AWSのマルチクラウド戦略【前編】
なぜ“AWS縛り”ではなく「マルチクラウド」が選ばれるのか
ベンダーロックインの防止やコスト最適化などの観点から「マルチクラウド」を採用するユーザー企業は少なくない。AWSやMicrosoft、Googleといった企業は、この流れにどう戦略を立てているのか。
企業ITの分野では複数のクラウドを併用する「マルチクラウド」の採用が進んでいる。Amazon Web Services(AWS)にはクラウドサービスと、ユーザー企業がオンプレミスのインフラに構築したプライベートクラウドを組み合わせる「ハイブリッドクラウド」を実現させた功績がある。ただし同社はこれまで、ハイブリッドクラウドの構成要素として、他社のクラウドサービスを含めることは想定していなかった。
マルチクラウドが選ばれる理由
AWSにとって、マルチクラウドの普及はユーザー企業がAWSのクラウドサービスを導入しやすくする効果だけでなく、AWSの収益源であるクラウドサービスから他社のクラウドサービスにユーザー企業が簡単に流れる恐れも秘めている。本連載は前中後編にわたり、AWSのマルチクラウド戦略を掘り下げる。
IT管理ベンダーFlexera Softwareが2019年に実施した調査(回答者数786人)によると、84%の回答企業がマルチクラウドを採用しており、平均5種類のクラウドを使用している。
マルチクラウドには、各ベンダーが提供するクラウドサービスや機能のメリットを得やすくなるメリットがある。MicrosoftとGoogleはマルチクラウドの需要を認めており、Microsoftの「Azure Arc」やGoogleの「Anthos」といったマルチクラウド管理ツールを利用することで、オンプレミスのハードウェアや技術と、各社のクラウドサービスを連携させることができる。
ベンダーロックインのリスクを避けたり、利用料金の急な増額を防いだりする意味でもマルチクラウドは役立つ。「マルチクラウドを採用する企業は、オンプレミスのハードウェアベンダーのロックインを受けた苦い経験があり、現在契約しているベンダーに対して影響力を持ちたいと考えている可能性がある」。そう語るのは住宅ローン向けクラウドサービスベンダーEllie Maeで、クラウド運用のバイスプレジデントを務めるジャスティン・ブロドリー氏だ。
マルチクラウドを採用する企業は「ベンダーより優位に立つことを望んでいる」とブロドリー氏は語る。こうした企業は、複数のクラウドサービス間でアプリケーションを稼働させることで、より低額な利用料金のクラウドサービスに移行しやすくし、ITの運用コストを削減することを期待しているという。
中編は、AWSがマルチクラウド戦略に消極的な理由を説明する。
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