NAND型フラッシュメモリの進化と現実【前編】
QLC、TLCが生まれた今でも「SLC」のNAND型フラッシュメモリが使われ続ける理由
進化や変化が、常にあらゆるニーズを満たすとは限らない。「QLC」「TLC」といった新しい方式が登場したにもかかわらず、従来の「SLC」方式のNAND型フラッシュメモリが使われるのには、それなりの理由がある。
ブラウン管テレビや黒電話、カセットレコーダーはもうほとんど誰も作っていない。それよりずっと優れた代替技術が存在しており、そうした製品の市場は存在しないからだ。一方で性能や安定性、耐久性、寿命、コスト面での優位性のために、同じ技術が長きにわたって存在できる余地が生まれることもある。それが当てはまるのが「NAND型フラッシュメモリ」だ。
SLC方式のNNAD型フラッシュメモリがいまだに使われている理由
NAND型フラッシュメモリは、1つのメモリセル(データを読み書きする最小構成要素)に1bitを格納する「シングルレベルセル」(SLC)方式から、2bitを格納する「マルチレベルセル」(MLC)方式、3bitを格納する「トリプルレベルセル」(TLC)へと進化し、最近では4bitを格納する「クアッドレベルセル」(QLC)方式が登場。その結果、現代のデータセンターでさまざまな形態のNAND型フラッシュメモリを利用する余地が生まれた。
QLC方式のNAND型フラッシュメモリは、フラッシュメモリの密度を増大させる革新的な拡張技術だ。大容量フラッシュストレージを利用する場合は、SLC方式やMLC方式、TLC方式のNAND型フラッシュメモリからQLC方式に完全に入れ替わると考える人もいるだろう。実はSLC方式やMLC方式、TLC技術は耐久性と性能の面でいまだに魅力がある。
メモリ技術が代償を伴わずに何かを与えてくれることはめったにない。1つの要素を強化しようとすれば、大抵は別の要素が犠牲になる。NAND型フラッシュメモリ技術の進化は結果的に、メモリセル当たりに詰め込むビット数を増やして密度を高めた代償として、I/Oスループット(単位時間当たりのI/O処理量)が低下し、読み込みのレイテンシ(遅延)が大きくなり、耐久性が低くなった。「I/Oスループットと耐久性を取るか」それとも「容量とコストを取るか」というトレードオフの結果として、一部のフラッシュストレージは依然としてSLC方式のNAND型フラッシュメモリを使い続けている。
SLC方式のNAND型フラッシュメモリの耐久性は、データを集中的に書き込む取引処理などのワークロード(アプリケーション)にとって理想的だ。だが機械学習やビッグデータ分析、ストリーミングメディアといった新しい種類のアプリケーションでは、データの書き込みではなく読み込みを中心とするワークロードの数が増え、フラッシュメモリの耐久性の重要性は最小限に抑えられる。
調査会社Forward Insightsによると、2019年に販売されたSSD(ソリッドステートドライブ)の内、動作保証期間中(標準的には5年)の1日当たりのストレージ書き込み回数(DWPD)が1回以上の仕様の製品が占める割合は、20%に満たなかった。2023年までに販売されるストレージの85%は、DWPDが1回以下の仕様の低持続モデルが占める見通しだ。動作保証期間が5年で1DWPDの仕様の1TBストレージは、5年にわたって平均で1日1TBのデータの書き込みができる。
DWPDはストレージの耐久性を相対的に示す尺度なので、さまざまな種類のストレージを横断してDWPDを比較する場合は注意しなければならない。Micron Technologyが指摘する通り、TLC方式のNAND型フラッシュメモリを積載した1DWPD・960GBのフラッシュストレージは一般的に、特定のワークロードに関してQLC方式のNAND型フラッシュメモリを積載した0.5DWPD・1.92TBのフラッシュストレージと同程度の耐久性を持つ。後者の方がDWPDが低いが、1日当たりに書き込めるデータの総量は、この2つのストレージとも変わらない。従って、ほぼデータの読み込みしかしないワークロードの場合、容量が大きい後者の方が望ましい。
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