2019年11月20日 08時00分 公開
特集/連載

量子コンピュータが古典コンピュータを必要とする理由量子コンピュータは君臨しない

量子超越性の証明により量子コンピュータの能力が再確認されたが、量子コンピュータの時代になっても古典コンピュータが駆逐されることはないだろう。それどころか量子コンピュータは古典コンピュータを必要とするという。

[Cliff Saran,Computer Weekly]

 2019年9月最後の週、多くのニュースが飛び交った。まずIBMが、53量子ビットをサポートする量子計算センターを開設したことを発表した。週末には、Financial Times(FT)がGoogleの新しい学術論文について報じた。その論文は、「量子超越性」(古典コンピュータアーキテクチャではほぼ不可能なアルゴリズムの実行が、量子コンピュータでは可能である状況を表す用語)をGoogleの研究者が達成した方法を論じている。FTによると、現時点で最先端の古典コンピュータ「Summit」が約1万年かかるとされる計算を、Googleの量子コンピュータが3分20秒で実行した方法が解説されているという(訳注)。

訳注:2019年10月23日にGoogleが正式発表

 そして同じ週、D-Wave Systemsもある計画を発表した。クラウドを介して同社の量子コンピュータ「Advantage」を使えるようにするという計画だ。Advantageはハードウェアとソフトウェアの新しいプラットフォームを強化し、量子コンピューティングアプリケーションの提供を高速かつ容易にする。

 同社で最高製品責任者を務めるアラン・バラッツ氏は次のように話す。「量子コンピューティングは、アプリケーションユーザーが実行できて初めて価値を持つ。当社はAdvantageによって、ビジネス上のメリットを提供するよう設計された初の量子コンピュータを構築している」

究極のアーキテクチャ

 IBMは、量子コンピュータが古典コンピュータの上に「君臨」することは決してなく、むしろこの2つは協調すると考える。というのも、それぞれに独自の強みがあるためだ。同社の構想は、ハイブリッドアーキテクチャでアルゴリズムを実行するというものだ。

 IBM Researchの所長、ダリオ・ギル氏は次のように語る。「量子が社会に良い影響を与えるために解決しなければならない課題は、広範囲にアクセスでき、真にプログラミング可能なコンピューティングシステムを構築し続けることだ。このシステムは、再生可能で信頼性が高い方法で、多岐にわたる量子アルゴリズムとプログラムを実装できなくてはならない。量子コンピュータで実用的なソリューションを実現する方法は、これ以外にはない」

 「それがあって初めて、量子システムと古典システムが協調して科学的発展を促したり、ビジネスの商用的価値を創り出したりする『Quantum advantage』の時代が到来する。現在さまざまな主張がなされているが、この目標はまだ実現していない」

 量子コンピュータは、基本的にはバイナリ(0と1、yesとno)の決定に依存する古典コンピュータアーキテクチャほどの精度を提供しない。

 IBMで量子ファイナンスと最適化担当のグローバルリーダーを務めるステファン・ウェルナー氏は次のように述べる。「古典コンピュータはバイナリ最適化によって相関する必要があるyesとnoの決定を多数行う。バイナリ変数を問題に追加するたびに、チェックの回数は2倍になる」

 実際のところ、複数の変数を持つ問題を解決しようとすると、これらの相関を実行するために必要な演算が急激に増加する。だが「問題によっては、量子化学と似た方法で定式化することもできる」とも同氏は付け加える。

 これは量子コンピューティングの領域だ。IBMなどの企業は量子力学、ゲノミクス、サプライチェーン最適化、金融リスクモデリングなどの分野に応用できるようにしている。

 ウェルナー氏によると、古典アプローチよりも量子コンピュータの方が有利だと証明されているアルゴリズムの例が、金融におけるモンテカルロシミュレーションだという。これは統計モデルに基づいて将来の物価動向をランダムに生成するもので、何百万回とシミュレーションを実行することで相場のシナリオを評価できるようになる。「リスクマトリクスを見積もることが可能だが、その見積もりを強化するにはデータのサンプルを2倍にしなければならない」(同氏)

 こうした計算の中には、実行に極めて長時間かかるものもある。ウェルナー氏の経験上、信用リスクを審査する大きなローンポートフォリオを古典コンピュータで実行すると数時間から数日かかる場合があるという。IBMはこれを高速化する量子アルゴリズムを開発したという。

 ウェルナー氏によると、古典コンピュータは数百万ものサンプルを処理する必要があるが、量子コンピュータはサンプルが数千で済む可能性があるという。「量子干渉は誤った答えを打ち消して、重要な答えを増幅する。これにより、幾つかのアルゴリズムをより効率的に実行することが可能になる」

 「百万の資産ポートフォリオにモンテカルロシミュレーションを実行すると、およそ15分がかかる。だが最適化すればほぼリアルタイムになるだろう」

 ところが、そのようなシステムを導入して量子コンピューティングを活用することを妨げる根本的な問題が存在すると同氏は指摘する。「現在の量子コンピュータにはノイズが多い。計算における誤差が過剰に積み重なっていく」

 量子コンピューティング用のシステムは、こうした誤差に対処できる方法で設計しなければならないと同氏は話す。「最終的には、物理量子ビットを使って誤差を修正することになるだろう。だが完全な誤差訂正を実現するには長い年数を要する。現時点では、ノイズの多いコンピュータで最善を尽くしている」

 IBMは、ある程度の誤差訂正を実行するために現時点で使えるアプローチがハイブリッド量子アルゴリズムだと考えている。このようなシステムは一般に、古典コンピュータと量子コンピュータの間のフィードバックループを組み合わせて、実行中のアルゴリズムの精度を高める。

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