LLMベンチマークの全体像を知る【前編】
LLM、どれを使えばいいの? 性能を評価するための「ベンチマーク」とは
自分が使っているLLMの性能はどの程度なのか。そもそもLLMの性能を評価するにはどうすればよいのか。そうした疑問を解消する、LLMの「ベンチマーク」や実施方法を紹介する。
大規模言語モデル(LLM)は、質問への回答、ソースコードの作成、そのテスト方法の提案が可能だ。しかし、LLMが生成する内容が常に信頼できるとは限らない。さまざまなLLMの中から、自組織に最適なものをどう選ぶべきか迷った際に有用なのが、LLMを客観的に評価する「ベンチマーク」だ。LLMのベンチマークは何を調べ、どのように測定するのか。
LLMのベンチマークとは
LLMのベンチマークは、LLMの性能を評価するための標準化された手順や指標だ。LLMに実行させる一連のタスクを提示し、特定の指標に基づいてLLMのタスク達成能力を評価し、その指標に基づいてスコアを算出する。ベンチマークを利用して、コーディング、推論、文章の要約、読解、事実知識の想起など、さまざまなタスクを実行する能力を測定できる。
ソフトウェアの品質評価ではメモリの使用量、処理速度、消費電力といった指標に注目する。これに対してLLMを評価する場合は、その問題解決能力に着目する。
組織はベンチマークを使って、複数のLLMの性能を同一タスクで比較したり、LLMを微調整して性能を向上させる際の指針を得たりすることが可能だ。
ベンチマークを実施するには
ベンチマークを使ったテストは、以下の順に実行する。
- セットアップ
- ベンチマーク用のデータセットを用意する。このデータセットには、文章の理解や要約、質問への応答の能力を測るためのテキスト文書、プログラミング能力を測るための問題、論理的思考や計算能力を測るための数学の問題などが含まれる。
- テスト
- 準備したデータを使い、課題に対するLLMの準備度合いに応じてベンチマークテストを実施する。
- ゼロショット(Zero-shot)
- タスクの手本を示さずに、LLMの汎用(はんよう)的な知識のみで課題を解かせる評価手法。
- フューショット(Few-shot)
- プロンプト(質問や指示)内で幾つかの具体例を示し、LLMにタスクの意図を理解させてから課題を解かせる評価手法。
- ファインチューニング(Fine-tuning)済みモデルでの評価
- 特定用途向けの小規模データセットを用いてパラメーターを微調整したLLMを評価する手法。
- ゼロショット(Zero-shot)
- 準備したデータを使い、課題に対するLLMの準備度合いに応じてベンチマークテストを実施する。
- 採点
- 以下の指標を基に、0~100でLLMの性能を測定する。
- 正解率(Accuracy)
- 再現率(Recall)
- 困惑度(Perplexity)
- 以下の指標を基に、0~100でLLMの性能を測定する。
ベンチマークでは、特定の能力に焦点を当てることが一般的だが、複数の分野にまたがる場合もある。対象とする分野には、歴史、読解力、数学的推論、科学などがある。このうち読解力については、プロンプトの内容理解、論理的証明、推論といった分野に細分化できる。与えられた文章の段落の中から代名詞の主語を特定する能力や、「熱が出たらどうすればいいのか」「牛乳を常温に何分までなら置いても問題ないのか」といったプロンプトに対して、常識的なアドバイスをする能力を評価するベンチマークもある。
これらのベンチマークテストには、人間の試験と同様、採点について課題がある。誰が採点しても同じ結果となる問題を出せば、効率よく採点できる。そうではない場合、採点には時間がかかりやすい。そのためベンチマークテストでは、答えが同一となる数学や選択式の問題が選ばれる傾向にある。LLM同士で性能を比較しやすくするために、ベンチマークテストのスコアの総合点やその内訳を生成する必要がある。ベンチマークテストを実施する一部の組織は、その内容を外部に公開しておらず、スコアのみを公開している。テストの内容をあらかじめ公開すれば、AIベンダーがその内容を学習データに組み込み、不正に評価点数を高めることができる恐れがあるからだ。この現象を過学習(オーバーフィッティング)と呼ぶ。過学習は、学習データの特定の情報を記憶してしまい、その情報に関する回答の精度は高いものの、新しいデータに適合できず適切に回答することが難しい状態を指す。
LLMのベンチマークテストを実施する際は、スクリプト(簡易プログラム)やAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を使う。プログラミング言語「Python」で書かれたプログラムが、データベースやテキストファイルから問題を読み込み、API経由でLLMにアクセスするといった具合だ。
ベンチマークテストを実施する際は、出力の再現性を確保し、その再現性を制御できるようにすることが重要だ。イーロン・マスク氏が創業したAI技術ベンダーX.AIの「Grok」、Anthropicの「Claude」、OpenAIのLLM「GPT-4」、Meta Platformsの「Llama」といったLLMは、人間らしいコミュニケーションを実現できるよう、ランダム性を取り入れている。そのようなランダム性を低減するための設定が利用可能なLLMもある。OpenAIのAIチャットbot「ChatGPT」は、ランダム性を調整する設定「Temperature」(温度)を用意している。Temperatureを小さくすれば、ランダム性は下がる。他にも、回答のばらつきを決めるための値「シード値」を固定する、質問するたびに新規ユーザーとして質問するといった方法でランダム性を減らすことが可能だ。使用しているLLMにそのような機能がない場合、テストを複数回実施し、その結果の平均値や中央値を取ることでおおよそのスコアを得ることができる。
中編は、注目すべきLLMベンチマークや、ベンチマークの限界について紹介する。
TechTarget.AIとは
TechTarget.AI編集部は生成AIなどのサービスを利用し、米国Informa TechTargetの記事を翻訳して国内向けにお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
TechTarget.AI
TechTarget.AI編集部は生成AIなどのサービスを利用し、米国TechTargetの記事を翻訳して国内向けにお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
4
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
5
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
BMWも導入 78兆円市場に化ける「フィジカルAI」の衝撃
-
9
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
10
「AI活用を前提とした業務PCへの移行」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー