「脱クラウド」が意味するもの【第2回】
「脱クラウド」はなぜ起きる? “コスト”や“運用管理”における企業の悩み
オンプレミスに回帰する「脱クラウド」の動向を追うと、企業がパブリッククラウドでどのような問題に直面し、なぜオンプレミスを選択するのかが見えてくる。企業がパブリッククラウドで直面する問題とは。
パブリッククラウドに対する企業の姿勢は変わりつつある。本格的にパブリッククラウドへの移行に着手する企業がある一方で「オンプレミスでの運用継続を肯定的に捉える企業も珍しくなくなっている」と、日本IBMでクラウド事業を統括する二上哲也氏は話す。ある意味ではクラウド化を最優先で考える「クラウドファースト」への“熱”が冷めて、オンプレミスの良さを再評価する企業もあるということだ。
この動きはパブリッククラウドのIaaS(Infrastructure as a Service)からオンプレミスにシステムを移行する「脱クラウド」と無関係ではない。「パブリッククラウドからオンプレミスに移行した先行事例を知って、パブリッククラウドに対して慎重になっている国内企業もある」と、EMCジャパンでハイパーコンバージドインフラ(HCI)やクラウド分野のプリセールスを担当する平原一雄氏は語る。国内における脱クラウドの動向について、平原氏は「現時点では“流れ”と言えるほどの動きはない」と言うが、米国から数年遅れで動きが大きくなる可能性は否定できない。
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クラウドベンダーがオンプレミスを重視する理由
脱クラウドの動きはパブリッククラウドにおけるシステム運用の限界を示してもいる。それをよく理解できるのがDropboxの事例だ。ベンチャー企業だった同社はパブリッククラウドの「Amazon Web Services」(AWS)を利用し、十分に事業が成長した時点でオンプレミスに移行した。Dropboxのインフラ分野を率いるジェームズ・コーリング氏は、AWSを選択した理由は「“素早い事業展開”をするため」で、オンプレミスへの切り替えは「事業を開始して間もないころから検討していた」と説明する。AWSのメリットを享受する必要はあったが、ある時点で運用に限界が来ると見込み、実際にそうなったのだ。
企業に脱クラウドを決断させる4つの問題
脱クラウドの事例としては、Dropboxのように初めからパブリッククラウドで構築したシステムをオンプレミスに移行するパターンに加え、オンプレミスからパブリッククラウドに移行したシステムを、再びオンプレミスに戻すパターンもある。いずれにしても共通するのは、パブリッククラウドで何らかの問題に直面することだ。まず避けては通れない問題としてコストが挙げられる。ただし単にコストの問題と言っても中身はさまざまであり、そもそも問題はコストだけではない。
問題1.予測が難しいトータルコスト
「トータルコストの予測のしやすさでオンプレミスに移行する企業もあるだろう」と平原氏は語る。パブリッククラウドのトータルコストの予想が簡単ではないからだ。
パブリッククラウドへの移行の動きが広がるとともに「必ずしもパブリッククラウドではコスト削減ができない」という認識が広がりつつある。こうした認識を持つ企業にとっては、クラウド移行後にコスト削減ができなかったとしても「想定内」だ。むしろパブリッククラウドに関して悩ましいのは「料金体系が複雑で予測が難しい」点だと平原氏は指摘する。
典型例としてシステム監視がある。仮想マシンを稼働させるだけでなく、使用状況に応じてリソースを適切に調整しようとすればシステム監視は必要だ。「Amazon CloudWatch」や「Azure Monitor」など各パブリッククラウドベンダーのシステム監視サービスは、メトリックス(稼働状態を定量化する単位)などの利用条件を細かく設定している。そうしたサービスも基本は従量課金で利用することになるため、最終的に発生する金額を可視化するには、あらゆるサービスの料金体系を詳細に把握しなければならない。
問題2.高額になりやすいクラウドストレージのコスト
「クラウドストレージのコストが脱クラウドの理由になっているケースが多い」と指摘するのは、日本ヒューレット・パッカードで企業のITシステム構築・運用に関するコンサルティングを担当する挾間 崇氏だ。大量のデータを抱えていたDropboxの例もこれに当たる。
