「UiPath」「WinActor」を選んだ理由は
RPAで残業を1人6時間減らしたテンプスタッフが語る「RPAの落とし穴」
パーソルテンプスタッフは、事務に関連する単純な業務をRPAソフトウェアで処理している。同社がRPAソフトウェアの導入で直面した課題と、「UiPath」と「WinActor」を選んだ理由を説明する。
人材派遣業のパーソルテンプスタッフ(以下、テンプスタッフ)は2017年に「RPA推進室」を新設し、「RPA」(ロボティックプロセスオートメーション)ソフトウェアを使った業務効率化に取り組んでいる。2019年6月開催のイベント「RPA DIGITAL WORLD TOKYO 2019」で、同室の室長を務める矢頭 慎太郎氏が登壇。RPAソフトウェアをスムーズに導入するために取り組んだことと導入の効果、同氏が「大きな勘違いをしていた」と語る導入時の反省について語った。
RPAの導入前に、増え続ける業務を切り分け
テンプスタッフがRPAソフトウェアの導入プロジェクトに取り組んだきっかけは「働き方改革関連法」(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)に関連する2つの課題だ。一つは、2013年施行の改正労働契約法が、2018年までに派遣スタッフの雇用形態や契約期間などの契約についての見直しを迫る「2018年問題」。もう一つは2020年施行の改正労働者派遣法が盛り込む、同一労働同一賃金の原則だ。
こうした課題に対処するには、事務処理の方法を変えたり、派遣スタッフの勤続年数や雇用形態などの条件に応じて追加の手続きをしたりする必要があり、業務が増加することは確実だった。2019年4月から順次施行している労働基準法や労働安全衛生法などの改正法を順守するため、従業員の残業時間の上限規制や有給休暇取得の義務化といった制度対応も必要だった。
従来は業務量の増加に合わせて増員したり人材を再配置したりして対処していたが、テンプスタッフは事業拡大への投資も必要としていた。矢頭氏は「人手への依存から脱却しつつ、増える業務を処理するのに有効な方法の一つが、業務の自動化だった」と話す。
RPAソフトウェアを導入する前に、テンプスタッフは業務プロセスを棚卸しして、自社の業務をコア業務とノンコア業務に切り分けた。例えば営業や接客、高度な事務作業はコア業務、単純な事務作業はノンコア業務と定義した。事務を専門に担当する部署を新設して同部署にノンコア業務を集約し、コア業務に関わる担当者が本来の職務に集中できるよう環境を整えた。その上で、事務担当の部署にRPAソフトウェアを導入し、ノンコア業務の効率化を図った。
各業務プロセスに沿ったRPAソフトウェアの設定は、既存の業務フローを見直し、より効率的になるよう再設計する「BPR」(ビジネスプロセスリエンジニアリング)と合わせて実施した。RPA推進室はRPAソフトウェアを利用する部署と協力して非効率的な業務フローを見直し、再設計した(図1)。
「現場を巻き込んで導入プロジェクトを進めることで、スムーズにRPAソフトウェアを運用できるようになる」という矢頭氏の考えの下、テンプスタッフはRPAソフトウェアの利用部署の協力を得ながら、RPAソフトウェアの導入から、自動化する業務の選定、要件定義、運用保守までの一連の作業を進めた。同氏はRPAソフトウェアが利用部署にもたらした影響として属人化の解消を挙げ「それまでは社内業務を個々人の感覚や工夫で進める傾向があったが、導入の過程で業務プロセスの標準化が進んだ」と語る。
RPAソフトウェア導入当初には“勘違い”による課題も
矢頭氏は導入当初の反省点を2点挙げる。1つ目は業務プロセスの見直しで生じた「全ての事務作業をソフトウェアロボットで自動化できる」という勘違いだ。実際には、複雑な業務を処理するソフトウェアロボットの開発は時間がかかる。完成したソフトウェアロボットの仕組みが複雑で、保守や管理が難しくなる問題もあった。
2つ目は仕様書や設計を記録していなかったことだ。記録がないことで引き継ぎが大変になったり、システムトラブルが起きたときにユーザーが自部署内で解決しづらくなったりしたという。
現在はRPAソフトウェアで自動化の対象となる業務を作業ごとに切り分け、保守や管理が容易で単純な構造のソフトウェアロボットを作成するようにしている。ソフトウェアロボットの設計時に、その仕様を記録するといった取り組みも進めている。
2つのRPAソフトウェアを運用
テンプスタッフが導入したRPAソフトウェアは、RPAベンダーUiPathの同名ソフトウェアと、NTTアドバンステクノロジの「WinActor」だ。
UiPathは複雑な手順でも自動化できることと、ロボットに追加できる機能の豊富さに強みを持つ。契約書の締結作業など、契約管理に関わる比較的複雑な業務が主な用途だ。矢頭氏はUiPathの選定理由として、業務で利用するシステムとの連携性を挙げる。製品候補の選定時の検証で、他製品で開発したソフトウェアロボットではうまく連携できなかったシステムでも、UiPathであれば問題なく連携できたことが決め手だったという。
WinActorは国産のツールのため、ユーザーインタフェース(UI)やマニュアル類を全て日本語で確認できることと、直感的に使用できるUIで自動化シナリオを開発できることが特徴だ。テンプスタッフはWinActorを主に単純作業に利用しており、同社のRPA技術者が管理している。WinActorの利点は、事務作業ができるレベルのPCスキルがあれば、プログラミング経験なしでも開発と保守ができるほど操作が簡便なことだ。開発と保守を内製化できるため、トータルコストを抑えて早く活用できる点がメリットだという。
双方の弱みをそれぞれの強みで補完
UiPathはバージョン2018.3から日本語化されているが、UIの日本語訳が分かりづらかったり、一部マニュアルが日本語化されていなかったりすることが課題だ。多機能で、複雑な仕組みのソフトウェアロボットを作成できる半面、構築の難易度も高くなる傾向がある。そのためテンプスタッフは、システム開発やアウトソーシングを手掛けるグループ会社のパーソルプロセス&テクノロジーに運用管理を委託している。
WinActorはGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)を利用してソフトウェアロボットを構築できるが、プログラミング言語を使った高度な開発はできないため、ロボットに複雑な動作をさせることは難しい。矢頭氏は「それぞれのツールの持つデメリットを、双方のメリットで補完し合いながら運用しているため、現在の運用体制で問題はない」と話す。
残業時間を削減、従業員の「RPA人材」化につなげる取り組みも
こうしてソフトウェアロボットによる業務代行が社内に浸透したことで、残業時間の削減効果も見られたという。RPAソフトウェア導入前の2016年12月は社内の従業員1人当たりの平均残業時間が22.1時間だったのに対し、導入後の2018年12月には15.7時間となり、6.4時間短縮した。RPAソフトウェア導入のために業務フローを再構築する過程で、業務の可視化を通じて無駄の発見が進み、従業員が自発的に業務を改善するといった意識の変化も見られたという。
テンプスタッフは、従来ノンコア業務を担当していた派遣社員を中心に、WinActorを利用したRPA開発研修を実施したり、社内資格制度を導入したりするなど、スタッフがRPA人材としてのスキルを習得するための取り組みも始めている。RPAソフトウェアを導入する際は場当たり的にソフトウェアロボットを作成するのではなく、業務の見直しや切り分けとセットで進めることが、成功への鍵のようだ。
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