不安定な状況が続くIT雇用市場。2025年以降はどうなるのか。IT雇用市場における主要なトレンドや予測について、統計を基に考察する。
IT雇用市場が大きく揺れ動いている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)や、Amazon.comやMicrosoftといったIT企業のレイオフ(一時解雇)によって不安定な状況が続いた。これに加えて、AI(人工知能)技術の急速な発展がIT雇用市場に大きな変化をもたらした。
企業がこの絶え間ない変化の波を乗り切ろうとする中で、次のような疑問が浮かび上がる。IT業界の雇用に不確実性をもたらすレイオフや人材不足の問題は、2025年も続くのか――。本稿は、2025年のIT雇用市場を予測する上で参考になる統計情報を幾つか紹介する。
IT業界団体のコンピュータ技術産業協会(CompTIA)が2024年に発表した調査レポート「State of the Tech Workforce」によると、米国におけるIT系職種の従事者数は、米国全体の雇用成長率の2倍の速さで成長するという。具体的には、2024年の600万人から、2034年には710万人に達すると予測されている。
一方、米労働統計局(BLS)の調査によると、コンピュータおよびIT関連の職種における求人数は2023年から2033年の10年間で平均を大幅に上回る成長を見せ、年間35万6700件の求人が発生すると予測される。
2024年5月、調査会社IDCは同社のブログエントリ(投稿)で、北米地域のITリーダーを対象に実施した調査結果を発表した。これによると、2026年までにITスキル不足が世界中の組織の90%以上にとって深刻な問題となり、5兆5000億ドルの損失をもたらすと予測されている。
コンサルティング企業Korn Ferryは、スキルのある人材が不足し、2030年までに最大8500万件のIT系求人が埋まらない可能性を指摘している。
人材不足は既に深刻な問題だ。AI技術を筆頭とするITの進化は、労働者個人や組織が順応できるよりも速いペースで進んでいる。人材派遣企業Robert Halfが2023年10〜11月にかけて米国のITリーダー700人を対象に実施した調査では、回答者であるITリーダーの95%が、熟練スキルを備えた技術者の確保に課題を抱えていると報告している。
非営利団体Linux Foundationの調査レポート「2023 State of Tech Talent Report」によると、スキルギャップの解消策として、新規採用や外部コンサルタントを利用するのではなく、社内スキルの向上に取り組む企業が増えているという。
企業は引き続き、従業員のスキルアップ、リスキリング(再訓練)、クロススキリング(異分野スキル習得)に優先的に取り組んでいるようだ。経済誌『Harvard Business Review』(ハーバード・ビジネス・レビュー)が2023年9月に公開したブログエントリによると、ITスキルの半減期(当初の価値を半分に失うまでの期間)はわずか2年半とされている。
2020年10月に開催された世界経済フォーラムを振り返ると、「ITの急速な進歩により、2025年までに労働者の半数以上が何らかの形でスキルを習得する必要がある」と指摘されていた。
Indeedが2024年10月に公開したレポート「Tapping Into Today's Tech Talent」によると、IT系の求人で最も需要が高いスキルはプログラミング言語「Python」に関するものだった。次に高かったのはAmazon Web Services(AWS)のサービス利用経験で、これは過去1年で最も需要が拡大したという。後には、Oracleのサービスの利用経験、プログラミング言語「Java」「JavaScript」に関するスキルが続いた。
同レポートは、需要が急成長しているスキル分野として「PyTorch」「TensorFlow」「Flutter」などのフレームワークや、「Rust」「Dart」などのプログラミング言語を挙げている。反対に需要が減少しているスキル分野には、Microsoftのクラウドサービス群「Microsoft Azure」、AppleのOS「iOS」、開発ツール「Xamarin」、プログラミング言語および実行環境「Erlang」などが挙がった。中でもErlangは絶滅寸前のプログラミング言語として扱われている。
次回は、報酬面や求人の特徴といった視点から、IT雇用市場のトレンドを解説する。
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