高度なIT人材や研究開発拠点の確保を目的に、インドに拠点を設置する企業の動きがある。インドのIT人材はどのような分野で活躍しているのか。“弱点”はあるのか。
IT分野の人材不足が続く中、インドのITエンジニアに注目が集まっている。インドのIT人材はどのような分野で活躍しているのか。懸念はあるのか。
インドには約500万人のIT技術者がおり、ITサービス業界やグローバルコンピテンシーセンター(GCC:Global Competency Centers)で活躍している。GCCは、IT関連業務や研究開発を専門的に行う企業の拠点のことだ。
経営コンサルティング会社Zinnovのヨーロッパ、中東、アフリカ地域担当GCC部門責任者であるモハメド・ファラズ・カーン氏によると、ITエンジニアの中でも先端技術に詳しいエンジニアが83万人、そのうち、人工知能(AI)を専門とするエンジニアが12万人存在し、AI特化型のCoE(センターオブエクセレンス:専門的な知識やスキルを持った組織)が185以上ある。同氏によると、CoEでは「ソフトウェア定義型自動車」(SDV:Software Defined Vehicle)やAIを活用した脅威モデリング、精密医療の分野で次世代のイノベーションを推進している。
ITベンダーEncora Digitalでピープルアンドカルチャー部門インド担当責任者を務めるアニサ・サラシー氏は、2015年以降の10年間で、GCCの拠点構築や拡大を目指す企業にとってインドが重要な人材拠点となったと説明する。
サラシー氏によると、インドには1700カ所以上のGCCがあり、豊富なIT人材が強みだ。さらに、GCCが製品開発やイノベーションを推進するだけでなく、ビジネス上の重要な機能を所有する動きを見せていることも注目に値すると同氏は指摘する。
ITベンダーHexagon AB傘下のHexagon R&D Indiaで人事部門エグゼクティブマネジャーを務めるナラネ・グンダバスラ氏は、インドのGCCの特徴を次のように説明する。「その多くは、AI、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティ、デジタルツイン(現実の物体や物理現象をデータで再現する技術)といった主要な技術の開発を推進する拠点になっている」
調査会社Everest Groupのバイスプレジデント、アクシャイ・マスル氏は、産業全体でテクノロジー主導の変革が加速する中、2025年後半に向けて高度なスキルを持つIT人材の需要は上昇すると予測する。
しかし、インドの人材プールは転換点を迎えているという意見もある。コンサルティング会社Sapient(Publicis Sapientの名称で事業展開)の人事部門バイスプレジデント、アンジャリ・シンハ氏は、技術的な専門性が高いIT人材を供給することで評価を受けてきたインドの人材プールは課題に直面していると指摘する。
インドでは工学部で学んだ卒業生が毎年輩出される。だが、人材派遣会社Randstad Digitalのインド担当マネージングディレクター、ミリンド・シャー氏によると、そうした人材がAIの応用や自動化技術、高度な分析といった分野で活躍するには、さらなるトレーニングが必要な場合がある。
シャー氏は、IT関連業務のアウトソーシングやクラウドサービスの移行を推進できる中堅レベルのIT人材が不足していると指摘する。エネルギー企業SBM Offshoreのインド拠点でカントリーHRマネジャーを務めるレカ・アラガッパン氏によると、IT人材市場で注目を集めているのは、AIなどの新興技術をビジネスの実践や課題の解決に活用できる人材だ。
ITコンサルティング会社Xebia Groupのインド担当カントリーヘッド、グローリー・ネルソン氏はこの意見に同意する。AI関連の資格取得への関心は高まっているものの、資格の取得で得た知識を実践的なスキルに転換することは容易ではないと同氏は指摘する。
ネルソン氏によると、AIを使った製品やサービスの開発、ガードレール(制御機能)の構築、生成AIやセキュリティにおけるAIの活用、AIガバナンスの分野で人材が不足しているという。「単に資格を持っているだけでは不十分だ。実世界のサービスや課題に利用するためのAIモデルを構築し、ビジネス環境でスケーリングできる人材の需要が高まっている」(ネルソン氏)
シンハ氏によると、インドではAI人材の採用に加えて、既存の従業員のAIリテラシー向上を高める取り組みを進める企業がある。「技術の進化に合わせて学び直す能力が、人材の価値を高める」と同氏は指摘する。シンハ氏によると、プログラミング言語「Java」、スクリプト(簡易プログラム)言語「JavaScript」で利用可能なフレームワーク「React」、クラウドサービス、データ分析、ソフトウェア開発における品質管理といった基礎的なスキルの習得は依然として重要だ。その一方で、他のエンジニアと差別化でき、人材の価値を高める要素は、基本的なスキルをAIに統合できる能力だという。
インドの人材プールを世代別に分析すると、各世代で特有の傾向が見える。Z世代(1990年代半ば~2010年代に生まれた世代)はAIの基本的な知識は持っているものの、実務で求められるスキルは不足する傾向にある。一方、ミレニアル世代(1980年代~1990年代半ばに生まれた世代)は、AI技術の開発や運用を主導する能力はあるものの、AIのリスク管理やコンプライアンスといった点については懸念があるため、戦略や計画の策定に注力する必要がある。これは、カーン氏とネルソン氏が指摘する課題だ。
さらに、インド国内の人材の分布にも変化が起きているとシャー氏は指摘する。「インドのITエンジニア数は今後も増加する見込みだが、そんな中で第2、第3の都市への人材シフトが注目されている。これら地方都市で働くエンジニアは全体の12~15%を占めており、大都市圏以外でのエンジニアの存在感が徐々に増加している」(シャー氏)
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