クラウドサービスのトラフィック最適化【第2回】
Office 365やG Suiteの「遅い」「つながらない」を招くネットワーク4大問題
SaaSは業務効率の向上につながるツールを簡単に導入できる利点がありますが、従来のネットワーク構成で利用すると業務効率を低下させてしまう場合もあります。どのような問題に対処しなければならないのでしょうか。
SaaS(Software as a Service)形式の業務アプリケーションを利用する際、ネットワークのトラフィック特性に関して注意すべき点は少なくありません。社内のクライアントPC1台当たりのセッション(通信の開始から終わりまでの接続単位)数が非常に多くなる点はその一つです。「Office 365」や「G Suite」のようなオフィススイートのSaaSは、Webページの閲覧を中心とした一般的なインターネットの利用とは比較にならないほど多くのセッションが発生します。クライアントPC1台当たり20~30セッション、多ければ100セッション以上になります。
Web会議のようなリアルタイム性のある通信を必要とするアプリケーションであれば、ネットワークのレイテンシ(遅延)にも目を向ける必要があります。SaaSベンダーのサーバから、ユーザー企業の従業員が使うクライアントPCまでのレイテンシが一定の範囲内に収まらないと、正常に動作しないことが少なくないからです。
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SaaSベンダーが、自社SaaSのインターネット内での場所を指す「IPアドレス」を変更する場合があることにも注意する必要があります。ルーターやファイアウォールなどのネットワーク機器がIPアドレスの変更に追従しなければ、SaaSと通信できなくなる場合があるからです。
従業員がSaaSを利用する際、WebブラウザのアドレスバーにSaaSのURLを入力します。このときのURLは一般的に「ドメイン名」と呼ばれる、人が理解しやすい文字列で構成されています。ただしネットワーク機器は、通常はコンピュータが理解しやすい数字列のIPアドレスで通信を制御します。その場合、SaaSのIPアドレスが変わると適切な制御ができなくなるため、ネットワーク機器は接続先のIPアドレスを定期的にチェックする必要があります。
ドメイン名はベンダー名やサービス名が含まれることが珍しくなく、ブランディングや認知の観点から固定化されやすい傾向があります。ドメイン名はIPアドレスと対応しますが、ドメイン名はIPアドレスと比べると変更はそれほど頻繁ではありません。ただしSaaSの機能追加や廃止に伴って、ドメイン名そのものの増減や変更が起こる可能性があることに注意が必要です。
このようにSaaS利用時には従来とは異なるさまざまな点を考慮に入れなければならないのです。
SaaS導入で発生するネットワークの4つの問題
ネットワークに潜む以下の4つの問題を放置したままでSaaS導入に踏み切った場合、SaaSを快適に利用できなくなる可能性が高くなります(図)。
問題1:ネットワーク帯域幅の不足
SaaS導入の際は、必要になるネットワークの通信路容量(帯域幅)を考慮に入れなければなりません。例えばメールではクライアントPC1台当たり10kbps弱、Web会議で同100kbps弱のデータ伝送速度を維持できるだけの帯域幅を確保する必要があります。クライアントPCの台数が多くなれば、それだけ必要な帯域幅は大きくなります。インターネットを使うにしても、専用線を使うにしても、十分な帯域幅を確保することなくSaaSを導入すれば、SaaSを快適に利用できなくなる可能性があります。
拠点間の会議にWeb会議のSaaSを利用する場合は、拠点と自社のデータセンターを接続するWANに大容量のトラフィックが流れることになるため、契約しているWANの帯域幅が不足する可能性があります。その場合はWeb会議の画質や音質が劣化するだけでなく、その他の業務アプリケーションの動作が遅くなってしまう懸念があります。
問題2:利用可能なセッション数の不足
Office 365やG SuiteといったオフィススイートのSaaSの特徴は、多くの従業員が同時に利用する可能性があることです。こうしたSaaSに接続するクライアントPCの台数に応じて、ユーザー企業は拠点ごとのルーターに必要な数のポート(同時進行する複数の通信を区別するための番号)を確保できるようにする必要があります。十分なセッション数を確保するためです。
