“脱Excel”か“活Excel”か
無理やり「Excelツールをチームで共同利用」するよりも、試すべき「Office 365」
Microsoft Excelで作成した社内ツールは、リアルタイムに複数人が同時編集することは困難な場合があります。マルチデバイスで共同編集できるツールを作るなら「Office 365」を検討する必要に迫られるでしょう。
Microsoftの「Office 365」は2011年6月に登場したサブスクリプション方式のオフィススイートです。サブスクリプションは予約購買という意味の英語で、商品の所有権を買い取る一般的な売り買いではなく、一定期間その商品を利用するための権利を買うことを指します。
一般的な買い切り型のIT製品の場合、ベンダーは定期的に製品のメジャーアップデートを実施し、買い替え需要を喚起して売り上げを上げる必要に迫られます。一方でサブスクリプション方式は、十分な市場シェアを獲得できているならば毎月の継続的な売り上げが見込めるため、企業の経営的な観点から見ても魅力的な販売方式です。
実際「Adobe Photoshop」「Adobe Illustrator」などのクリエイター向け製品を販売するAdobeは、2011年(国内では2012年)にサブスクリプション方式の「Adobe Creative Cloud」を提供開始しました。現在のAdobe製品の販売方式は、サブスクリプション方式の方が主流となっています。このようなメリットがあるためMicrosoftもサブスクリプション方式への移行を促進したいと考えているのでしょう。
ほとんどの企業は「Microsoft Word」や「Microsoft Excel」「Microsoft PowerPoint」といったOfficeアプリケーション以外にも、メールや社内ポータルといったシステムを使用します。そのためOffice 365の提供プランの中には「Exchange Online」(メール、予定表、アドレス帳などの機能が利用できるサービス)や「SharePoint Online」(ポータルサイト作成やドキュメントの共有、リストと呼ばれる簡易的なデータベース作成などの機能が利用できるサービス)が利用できるプランがあり、単なるOfficeアプリケーションのサブスクリプション販売にとどまらない付加価値を付けています。
Excelでは実現困難だったツールが作れる、Microsoftのクラウドアプリケーション
さらに最近のOffice 365には、オンプレミス版「Microsoft SharePoint」である「SharePoint Server」との連携も可能なアプリケーションが充実しています。代表的なものは下記です。
- Microsoft Forms
- 簡易なアンケート、クイズ、投票などの作成が可能なWebフォームを作成できるアプリケーション
- Microsoft PowerApps
- Excelの関数とよく似た構造の関数を使用して、PC、タブレット、スマートフォン用のビジネスアプリケーションを作成できるアプリケーション
- Power Automate(旧Microsoft Flow)
- FormsやPowerAppsなどで作成したアプリケーション、SharePoint、サードパーティーアプリケーションなどと連携し、ビジネスタスクを自動化するアプリケーション
この他にもMicrosoftはさまざまなアプリケーションを提供していますが、上記3つのアプリケーションは、Excelでは実現が困難なツールを作成できる点で、活用しがいがあります。ではExcelで実現が困難なツールとはどのようなものでしょうか。それは多人数が同時に利用でき、多様なデバイスで稼働するツールです。
基本的にExcelは、PCで個人が使用することを前提としたソフトウェアです。とはいえ複数の人が共同で編集する機能もあります。「Excel 2013」までは「共有ブック」という機能があり、共用のネットワークフォルダに編集したいExcelファイルを格納した上で設定することで、複数ユーザーによる共同編集が可能でした。「Excel 2016」以降は「共同編集」という機能が登場しました。基本的にはOffice 365のサブスクリプションを購入しているユーザー向けの機能で、共有ファイルの保存先はSharePoint Onlineのライブラリか、ファイル共有サービス「OneDrive」に限定されます。Office 365ユーザーでなくても、複数人でブックを共有する機能は無料のWebブラウザ版Excel(Excel Online)で使えますが、PCにインストールして使用する通常のExcelとは操作や機能が異なります。例えばExcel Onlineでも関数やマクロを利用することはできますが、「Power Pivot」などの比較的高度なデータ分析機能や、パスワードを利用した暗号化機能は利用できません。
複数人で共同利用するツールを作成可能に
つまり個人でPC版を使う以外の使用方法では、Officeアプリケーションの機能は相当に制限されることになります。言い方を変えると、Webアプリケーションのような多人数利用で、かつさまざまなデバイスで利用可能なツールをExcelで作るのは困難だということになります。
前述のForms、PowerApps、Power Automateは、「多人数が同時に利用でき、多様なデバイスで稼働するツール」という、Excelでは作成困難なツールをIT技術者でなくとも容易に作成可能にするアプリケーションなのです。
Forms、PowerAppsで実現できること
