量子コンピューティングは実用化の局面
IBM Researchのギル氏が語る量子コンピュータの基礎理論と「IBM Q」の現在
CES 2020にIBM Researchのディレクターが登壇。量子コンピュータのプログラミング方法を学ぶ必要性を訴え、量子コンピュータの基礎理論やIBM Qの現状を解説した。
米ラスベガスで開催されたCES 2020に、IBM Researchでディレクターを務めるダリオ・ギル氏が登壇して量子コンピューティングの今後10年を探るプレゼンテーションを行った。同氏は「指数関数的」に複雑化する問題を解決するために量子コンピューティングをどのように使うべきかについて考え始めるよう、開発者に促した。
ギル氏によると、業界が過去50~60年の間に構築してきた情報技術体系は古典的情報理論として知られるもので、「0と1」を物理実装から切り離すものだという。「このように物理実装から切り離すことで、パンチカードもDNAも情報を伝達する手段となり得ることを理解できるようになる」と同氏は話す。この理論とムーアの法則が組み合わさることでビットが普遍的になり、ほぼ自由な存在になったというのがギル氏の見解だ。
だが、情報を理解する新たな方法が生まれていると同氏は話す。「情報世界のビルディングブロックはビット――つまり0と1ではなくなり、量子ビットに変わる」という。量子コンピューティングのバックボーンを形作るのは「重ね合わせ」「干渉」「もつれ」という3つの考え方だ。重ね合わせについて同氏は「1枚のコインが回転している状態に少し似ている」と説明する。つまり「表」でも「裏」でもなく、その2つの組み合わせになるという。「従来型コンピュータでは、2枚のコインを回転させると表になる確率と裏になる確率は独立している」
量子の世界におけるもつれという考え方は「1枚のコインが表のときもう1枚のコインが常に表であり、1枚のコインが裏のときもう1枚のコインが常に裏であるという状況が存在する」ことを意味する。つまり2枚のコインがもつれあっていて、それぞれの状態(表または裏)を個別に測定することはできない。ギル氏は次のように語る。「この特性は本質的に奇妙だが、物理的実体の性質を映し出している。そこに全宇宙における既知の局所作用を見ることができる」
もつれと情報の世界には関係があると同氏は話す。「完璧な量子ビットが100個あり、それがもつれた状態だとする。このもつれた状態を0と1で全て表そうとすると、そのデータの格納に地球上の全ての原子を充てなければならないだろう。280量子ビットを備える量子コンピュータは既知の宇宙の全原子を必要とするだろう」
量子コンピューティングの3つ目の特性が「干渉」だとして、ギル氏は次のように補足する。「この干渉は海洋波だと考えている。つまり相互に干渉する波だ。それぞれの波が組み合わさって山と谷を形成する」
0と1でプログラミングされる従来型コンピュータとは異なり、量子コンピュータのプログラミングにおける最初の仕事は、コンピュータを「重ね合わせ」状態にすることだとギル氏は話す。2量子ビットには2の二乗個、つまり4つの状態が存在する。これらの状態を球体上の点として表現すると、1を北極点、0を南極点と表すことができる。そして、赤道上の1点を使って0と1の両方の状態を表すことになるだろう。各点には、球体上の位置を正確に示す値が2つある。量子コンピュータに情報を入力するには、球体内で点が配置される場所を変更する必要がある。
理論上、量子コンピュータのプログラミングでは情報を保持する複数の球体を相互に干渉させ、正解を最大にし、不正解を最小に抑えることになる。「海洋波と同様、こうした干渉のプロセスで一連の可能性を探索し、必要な答えを求めることができる」とギル氏は語る。
量子が重要な理由
ギル氏によると、従来型コンピュータは簡単な問題を解くのには優れているという。つまり解を求める変数の数が指数関数的ではない場合だ。同氏は次のように話す。「変数の数は本質的に指数関数的だ。そのため解を求めるのが指数関数的に困難な問題が存在する。自然のモデル化などがその例だ。化学や物質をモデル化し、自然の振る舞いを理解するプロセスは指数関数的になる。物理世界の正確なモデルの実行は、従来型のコンピュータには複雑過ぎる」
ここ数年で、IBMの量子コンピュータ「IBM Q」にクラウドからアクセスできるようになった。ギル氏によると、20万人を超えるユーザーがオンラインプラットフォーム「IBM Q Experience」を使っているという。
IBMは、企業が量子コンピューティングを検証してアプリケーション分野を進化させるのを支援することを考えている。そのため、プログラマーが量子コンピュータのプログラミングを実験できるようにするソフトウェア開発キット(SDK)を開発している。「IBM Q System One」は、オープンソースソフトウェア開発ライブラリ「Qiskit」を使ったプログラミングを可能にする。
2019年初頭からIBM Qネットワークに協力している企業の一社にExxonMobilがある。
ExxonMobilで研究開発部門のバイスプレジデントを務めるビジャ・スワループ氏は、エネルギー業界のコンピューティングニーズが複雑化していることを理由に量子コンピューティングの必要性を説いている。
同社の目標は、量子コンピュータを使ってより正確なモデルとシミュレーションを構築できるようになることだとして、スワループ氏は次のように語る。「当社は最も基本的なレベル(原子のスケール)でエネルギーを理解したいと考えている。現時点ではそうしたモデリングは不可能だ。予測モデルはある。だが実際の正確性は分からない」
エネルギー分野で量子コンピュータを応用できる分野として考えられるのは「二酸化炭素回収」だ。二酸化炭素回収を実現するには、炭素を可能な限り効率的に回収できる新しい素材を開発する必要がある。量子コンピュータを使って素材の理論モデルの精度を上げれば、より優れた二酸化炭素回収素材の開発が可能になるかもしれない。
これを持続的にサポートするには、ある物質を別の物質に変換するリアクターでどのような化学反応が行われるかを理解する必要があると同氏は話す。「単なる予測モデルではなく正確なモデルを作成するには、何が起きているかを原子単位で理解する必要がある。これは大きな飛躍的進歩になるだろう」
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