パブリッククラウドの利点はハードウェア調達の手間をなくして迅速にビジネスを開始できる点にある。ただしパブリッククラウドで扱うデータ量によってはクラウドストレージの利用料金が高額になり、オンプレミスに移行した場合のコストメリットが無視できないほどの金額になる場合がある。そうなれば手間をかけてでもオンプレミスにストレージシステムを構築するのは合理的な判断だと言える。
挾間氏はストレージシステムを全面的にパブリッククラウドからオンプレミスに移し替えるのでなく「コスト抑制のためにハイブリッド構成にするケースも見られる」と説明する。この場合はデータ保管の役割だけをオンプレミスに移行する。インターネットを介して収集したデータを一時的に保管するためだけにクラウドストレージを利用し、最終的にはオンプレミスにデータを保管する、といった具合だ。
平原氏は「パブリッククラウド外部へのデータ転送コストが課題になるケースもある」と指摘する。パブリッククラウドによって料金設定は異なるが、「Amazon S3」や「Azure Blob Storage」のような主要クラウドストレージは、データ保存だけではなくインターネットを介して外部にデータを転送する際にも料金が発生する。転送するデータ量が多くなれば請求額の高騰は避けられない。NTTぷららが映像配信サービス「ひかりTV」のデータをAzure Blob Storageからオンプレミスに移行した主な要因はこれだった。
問題3.性能劣化によるコストパフォーマンスの低下
日本オラクルでクラウド事業を統括する佐藤裕之氏は、料金そのものではなくコストパフォーマンスの視点でパブリッククラウドの課題を指摘する。データベース管理システム(DBMS)をAWSなどのパブリッククラウドで動かす場合、オンプレミスでの運用と比較してコストの違いは「それほど大きくない」と佐藤氏は言う。一方でデータの読み書き速度や処理速度といった性能が落ちることに課題感を持つ企業があるという。佐藤氏は性能の低下は致命的な問題になり得るだけでなく、投資に見合った性能が得られなくなることで「コストパフォーマンスが落ちる点も認識しておくべきだ」と指摘する。
特に性能劣化が問題となるのが、さまざまなシステムにおけるデータ処理の要となるDBMSだ。大量のI/O要求を高速に処理すべく、ハードウェアやソフトウェアの選定、設定のチューニングを施したDBMS専用機で運用していた場合は、「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)をはじめDBMS専用の仮想マシンやハードウェアを用意しているパブリッククラウドでない限り、性能面で何らかの問題を抱えても不思議ではない。
問題4.ベンダー任せの運用管理による“想定外”
コストの問題に加えて「運用管理の問題が脱クラウドの一つの要因になる」と二上氏は指摘する。パブリッククラウドには、インフラの運用管理をクラウドベンダーに任せられるというマネージドサービスならではのメリットがある。ただし運用管理の内容やタイミングは、ベンダーの都合に左右されることは避けられない。クラウドベンダーが設定したメンテナンスやその通知のタイミングによっては、ユーザー企業にとっては“予期せぬシステム停止”につながってしまうこともある。
クラウド移行でアプリケーションをマイクロサービスアーキテクチャ(小さなサービスを連携させて1つのアプリケーションを構成するアーキテクチャ)のような作りに変更していれば、部分的に停止してもシステム全体に与える影響は少なくて済む。だが従来のモノリシック(一枚岩)なアーキテクチャのままクラウド移行していれば「以前の運用との違いを感じるだろう」と平原氏は語る。クラウドベンダーのデータセンターでシステム障害が発生した場合も、当然ながらサービスレベルの低下は避けられない。
企業が脱クラウドを選ぶ理由は、本稿で紹介したような何らかの課題に直面することだ。これはオンプレミスとパブリッククラウドを使い分ける上で、あるいはどちらかを選択する上で必要な論点になる。第3回以降はパブリッククラウドにおけるシステム運用の課題を踏まえつつ、今後のインフラ構築に必要になりそうな要素を中心に紹介する。
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「脱クラウド」が意味するもの
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