Formsは、テキストボックス、ラジオボタン、コンボボックスといった基本的なWebフォームを作成する機能を備えています。Formsに入力された情報はExcel形式でダウンロードすることで、簡単に集計できます。Power Automateと共に使用することで、上司の承認を得るといった使い方も可能です。
一方でFormsはタブによる入力画面の切り替えや、Webフォームから次のWebフォームに画面を遷移させる機能は実装されていません。入力チェックの方法も「入力必須か否か」以外のチェックはできません。従って、入力情報が非常に多く、かつ正確な入力が求められる業務には不向きであるといえます。システム内のデータを検索して表示するといったこともできません。口頭で済ませていた部門内の承認や、連携部門の少ない申請などに利用すべきでしょう。
一方でPowerAppsは、Formsでは実現できない機能を実装しています。タブによる入力画面の切り替えやフォームの画面遷移も可能であり、SharePointやデータベースと接続することで、システム内のデータを検索して表示し、それらの情報を編集することも可能です。画面はタブレットやスマートフォン用に最適化して作成でき、モバイルでの利用も容易です。このような機能からPowerAppsは、Formsよりはるかに複雑なアプリケーションを作成することが可能です。ただし、Excelに似せてあるとはいっても、PowerApps用の関数を習得する必要があるため、Formsほど簡易に作成できるわけではありません。
このようにForms、PowerAppsには、それぞれの特徴があり、使い分けが必要となります。
このコラムについて
ほとんどの企業が使っている表計算ソフト「Microsoft Excel」。便利なツールですが、本来の目的を超えて“使いこなし過ぎる”ことが、かえって業務効率を低下させてしまったり、業務の属人化につながってしまったりする場面があるのではないでしょうか。
このコラムでは、日常業務でよく見掛けるExcelの活用例を紹介しながら「こんな場面は脱Excelを考えた方がよい」「こういうExcelの活用法はお薦め」といった知見を紹介します。
村山 聡(むらやま・さとし)
1971年愛知県生まれ、名古屋大学経済学部卒、中小企業診断士。
IT企業在職中に、単一業種においてキャリアを積んでいくことに疑問を感じ、どんな業界、職種でも通用する知識を得るべく中小企業診断士を取得。複数社を経て、現在の勤め先にて、コンサルタントとして、データを活用した業務効率改善に取り組む。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
“脱Excel”か“活Excel”か
ほとんどの企業が使っている表計算ソフト「Microsoft Excel」(以下、Excel)。便利なツールですが、本来の目的を超えて“使いこなし過ぎる”ことが、かえって業務効率を低下させてしまったり、業務の属人化につながってしまったりする場面があるのではないでしょうか。 このコラムでは、日常業務でよく見掛けるExcelの活用例を紹介しながら「こんな場面は脱Excelを考えた方がよい」「こういうExcelの活用法はお薦め」といった知見を紹介していきます。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品レビュー
「電子帳簿保存法対応」実践術:タイムスタンプ付与などの要件の手軽な実現方法 -
事例
「大企業のデジタル化」成功事例集【コクヨ、九州電力、ヨネックスなど21社】 -
製品資料
“顧客管理の課題”を簡単に解決する方法とは? -
製品資料
契約管理の“あるある課題”をノーコード開発で解決するためのポイント -
製品資料
揺らぐ境界防御 いま企業が特に警戒すべき「3つのセキュリティ課題」とは?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
2
「技術屋」で終わらないために 情シスが今取るべき認定資格5選
-
3
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
4
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
5
継続利用は4割どまり M365 Copilotが「効く業務」と期待外れの境界
-
6
Oracle巨大ITプロジェクトはなぜつまずいたのか 8年で導入1割、追加で170億ドル
-
7
PCリプレース時には注意 不完全なデータ消去が情報漏えいのリスクに
-
8
「即戦力」は幻想? 中途の3割が消えるAI時代のエンジニア生存戦略
-
9
画面をティッシュで拭くのはNG Dellが推奨するPCの正しいお手入れ方法
-
10
「OSの選定・導入」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
2
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
-
3
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
4
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
7
「結局、一部の人しか使わない」 AI活用が業務に定着しない根本的な理由
-
8
AIエージェントで成果は出る? 調査結果に見る費用対効果の実態
-
9
PostgreSQLの「機能」「性能」「運用」「拡張性」に関する悩みの解消法
-
10
ゼロトラストにおける「IDaaSの課題」と補完すべき重要機能とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー