航空会社Jetstarはレガシーなデータ基盤の運用を減らし、新たなデータ基盤を使ってサービスの最適化を図っている。具体的に何ができるようになったのか。
悪天候や政情などが業務の遂行に直結する航空業界では、さまざまなデータを多角的に分析し、素早く意思決定に反映させる必要がある。そのため、航空会社にとってデータ基盤の活用は不可欠だ。
2025年3月にクラウドデータウェアハウス(DWH)ベンダーSnowflakeが開催したイベント「Data for Breakfast」では、Jetstar航空(以下、Jetstar)の事例が紹介された。同イベントで講演したのは、データと分析、自動化部門の責任者、アレックス・ホプキンス氏だ。講演では、創業21年を迎えるJetstarが「レガシーシステム」を一部運用していること、そして、DWHを使ってそこからどのように“脱却”したのかが説明された。
2019年、Jetstarはレガシーシステムの更新を見据え、SnowflakeのDWH導入に向けてPoC(概念実証)を開始した。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)が起こり、取り組みは一時中断することになった。その後、コロナ禍によって旅行業界は数年にわたって打撃を受けることとなった。
ホプキンス氏によると、2022年には旅行業界の需要は過去最高水準まで回復した。一方、一度解雇した従業員の再雇用が難航した航空会社は、フライトのキャンセルを余儀なくされるなど苦戦を強いられた。さらに、その問題をメディアが報道した結果、航空会社に対する否定的な印象は強まったという。
2023年、データインフラの更新時期を迎えたJetstarは、Snowflakeと契約を締結した。新システムへのデータ移行に必要な時間が不確定な中、従量課金型で使用できることが導入の決め手だったとホプキンス氏は振り返る。
2024年、JetstarはDWHの運用を開始し、従業員がセルフサービス型でデータを分析できる環境を整えることができた。これは、DWHの導入において同社が掲げてきたゴールだ。Jetstarは、従業員が本番システムに影響を与えることなくDWHの可能性を探ることができる実験環境も整備した。
ホプキンス氏は、DWHの活用例を2つ挙げた。1つ目は機内食の管理だ。機内販売で売り切ることができなかった機内食は廃棄せざるを得ない。だからといって、機内食の在庫が足りなくなれば、顧客の満足度は下がり、販売機会は減る。DWHを活用することで在庫のバランスを取り、機内食の各品目と各フライトに必要な数量を特定できるようになった。
2つ目は、Jetstarが運航する約100機の航空機のフライトスケジュール作成だ。フライトスケジュールを組み立てる際は、フライトで使用する航空機の整備の時間を考慮する必要がある。約100機の航空機とフライトのスケジュールの組み合わせは膨大な件数になるため、熟練の従業員が長年の経験を基に手作業で実施しなければならなかった。JetstarはDWHを使ってスケジュールを自動的に最適化できるようにした。現在は、悪天候による空港の閉鎖や、航空機に予定外の整備が必要となった場合などに円滑に対処できる方法を検討しているという。
ホプキンス氏は、航空会社の競合他社と比較した強みについても説明した。同氏によると、Jetstarの定時到着率はVirgin Australia航空を上回り、Jetstarの親会社Qantas航空をわずかに下回る程度だ。このパフォーマンスを達成するためのコストを抑制することにもDWHの活用によって成功している。
JetstarはDWHへのデータ移行を引き続き進め、データを使った付加価値が高いサービスの実現に注力している。一方、ホプキンス氏は、必要なデータをエンドユーザーに提供するまでには、取り組むべき課題があると指摘する。
課題の一つが、人工知能(AI)の導入と推進だ。ホプキンス氏によると、Jestarの事業部門からはAI技術の導入を要請されている。だが、「航空会社の最優先事項は安全性だ」と同氏は述べ、AI技術の活用に付随するリスクについて従業員が理解を深める取り組みが必要だと指摘する。
ただし、AI技術の活用をただ禁止してしまうと、企業のガバナンス要件を満たさないAI技術やアプリケーションを従業員が独自に使用する「シャドーAI」が発生するリスクがある。事業部門のリーダーは、技術を理解するだけでなく、取り組みを始める前に適切なデータの使用と安全策が必要であることを認識する必要があると同氏は付け加える。
ホプキンス氏は2025年4月以降の12カ月の計画についても語った。基本的な投資を推進し、Jetstarのデータの価値を引き出す方法を模索するという。
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