ルーターはインターネット側に対して1つ以上の「グローバルIPアドレス」(世界で一意のIPアドレス)を持ちます。1つのグローバルIPアドレスで利用可能なTCPのポート数は約6万5000個あり、1個のポートにつき、ルーターの内側にあるクライアントPCからインターネットへのセッションを1つ確立できます。クライアントPC1台当たり同時に30セッションを確立する(30ポートを利用する)と仮定した場合、正常にSaaSと接続できるクライアントPCの上限は約2000台になる計算です。利用可能なTCPのポートが枯渇すると、ネットワークの帯域幅が十分にあったとしてもSaaSへの接続が阻害され、アプリケーションが正常に動作しなくなります。
プロキシサーバやファイアウォールなどのネットワークセキュリティ機器が処理可能な同時セッション数にも気を配る必要があります。ネットワークに十分な帯域幅がありグローバルIPアドレスが十分あっても、プロキシサーバやファイアウォールの処理能力がボトルネックになり、SaaSとの通信が阻害されることが多くあります。
問題3:UDPの利用制限
Web会議をはじめ、映像や音声によるコミュニケーション手段を提供するSaaSは、通信のリアルタイム性を必要とします。そのため通信プロトコルとしてTCPの代わりにUDP(User Datagram Protocol)を使用することが一般的です。UDPは通信先との接続確認なしでデータ伝送する通信プロトコルです。通信の信頼性は低下する半面、データ伝送速度は高速化する利点があります。ただし従来の企業ネットワークはインターネットとの通信にTCPによる通信のみを許可し、UDPによる通信を許可していないことがある点に注意が必要です。この場合はWeb会議などのUDPを使用するSaaSは利用できなかったり、十分な性能が出なかったりする場合があります。
問題4:通信の過剰な遅延
各拠点からインターネットに接続する際、VPN(仮想プライベートネットワーク)で会社のデータセンターを経由して接続した場合、クライアントPCとSaaS間の通信における遅延が大きくなる懸念があります。
過剰な遅延が発生した場合、SaaSによっては快適に利用できないだけでなく、正常に動作しなくなる可能性があります。こうしたSaaSに該当するのは、Web会議のようなリアルタイム性が求められるコミュニケーションサービスです。
トラフィック最適化に向けて
SaaS導入で生じる可能性のあるネットワークの問題は、ここまでに紹介した4つの代表的な問題ばかりではありません。
ネットワークの通信速度を向上させるために帯域幅を増強する、つまり専用線などのネットワークを増設するような対策を講じる場合には運用管理面での問題にも目を向ける必要があります。ルーターなど従来のネットワーク機器を使って、SaaSのトラフィックを制御しようとすれば、運用負荷は当然のことながら高まります。既に説明したようにSaaSは接続先のIPアドレスが変わる場合があるため、その度にルーティングの設定を更新する必要があるからです。
ネットワークに問題が発生すると、SaaSの機能を十分に使用できない状況に陥る点を認識しておくべきです。スケジュール表を開くだけでも数分を要したり、Web会議で映像が乱れて音声しか利用できなかったりすれば、従業員は不満を抱くことになるでしょう。当初は生産性向上につながる業務アプリケーションを整備することがSaaS導入の目的だったはずなのに、反対に業務効率が低下してしまう恐れがあるのです。ネットワークの問題が多発すれば、ネットワーク担当者の運用管理の負荷が高まることも避けられません。
SaaSを利用する際に直面するネットワークの問題に対処するために、企業向けのさまざまな製品やサービスが提供されています。第3回以降は、こうした製品やサービスにはどのようなものがあり、どのようなポイントで導入を検討すればよいのかを説明します。
執筆者紹介
石塚 健太郎(いしづか・けんたろう) A10ネットワークス ソリューションアーキテクト/博士(情報学)
マルチクラウドやクラウドサービスの活用につながる製品の開発・提案を担当。ネットワーク最適化の知見を国内企業に展開している。
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クラウドサービスのトラフィック最適化
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