GANのリスクを超えて【後編】
“偽CEO”の声にだまされ2000万円以上の被害も 「ディープフェイク」の対処法
敵対的生成ネットワーク(GAN)を使って本物を装い、偽造された動画や画像、音声を指す「ディープフェイク」にまつわるリスクにどう向き合えばいいのか。
敵対的生成ネットワーク(GAN:Generative Adversarial Network)には善意で好意的な用途がある。だが話題になることが多いのは、GANを使って本物を装い、偽造された動画や画像、音声を指す「ディープフェイク」にまつわるリスクの方だ。
2019年、ある企業がディープフェイクによって24万3000ドル(約2600万円)を盗み出される窃盗事件があった。この事件は、犯人が業務時間終了後にオフィスに電話をかけ、音声ディープフェイクを使ってこの企業のCEOの声を模し、延滞料金の発生を防ぐために金銭を振り込むよう担当責任者に依頼したものだった。
こうしたディープフェイクはますます広がっており、複数のソーシャルメディア企業は対処に取り組んでいる。GoogleやTwitter、Facebook、Redditは、それぞれが提供するサービスにおいてディープフェイクがもたらすリスクと言論の自由のバランスを取るために、ここ数カ月、ポリシーにさまざまな変更を加えている。とはいえ、具体的にディープフェイクに対する保護となる技術的な解決策はまだない。
ではどう対処すべきか
調査会社Gartnerで調査部門バイスプレジデントを務めるアナリストのアンドリュー・フランク氏は、プロセス指向の対策を重視することを推奨する。「これは状況の拡大に対処する広報活動の対応メカニズムの延長にすぎない。何らかの危機管理が必要となる全ての種類の事象を追跡している場合は、ディープフェイクの管理によってリストに載せる」(フランク氏)
技術的な解決策は今後数年で進化する。だがセキュリティや防御は高額なので、企業はリスクベースのアプローチを取るべきだ。AA Access Partnership(「Access Partnership」の名称で事業展開)でデータおよび信頼部門の責任者を務めるミハエル・クラウザー氏はそう考えている。「巨大投資銀行や原子力企業のディープフェイクの脅威要因に対する姿勢は、スモールビジネスとは大きく異なるはずだ」とクラウザー氏は話す。
ディープフェイクの出現は動画認証ツールへのニーズを高めている。動画表示ツールや動画公開プラットフォームが、本物の動画とディープフェイク動画を区別するのに、動画認証ツールが役立つ。
動画録画時にその動画の起源を認証する何かを撮影することで、ブロックチェーン技術を用いて動画の真偽を認証する方法が話題になっているとフランク氏は説明する。同氏によると、それは偽造品と戦い、サプライチェーンに漏れがないようにするため、物理製品の起源を認証するために用いる手法に似ている。
信頼を取り戻す
ソーシャルメディアが進化する過程で、デジタルコンテンツへの信頼が大きく失われている。調査会社Pew Research Centerが2017年に実施した調査によると、インターネットを使用する成人のうちソーシャルメディアから得た情報を信頼するのは5%にすぎない。ディープフェイクは、こうした不信頼の雰囲気の中で生み出され、育っている。ディープフェイクについての現状の懸念は、政治への予期しない影響の可能性だ。だがディープフェイクはデジタル分野で活動している全ての個人や企業へも影響を及ぼしている。
企業ブランドに存在する疑問は、人々が自身の画面に映し出されるものを本質的に信じられなくなった世界で、顧客の信頼を取り戻し、信頼に足る評判を勝ち取る方法だ。その答えは「信ぴょう性」だとフランク氏は見解を示す。
「企業は、顧客とのより直接的な関係を確立する方法について真剣に考える必要がある」とフランク氏は強調する。カスタマーサービスの担当者を最初は実在の人間に見えるように合成するとしよう。企業は、過度にその人工物に頼るようになっていく。だが、やがてその担当者が実在の人ではないことが分かる。「そうしたことが全て信頼の失墜につながる」と同氏は指摘。「こうしたこと全てと戦う鍵となる要素が人であることを恐らく再発見するだろう」と続ける。
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