が取れるときは紙の教科書を読んだり、過去問題を解いたりしていた。
オンライン動画学習サービスのメリットは、「いつでもどこでも、分からない部分を繰り返し何度も聞くことができる」という一言に尽きるだろう。これは教員と学習者が対面で学ぶ、生の一斉授業では得にくいメリットだ。スタディサプリのように、サービスによっては学習者の習熟度に合わせた教材を提供できる。横山教諭は「単純に参考書と比較しても、生徒によっては、動画教材で動きのある説明を聞けることはメリットになり、理解につながるという手応えを感じている」と語る。
日々の授業にもITを活用
スタディサプリのようなオンライン動画学習サービスの充実もあり、動画教材の選択肢が充実してくると、日々の授業の在り方が変わってくる可能性がある。実際に教育機関の間で、個別学習や家庭学習の教材として、スタディサプリをはじめとするオンライン動画学習サービスを導入する動きが広がりつつある。横山教諭が在籍する関東第一高校も、2018年度にスタディサプリを導入した。
今まで自ら解説動画を作り、それを反転授業に使用していた横山教諭。2018年度からは動画の自作をやめて、スタディサプリの動画を使用するようにした。「今はまだ試しながら授業で使用している段階」だと前置きしつつ、それでも「自分で動画を作成する時間が減った分、時間的な余裕も生まれ、生徒の個別対応に使える時間が増えている」と手応えを語る。
横山教諭の授業では、生徒は予習時にスタディサプリにあるベーシックレベルの動画を視聴し、授業中は同サービスのスタンダードレベルの問題を解いて、皆でその問題の解説動画を見る。同教諭が解説動画に対して補足説明を付け加えた後、生徒は2人一組のペアワークで演習問題を解いたり、一人では勉強しづらい記述問題に取り組んだりする。
スタディサプリの動画を授業で使うようになって「全体の学習進度が、今までの倍の早さになったと感じる」と、横山教諭は話す。授業準備の負担減にもつながり、新しい試みにも積極的に挑戦できるようになった。その代表例が、記述問題に取り組む生徒の支援だ。
記述問題はその内容によっては、生徒が一人で問題集の解答や参考書の解説を見ても、自分の答案が正解なのかどうかが判断しにくい場合がある。こうした問題に取り組む生徒に対して「授業中に時間をかけて見てあげたいと思いながら、なかなか実現できずにいた」と横山教諭は明かす。今は時間に余裕を持って授業ができるようになり、こうした生徒の支援をしたり、より発展的な演習問題を解いてもらったりする時間が生まれた。
横山教諭は、スタディサプリの動画を授業中に見ることで「教員が生徒目線になれるのも良い」と語る。通常の授業では「教員は教える人」「学習者は教わる人」という関係性ができてしまいがちだ。学習者と一緒に動画を見ることで、教員は一人の立場として発言できるようになると、同教諭は指摘する。「『動画の先生はこう話しているけれど、自分はこう思う』『自分だったらこう説明する』といった具合に、授業中に2つの視点で話ができるのも良い」
スタディサプリやスタディプラスなど活用中のIT製品/サービスに対して、現時点では特に大きな不満はないと、横山教諭は説明する。これはスタディサプリをはじめとする単体の製品/サービスが、同教諭のあらゆるニーズを満たしている、という意味ではない。根底にあるのは「足りない点に目を向けるのではなく、なかったら補うという発想」だ。例えば地図や歴史上の出来事といった暗記ものは、スタディサプリだけではなく、他の専用アプリケーションを併用した方がより効率的に学習できる。
既存の授業スタイルや価値観に縛られず、教員が柔軟な発想を持つことで、ITの新たな利用価値を見つけ出すことができる。
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関東第一高等学校・横山北斗教諭の挑戦
学校の授業にITは役立つのか。もし役立つとすれば、ITは授業や教員にどのような影響をもたらすのか。ITを活用した受験勉強で東京大学に合格した現役教員の話から、ITの可能性と、IT時代の授業の在り方を考える。
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