SLM(小規模言語モデル)は、LLMよりもコスト効率の高い選択肢として注目されている。SLMには弱点もあるが、「知識の蒸留」によってそれを克服できる可能性がある。その具体的な仕組みとは。
大規模言語モデル(LLM)に代わるコスト効率の高い選択肢として、小規模言語モデル(SLM)が注目を集めている。SLMは、LLMに比べてファインチューニング(企業固有の要件に合わせた再学習)が容易で、実行効率に優れ、出力の制御がしやすいといったメリットを備えている。
一方で、SLMの回答精度や汎用性はLLMのそれに劣るといった課題もある。こうしたSLMの弱点を補い、実用性を高めるためのアプローチとして注目されるのが「知識の蒸留」(Knowledge Distillation)だ。その基本的な仕組みについて解説する。
調査会社Gartnerは、2024年8月に発表したレポート「Explore Small Language Models for Specific AI Scenarios」の中で、言語モデルにおける「小規模」と「大規模」の定義がこれまでどのように変化してきたかを解説している。
レポートによると、以下のようなLLMのパラメーター(AIモデルの振る舞いを決定する変数)は5000億から2兆程度と推定されている。
一方、以下のようなAIモデルは100億以下のパラメーター数を備えると推定されており、SLMに分類される。
Gartnerは、SLMとLLMが必要とするコンピューティングリソースの比較を紹介している。例えば、80億パラメーターを持つ「Llama 3 8B」はGPU(グラフィックス処理装置)27.8GBのメモリを必要とするのに対し、700億パラメーターを持つ「Llama 3 70B」は160GBを必要とする。
必要なGPUメモリの容量が大きくなるほど、コストも増大する。昨今のGPU価格を基に試算すると、6700億のパラメーターを備えるAIモデル「DeepSeek-R1」をメモリで稼働させるためには、10万ドル(約1450万円)超のサーバが必要となる。
LLMの備えるパラメーター数はSLMの数倍に上るとされる。一般的に、パラメーター数の少ないAIモデルは回答精度や汎用性が劣る傾向がある。SLMでは特定の問いに対して適切な回答を得られないケースもある。
こうしたSLMの弱点を補う手法として注目されているのが、知識の蒸留だ。蒸留とは、大規模モデルから学習した知識を、小規模モデルのトレーニングに活用する手法を指す。SLMの応答精度や推論能力を向上させつつ、トレーニングや推論に必要な計算リソースを大幅に抑えることができる。
企業向けAIサービスを提供するDomino Data Labでフィールドチーフデータサイエンティストを務めるジャロッド・ボードリー氏は次のように話す。「この知識移転の仕組みにより、一部のLLMユーザーだけでなく、より幅広いユーザーが高度な言語処理能力を利用できるようになる」。知識蒸留を経たSLMは、LLMに比べてわずかな計算リソースで、LLMと同程度の応答と推論を実現できるようになる。
ボードリー氏は、LLMからSLMへの蒸留プロセスを次のように解説する。まず、事前学習済みのLLMが「教師モデル」として機能する。次に、その知識を引き継ぐ「生徒モデル」がある。SLMは通常、パラメーターをランダムに設定した状態か、簡易的な事前学習を終えた状態からトレーニングを開始することが一般的だ。
蒸留に当たっては、ラベル付きデータセットなどの構造化データと、自然言語データ(会話、文書、ソースコードなど)といった非構造化データの両方を活用する。蒸留の具体的なやり方には以下のようなものがある。
次回は、SLMの実用性について考察する。
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