生成AIは“実験”から“実装”へ
「生成AIがとにかくスゴイ」病の終焉 情シスにとっての“正しい撤退”とは
生成AIの導入が一巡し、企業は“目新しさ”から“実装”へと移行しつつある。このステージを、CIOはどのように乗り切るべきか。ヒントと戦略を探る。
ChatGPTなどの登場で、「生成AI(AI:人工知能)が全てを変える」とメディアやAIベンダーが喧伝した時期を経て、エンタープライズAI市場は実用的な実装段階へと移行し始めている。
この変化は「AIプラトー」(停滞期)と呼ばれることがある。この変化を「減速」と否定的に捉える見方もあるが、AIプラトーは変革的技術が普及していく過程で自然に発生するものだ。インターネット黎明(れいめい)期に起きた「ドットコムバブル」(「ITバブル」とも)後のインターネットがそうであったように、生成AIは実験や目新しさの段階を越え、企業がその真の価値を引き出せる段階へと進みつつある。
そもそも、生成AIにおけるAIプラトーは、Gartnerのハイプサイクルにおける「プラトー」とは違うものなのか。CIO(最高情報責任者)は、AIプラトーを効果的に乗り切るために何をすればいいのか。
Gartnerのハイプサイクルで見る「AIプラトー」とは
Gartnerは、新興技術の成熟度を示すフレームワークとして「Hype Cycle」(ハイプサイクル)を提示している。これは、新興技術が市場に受け入れられていく過程を、以下の5段階で整理したものだ。
- 技術の黎明期(Innovation Trigger)
- 過度な期待のピーク(Peak of Inflated Expectations)
- 幻滅期(Trough of Disillusionment)
- 啓発期(Slope of Enlightenment)
- 生産性の安定期(Plateau of Productivity)
Gartnerのハイプサイクルにおいて、プラトーは実証実験(PoC)や試行錯誤を経て、技術が実務に定着し、現実的な価値を継続的に生み出す段階を指す。
一方、データマネジメントツールベンダーInformaticaのCIO、グレアム・トンプソン氏は「生成AIにおけるプラトーは、生成AIから失敗の兆候が見られることを意味していない。むしろ、初期の興奮や実験段階から、実装の現実へと重心が移ったことを示している」と語る。同氏によると、生成AI導入の初期段階では、大半の企業がその可能性に魅了された。しかし、技術が成熟するに連れ、技術の黎明期に存在した生成AIに対する熱狂や期待感が剥がれ落ちた。生成AIツールを大規模に展開する、既存の業務フローに統合する、測定可能なビジネス成果につなげる難しさに企業は直面している。
この段階では、期待値の再調整が求められる。生成AIを目新しさや実験目的で導入するのではなく、基幹業務プロセスに組み込むことへと焦点が移っている。データ品質、ガバナンス、ベンダーコストといった課題が表面化し、CIOにはユースケースを絞り込み、統制を強化することが求められている。
「価値を見出せていない訳ではない。ただ、その価値が、当初の過剰な期待に見合うことはどう考えても不可能だった」。ノートルダム大学(University of Notre Dame)教授、マイケル・ベクテル氏はこう述べる。
過去のハイプサイクルから得られる教訓は
AIプラトーは、前例のない現象ではない。歴史を振り返ると、変革的技術は過剰な期待、幻滅、そして安定化という同様のサイクルを辿る傾向にあった。1990年代後半のドットコムブームでは、期待が急騰した後、大きな崩壊が起きた。
インターネットはその後、現代の商取引やコミュニケーションを支える基盤として、より強固な存在へと成長した。同様に、AIも初期の熱狂が実装の現実に置き換わる段階に入っている。
賢明なCIOがAIプラトーを乗り切るには
以下では、AIプラトーを乗り切るためCIOがやるべきこと3つを紹介する。
1.AIではなく、ビジネス課題に焦点を当てる
生成AIが過度な期待のピークを越える中、賢明なCIOは、トップダウンで生成AI活用を義務付けるような取り組みから距離を置き、具体的なビジネス課題に立ち返っている。初期には、多くの組織が「すべての部門でAIを使って生産性を高めよ」と指示した。このやり方に活気はあったものの、社内で注目やリソースを奪い合う大量のアイデアが生み出される状況を作り出した。
AIプラトーにおいて、CIOは「やるべきこと」「しなくていいこと」をより選別することが大切だ。思いつく限りの生成AIのユースケースを試すのではなく、明確に事業目標を支え、かつスケール可能な少数のユースケースを選ぶ。問われるのは「そのユースケースに生成AIを使えるか」ではなく、「そのユースケースに生成AIを使うべきかどうか」だ。
「生成AIに対する期待が盛り上がった段階では、生成AIを使って生産性向上に全部門が取り組まなければならないという指示が飛んだ企業もあった」。こうトンプソン氏は語る。「各部門がアイデアを出たが、例えば法務部門で最良のアイデアが、マーケティング部門の19番目のアイデアより価値が低いこともある。ならば、なぜそれをやる必要があるのか、という話だ」
賢明なCIOは、“原石のようなユースケース”を追いかけ続けるよりも、少数のプロジェクトを確実に成功させる方が有効だと理解しよう。
2.事業規模によって成果が出るスピードを考慮する
生成AIを本番環境に統合しようとするに連れ、全生成AI施策を同じやり方で扱うことはできないことが明らかになりつつある。小規模で戦術的、短期間で展開できるプロジェクトもあれば、基幹システムに関わり、データの整備や厳格なガバナンスを必要とするものもある。全プロジェクトを同じ速度で進めようとすると、遅延や停滞が生じる恐れがある。
この違いは、パイロットから本番展開に移行する段階で顕在化する。初期の取り組みは、限定的なデータと狭いユースケースに依存するため成功しやすい。しかし、それをスケールさせようとすると問題が表面化する。このように説明するのは、ITツールの保守サービスを手掛けるRimini StreetのグローバルCIO、ジョー・ロカンドロ氏だ。データの整備が必要になり、統合には自動化が求められ、ガバナンス上の不備は無視できなくなる。簡単に見えたものが、突然時間のかかる取り組みに変わるのだ。
この現実に対処するため、CIOは期間とプロジェクトの規模ごとに分けて進める「2スピードアプローチ」を取るべきだとロカンドロ氏は述べる。小規模な施策は学習と迅速な成果創出に役立ち、大規模なプロジェクトは、複数システムにまたがる場合、より綿密な計画と投資が必要になる。
3.最小限の実用製品を作り、反復する
生成AI活用においては、全課題を一度に解決しようとするあまり、計画を長期化させないようにすることが重要だ。生成AI技術は急速に進化している。時間を掛けすぎたプロジェクトは、完成時にはすでに技術が陳腐化している恐れがある。CIOは可能な限り、特定のビジネスニーズに素早く対応する「Minimal Viable Product」(ユーザーに必要最小限の価値を提供できるプロダクト)から始め、段階的に改善していくことが有用だ。
ベクテル氏は、インターネット黎明期に、企業が過度な計画のもとでツールを作り込み過ぎた事例を振り返る。同氏によると、食肉やチーズを販売するエンタープライズ向けオンライン市場を、完全な長期プラットフォームとして設計するために、9カ月を費やした例があった。「その構想が設計図からコードになった頃には、世界はすでに先へ進んでいた」(ベクテル氏)
この例が示すのは、柔軟性の重要性だ。小さく始め、素早く反復できれば、急速に変化する技術に追随しやすい。より早く価値を提供し、短期間で陳腐化する可能性のあるプロジェクトに時間を浪費せずに済む。
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