ストレージの新旧交代劇【前編】
HDDがストレージ市場から“消え去る”とは言い切れない、これだけの理由
SSDへの置き換えが徐々に進み、HDD全体の市場は縮小傾向にある。ただし、HDDが市場から消え去るわけではなく、新たな役割にシフトしている。HDDはこれからどう使われるのだろうか。
HDDからフラッシュストレージへの切り替えが進んだのは、おおよそ2017~2018年の間だろう。フラッシュストレージの高速性を生かして「データ圧縮」や「重複排除」を併用した論理容量という比較条件になるが、この当時におけるフラッシュストレージの容量当たり単価はHDDと同等、もしくは若干下回る程度までになっていた。企業が積極的にHDDを選ぶ理由が少なくなったのだ。このインパクトは大きく、このタイミングで市場では急速にストレージの新旧交代が進んだといえる。
この「逆転劇」ともいえる新旧交代は、フラッシュストレージ側に視点を置いて「どうやってHDDを追い越したか」という文脈で語られることが一般的だ。これをHDD側から見るとどうなるのか。そしてHDDは今後どこに活路を見いだしていくのだろうか。
本稿では、2019年初頭時点でのHDDの将来展望について紹介する。
HDDは今、どのような状態なのか
1956年にIBMが発表した世界初のHDD搭載コンピュータ「IBM 305 RAMAC」を皮切りに、コンピュータの外部記憶装置として重要な役割を担うことになったHDD。その後もさまざまなメーカーが市場に参入したものの、HDDを開発する企業はM&A(合併・買収)などによる事業統廃合で徐々に集約されていった。これは「価格低下の圧力がある中で事業として成立させるためには、十分な出荷数を確保できる企業規模が必要」という市場原理によるものだ。さらにフラッシュストレージの登場によって、HDDメーカーの事業環境は厳しさを増していった。
現在、主要なHDDメーカーはグローバルで3社しか残っていない。日本の東芝デバイス&ストレージ(以下、東芝デバイス)、Western Digital(以下、WD)、Seagate Technology(以下、Seagate)だ。中でも東芝デバイスの親会社である東芝は、1984年に世界初のNAND型フラッシュメモリの開発に成功。いち早く実用化を果たしフラッシュ時代の開拓者となった。その後の経営環境の変化などを受け、東芝の半導体事業は東芝メモリとして独立した。その影響もあってか、WD、Seagateいずれも製品ラインアップにSSDを加えているのに対し、東芝デバイスはストレージ製品としてHDDのみを供給するという立ち位置になっている。
HDD市場の変化
調査会社テクノシステムリサーチの資料に基づいて市場動向を見てみると、HDDの市場規模は右肩下がりという予測になっている(図1)。グラフで「2.5型」「3.5型」とあるのはPC向けのHDDで、こちらは台数ベースではまだ相応のボリュームを占める。ただし、もともと容量、価格共にエンタープライズ向けの製品には及ばないため、金額ベースで見た場合にはさほど大きなインパクトはない。
現在オールフラッシュストレージのベンダー各社が積極的に展開しているエンタープライズ市場も、台数、金額、出荷容量のいずれの指標で見ても市場は縮小しつつある(図2)。少なくとも、エンタープライズストレージ市場においてはHDDからフラッシュストレージへの世代交代は完了しつつある。ではHDDの命運もこれで尽きたかというと、そうはなっていない。台数ベース、金額ベースで堅調に成長し、容量ベースで急激な成長が見込まれているニアライン(NL)市場が目を引く(図2、3)。
「ニアライン」に商機を見いだすHDD
ニアラインという言葉に明確な定義はないが、「オンライン」と「オフライン」の中間、と捉えてもらえばよい。アプリケーションやデータベースが直接利用するストレージを「オンラインストレージ」、テープアーカイブなど読み書きの発生頻度が低いストレージを「オフラインストレージ」と位置付けた上で、その中間に位置する比較的安価で容量指向のストレージを「ニアラインストレージ」と呼ぶのが一般的だ。オンサイトのHDDバックアップやアクセス頻度のあまり高くないファイルサーバ用途などが該当するだろう。
HDD全盛時代には、オンラインストレージとしてファイバーチャネル(FC)接続のSAS(Serial Attached SCSI)接続型HDDが使われ、SATA(Serial ATA)接続型HDDが「ニアラインストレージ向け」と位置付けられていた。それが現在では、SAS/SATA接続型フラッシュストレージであるSSDやNVMe(Non-Volatile Memory Express)に準拠したフラッシュストレージがオンラインストレージ用途で選ばれるようになり、HDDは結果的にニアライン向けストレージになっていると考えられる。HDDはオンラインストレージ用途ではフラッシュストレージに席を譲ったものの、容量単価が安価である点を生かし、ニアラインストレージ向けとしてフラッシュストレージを補完する役割を見いだしているのが現状だろう。
進化の継続
HDDとフラッシュストレージは全く構造が異なるため、同じ目標を目指すにしても、実現のためのアプローチもその技術的難易度も、全く違ったものになる。HDDもフラッシュも、どちらもストレージに使われる「記憶装置」という点では共通しており、求められる特性は「アクセス速度」と「記録密度」の2つに集約される。その上で、普遍的な製品特性としての「コスト」を考慮することになる。
磁気記録を中核技術とするHDDの場合、構成要素は「磁性体」と「磁気ヘッド」の2つに大別できる。抽象化して考えれば磁気テープもHDDも基本的には同じだ。基材の上に磁性体を塗布して保持し、その磁気をヘッドで読み書きする構造となっている。
HDDの場合、「プラッタ」という円盤状の基材の上に磁性体を塗布してあり、磁気ヘッドは円盤の中心近くから外周近くまでの範囲を移動し、基材上に同心円状に作られているトラックを選択してデータを読み書きする。そのため記録密度を高めるには、磁性体の記録密度の向上に加え、基材の回転の安定化やヘッドの位置制御の精緻化といった物理的な制御技術の向上も必要になる。フラッシュストレージの場合は、基本的には半導体チップの加工技術の精密化が大容量化の鍵になる。
後編ではHDDの記録密度を高める具体的な手段として、各社が実装を進める「MAMR」「HAMR」という2つの技術を説明し、HDDがストレージ市場でどう生き残るのかを探る。
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ストレージの新旧交代劇
企業向けのストレージとして長らく主役だったHDDは、その立場をSSDに譲ろうとしている。だがHDDが市場から消えるとは言い切れない。技術的な進化の方向性や、HDDが依然必要とされる市場を読み解く。
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