「うちのバックアップは完璧です」という企業がはまるワナ【第1回】
「取っているだけ」のバックアップに意味はあるか
バックアップを考えない企業はないだろう。だが、いざというときに「バックアップから戻せなかった」という話も聞く。そのバックアップは本当に役に立つのだろうか?
機械学習などのAI(人工知能)関連技術やビッグデータ解析技術の急速な発展により、データの価値がこれまで以上に高まっている。そんな中、システム構築の際にバックアップを考えない企業はないだろう。「失われたらそれっきり」とならないために、規模の大小はあっても何かしら仕組みを持っているはずだ。バックアップの意味は、障害時にそこからデータを戻せることにある。だが「いざという場合にバックアップから戻せなかった」といった話を聞く。なぜこうしたトラブルが発生するのだろうか。
本稿ではバックアップで発生した失敗事例を基に、バックアップ取得時に発生する課題について解説する。基本的な内容も含んでいるので、バックアップに関する経験が少ない担当者も参考にしてほしい。
「データがあればそれでいい」という誤解
データのバックアップといっても、単にファイルシステムに格納されているデータファイルのコピーを取っておけばよい、という単純なものばかりではない。アプリケーションの動作を考慮しておかないとバックアップデータの不整合が発生することがある。それはどういうことなのか。
典型的な例としてはデータベースのトランザクション処理がある。在庫や資金の移動など、総数は一定のまま、一方を減らし、他方を増やす、といった操作になる。本来は操作を開始する前か完了した後のいずれかのタイミングでバックアップを取るべきだが、処理の中途半端なタイミングで取ってしまうと問題が発生する。仮に一方を減らしただけで、他方を増やしていない状態を保存したとしよう。そのバックアップをリストアした場合、バックアップ前に比べて総数が変化することになり、正しい状態に戻せない可能性がある。この問題を防ぐためには適切なタイミングで「データの静止点」を作らなければならない。データの静止点を作成するのはアプリケーションの役目だ。
整合性の取れた正しいデータをバックアップできるかどうかは、アプリケーションの処理と連携を取らない限り保証できない。特に複数のシステム稼働が当然とされる現在では、システム間のデータ不整合は致命的だ。そのためにはアプリケーションの動作を含めた“正しい”バックアップの設計が重要になる。
トランザクション処理に限らず「バックアップを取得すべきタイミング」を決めるのは基本的なことだ。だが「データのコピーを保存しておけばいい」と安易に考えていると「データはあるのにリストアできない」「リストアしたのにデータが正しくない」という事態を起こす可能性がある。
「いつでも戻せる」という過信がもたらす悲劇
バックアップに求められる役割が変わってきている点にも注意が必要だ。
これまでバックアップは機器故障や災害など、ストレージシステムが物理的にダメージを受けることを想定して「いざというときの備え」だと考えられてきた。現在では「ハードウェアは無事だがデータだけが破壊される」という事例をよく聞く。
国内でも被害事例が報告されている「ランサムウェア」による攻撃が典型例だ。ランサムウェアは身代金要求型のマルウェアで、さまざまな攻撃手法を持つ。その中でもデータを攻撃対象とした場合の特徴的な動作が、感染したシステムのストレージ内にあるデータを片っ端から暗号化してしまい、復号キーが欲しければ“身代金”を払うよう要求するというものだ。
「ビットコイン」などの匿名性の高い支払い手段が実用化されたことで、ランサムウェアの被害が急速に拡大した。被害を受けたユーザーからすると、身代金を払うまでシステムが一切利用できなくなり、業務も止まってしまう。ユーザーは、身代金支払いに応じるか、自力でデータを回復するか、決断を迫られることになる。
ランサムウェアの面倒な点は、データを復旧するだけでは済まないことがある点だ。ランサムウェアがデータを勝手に暗号化してしまうケースがあり、その場合データだけをリストアしても、マルウェアを完全に除去しない限り、再びデータが暗号化されてしまう。データの回復に加え、システム側も正常状態に復旧させる仕組みが必要となる。
個別最適化したバックアップがトラブルを招く
最後に運用に関する点だ。
企業のシステム環境が、完全に統一のルールにのっとって構築・運用されており、全てのアプリケーションが同じ手順でバックアップを取得できる状態は理想的だが、そうした環境は現実には期待できない。通常は、企業の歴史的ないきさつなどを反映して、バラバラなシステムやアプリケーションが混在することが少なくない。
一例を挙げよう。ある企業は基幹システムのバックアップには、データベース管理システム(DBMS)にバックアップのコマンドを入力し、出力されたファイルをバックアップサーバに移動する仕組みを使っている。一方で営業情報を管理するシステムのバックアップには、専用のAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を実行して、データをクラウドストレージに複製する仕組みを使っている――といった具合だ。
このように単にバックアップを取るといっても、システムごとに異なる方法でそれぞれ作業を実行している、というケースは少なくない。「バックアップのリストア手順が分からない」「最新のデータがどのバックアップなのか分からない」といったトラブルは、根本的にはこうした環境の複雑さに起因しているといえる。
複雑なバックアップ環境をそのまま放置しておけば、運用管理を担う部門の負担は大きくなり、人為的なミスが生じる可能性も高まってしまう。バックアップをどのように取得するかという課題と併せて、複雑化するバックアップをどのように管理するかが重要だ。
運用や管理がシンプルに実施できる仕組みが必要
バックアップの本質は「万一のデータ破壊に備えてデータのコピーを保存しておく」ことだといえる。要件としてはシンプルだが、本当にシンプルなら問題は発生しにくいはずだ。バックアップとリストアに関するトラブルの話をいろいろ見聞きするのは、それが「言うほど簡単な話ではない」ことを表している。バックアップとリストアの何が難しいのかを明確にしておき、どうしたらシンプルにできるかを検討すべきだろう。
次回はバックアップとリストアに関する課題への対策について、著名なベンダーに聞いたリアルな事例を含めて紹介する。
取材協力:渡邉利和
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「うちのバックアップは完璧です」という企業がはまるワナ
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
4
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
5
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
-
6
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
7
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
8
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
9
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
10
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー